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症例46: 過呼吸…過換気…?

菊池智人

留萌(るもい)消防組合消防署

救急救命士


症例1

 平成18年2月、早朝の救急出動である。5時5分に傷病者の旦那から119番通報。
「○○町○丁目、○○ですが妻が過呼吸なので救急車お願いします。」

 通報の時から既に過呼吸という表現があり過去にも過呼吸症候群での病院受診や救急搬送がある事を思わせるものだった。

 5時06分出動
 5時16分現場到着
 5時23分車内収容
 5時24分病院到着

 要請先は市内2次医療機関の直ぐ側で徒歩100メートル程しかない距離だった。しかも救急要請の1時間前にこの2次医療機関の夜間外来で乳腺炎にて受診し帰宅したが、その後手指の痺れが起き様子をみていたが増悪し救急車を呼んだ。

現場到着時の様子

 31歳女性。寝室の布団の上に左側臥位。体動、歩行不可。JCS1-0
 顔面顔貌-正常。苦悶様。呼吸、脈拍-正常。瞳孔3mm, 異常なし。
 主訴-両上肢と手指の痺れ既往症、長期入院-なし。
 ビニール袋を自分で持ち口に当てていた。
 血圧117/72mmHg, 脈拍109/分、SPO2 97%

救急活動

 スクープストレッチャーに左側臥位、ビニール袋を持ったまま安静に病院搬送。ここまでの内容を見ても日常的によく遭遇する救急出動の一つである。しかし、病院に到着しベッド移動した直後から様態が一時的に急変した。血圧が低下、脈拍が増加、SpO2 88%と呼吸苦を訴えた。

 後日、傷病者引継書の診断を確認したところ過換気と書かれていた。

 傷病者宅が医療機関の直近だったため搬送時間が1分だが一般的な搬送時間の5、6分で搬送していれば車内で急変していたことになる。当直の初診医にも話してみたが原因は不明とのことだった。傷病者は1時間ほどして帰宅した。


症例2

 平成18年9月、深夜の救急出動である。0時41分に傷病者の妻から119番通報。
「○○町○丁目、○○ですが主人が胸を苦しがっている。救急車お願いします。」

 通信指令室からの情報では胸痛は激痛のようだった。心筋梗塞?大動脈解離?…といつものように頭の中を色々なものが巡りつつ到着した。

 0時42分出動
 0時44分現場到着
 0時53分車内収容
 0時57分病院到着

現場到着時の様子

 35歳男性。寝室の布団の上に腹臥位。体動、歩行不可。JCS1-0
 顔面顔貌-紅潮。苦悶様。呼吸、脈拍-正常。瞳孔3mm, 異常なし。
 主訴-胸部の激痛
 既往症-喘息長期入院-なし。
 血圧103/59mmHg, 脈拍122/分、SpO2 99%

救急活動

 スクープストレッチャーに左側臥位、安静に病院搬送。

 朝にも同症状があり市内の医院に受診し薬の服用で軽減していた。飲酒後睡眠中に突然の胸痛と呼吸苦が発症。

 後日、傷病者引継書の診断を確認したところ過換気と書かれていた。男性の過呼吸症候群にあたったことがなかった。搬送中、搬送後も過呼吸症候群ということは全く頭にない救急だった。傷病者は1時間ほどして帰宅した。


考察

 過呼吸症候群での救急要請は決して少なくなく、むしろ女性の救急要請では多いように感じている。過去の搬送からも常習性が高く年間に10回以上の要請があった例もある。常習性がある場合は医師からビニール袋の活用や呼吸法が伝えられているため、袋を握りしめて救急車を待つケースもある。また、口論などからの興奮状態からの発症も多く、特に夫婦喧嘩後の発症では不自然な静寂さが異様に感じることさえある。

 今も印象に残るのは、常習性があり年間に10回以上も救急車を呼ぶ50代後半の女性からの要請がなくなり、その4、5年後にその娘が同様に過呼吸症候群での常習要請者となったことである。

 常習性があっても観察を怠らず決めつけた行動はしてはならないと自分にも隊員にも言い聞かせ出動している。


解説

 過換気症候群は救急隊員ならば良く遭遇する疾患である。若い女性に多く、息が荒くなり、指先や口の周りがしびれたような感覚がおきる。また自分では空気が吸い込めないような感覚があり、それがさらに呼吸を荒くすることになる。重症では手の指が真っすぐに硬直し(テタニーという)意識レベルの低下をきたすこともある。さらに悪化すると症例1のように意識レベルの低下と無呼吸をおこす。この場合にも放置しておけば自然と回復するので問題はない。ただ端で見ている人間はあせるだろう。

 注意すべきは、これらと同じ症状が心筋梗塞などの重大疾患で起こることもあることである。ほとんどの症例は一目で見分けることができるが、それらわずかの重大疾患を見落とさないように、ちょっとでも変だと感じる時にはしっかり観察しよう。大多数の患者には背景となる疾病はなく発作回数も僅かだが、発作が頻回の場合やうつ病、パニック障害、強迫神経症などの精神疾患の随伴症状として生じている場合には精神科などの専門的な治療が必要である。症例2は、読む限りにおいてはパニック発作ではないかと思われる。パニック発作は、呼吸困難、頻脈、胸痛、発汗、震えなどがあり、心臓発作と類似する。本人は死の恐怖を味わうため救急車を要請することが多い。

 過換気症候群の治療としては症例にあるように紙袋を口に当てる方法が広く用いられる。救急車を依頼するような症例では抗不安役の投与が行われる。頻回に発作を起こす患者では発作の開始が分かるようになるので、患者自身が先手を打った対処ができるようになるのだが、紙袋を吸っても病院に担ぎ込まれてくるような症例は何回やってもかつぎ込まれる印象がある。これら常習者には経口抗不安薬の投与や心療内科受診を勧めている。


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06.11.2/9:23 PM