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特異事例第2回 2011年9月

クラゲ刺傷

講師
中尾陽平(なかおようへい)

所属:留萌(るもい)消防組合 留萌消防署  消防課 指令救急係
消防士拝命年:平成17年4月1日
出身地:札幌市
趣味:サッカー

はじめに

今回は過去の事例をもとにクラゲ刺傷について紹介します。

クラゲ刺傷事例は多くはありませんが、毎年全国で必ず発生しています。

お盆を過ぎた頃から事例が増えますので注意が必要です。

アメリカ心臓学会とアメリカ赤十字社による2010年版応急処置ガイドラインでは刺された場所をできるだけ早く食物酢で洗うことが推奨されています。クラゲ刺傷の多い地域では救急車に酢を搭載しましょう。

クラゲ刺傷とは

海水浴中や漁師の作業中にクラゲに触れることにより、クラゲの触手から出される毒針によってできる外傷をいいます。クラゲの種類によっては赤く腫れるだけで何も感じない場合がほとんどですが、種類、数、大きさなどによっては、アナフィラキシーショックによる呼吸困難・筋肉痛などをひきおこし、場合によっては死に至ることもあります。

症状の発生は刺されてすぐよりも約30分から1時間後に出現することが多く、低い位置の背部痛から始まり、続いて筋肉痛や手足の痺れを引き起こし、重症になると痙攣も起こします。

クラゲ刺傷の観察で重要なことは、刺された部位の特定・触手が皮膚に接触していた時間、刺されてからの経過時間です。また患者の最近の健康状態の聴取、及び最近服用している薬によって痛みが鈍くなる可能性もあるので薬の摂取状況の聴取も必要であり、医師への引き継ぎ事項として記録します。


事例1

海水浴場にて16歳男性がクラゲに刺され苦しがっているとの救急要請。

現場到着時、傷病者は砂浜に仰臥位、胸にクラゲによる刺傷痕があり赤くみみず腫れになっていた*1(写真1)。傷病者は意識清明。主訴は全身の痺れ、特に腰部に強い痺れを訴えていた。また刺されたクラゲの種類、刺されてからの時間は不明であり、最近の健康状態は良好、薬の服用は無かった。

胸部をクイックコールドにて冷やし*3(写真2)、ショック体位*4にて車内収容。車内モニターにてバイタルチェック実施、血圧150/86、脈拍59、Spo2 100%と血圧が高いこと以外は正常値であったため、酸素投与は行わなかった。搬送中に容態変化はなく医療機関へ到着。医師へ通報、観察内容引き継ぎ救急隊は引き揚げた。

現場特定の難しい海水浴場での活動であり関係者の適切な誘導、及びクラゲに刺されたという正確な通報、受傷部位の早期特定により重症とならずに済んだ事例です。

事例1解説

*1 受傷部位をむやみに触るとまだ体表面に残っている刺胞により、二次被害が起こる場合がありますのでよく観察し、刺胞が残っている場合はタオルなどで取り除きましょう。

*2 本事例ではクラゲの種類の特定はできませんでしたが、傷病者がクラゲを見ている可能性もあるので、積極的に傷病者本人や関係者からクラゲの特徴を聴取しましょう。

*3 受傷部位の痛みを和らげるには、コールドパックや温熱湿布が効果的ですが、傷病者が子供の場合は低体温症になることも考え、あまり冷やしすぎないようにしましょう。また温熱湿布は温めすぎると血管が拡張しクラゲの毒液が体内に入るための通路を開けてしまうので温めすぎないように気をつけましょう。食物酢については後述します。

*4アナフィラキシーショックではありませんでしたが、全身の痺れを訴えていること、刺されてからの経過時間及び医療機関への搬送時間を考慮し、ショック体位で搬送しました。


事例2

11歳の子供(男)が海で何かに刺され、意識はあるが胸が苦しいとの救急要請。

現場到着時、傷病者は帰宅途中の路上車内*5に座位、左鼠径部の痛み及び胸の苦しみを訴えていた(写真3)。

呼吸苦による咳き込みがあり、受傷部位が赤くみみず腫れが見られるが、口腔内の発赤及び腫脹はなし*6。以前に生物による刺傷経験*7もなし。最近の健康状態も良好で、薬等の服用もない旨聴取した。

本人より海水浴中に痛みを感じ見たところ、赤いコンニャクの様な物が左鼠径部に付着していたとの情報を得た*8。

また救急要請場所が海水浴場から離れた国道上であったこと、父親からの話から受傷してから約30分程度は経過していたと思われた。

クイックコールドにより受傷部位の冷却実施し車内収容、車内モニターにてバイタル測定血圧140/87、脈拍102、Spo2 96% 。用手による気道確保及び酸素投与実施したところから98%に改善した。酸素投与継続し医療機関へ到着。医師へ通報、観察内容引き継ぎ救急隊引き揚げた。

受傷してから時間が経過していたため、現場到着までに容態の悪化も考慮しましたが、口腔内の腫脹も全身の痺れもなく、重症とならずにすんだ事例です。

事例2解説

*5 救急要請場所が受傷現場から離れている場合は、現場を離れてから今に至るまでの時間経過を聴取し、ショック症状が現れているかどうかの観察が必要です。

*6 アナフィラキシーの場合、口周辺や口腔内の浮腫や発赤、気道狭窄が見られるので観察時に口腔内の観察を忘れないようにしましょう。また観察は一度ではなく継続観察が必要です。

*7 1度目の受傷より2度目3度目に受傷した時のほうが重症になる場合があります。以前に生物による刺傷経験があるか聞き出す必要があります。

*8 本人からの聴取により、クラゲの特徴が出てきた場合には、搬送医療機関の医師にしっかりと引き継ぐことが重要です。

日本近海に生息する代表的なクラゲ

ミズクラゲ(図1)
日本の海岸で最も多く生息しているクラゲです。刺されても強い痛みを感じることはなく、刺されたことに気付かないほうが多いようです。ただし、角質の薄い顔などを刺されると痛みを感じる場合があります。

カツオノエボシ(図2)
餃子のような形に長い触手があり、電気クラゲと呼ばれています。触れた直後に強い痛みが走り赤紫色に腫れます。酷い場合には水ぶくれになります。さらに症状が進むと頭痛、吐き気、呼吸困難が起こり、死亡する場合もあります。

アンドンクラゲ(図3)
カツオノエボシと同じ電気クラゲと呼ばれています。体は透明で海水中にいるのが見つけづらく気づいた時には刺されています。お盆時期に多く発生し、刺された場合には感電したような痛みがあり、蚊に刺されたような赤い斑点が現れます。刺胞毒がかなり強く死亡する場合もあります。

ハブクラゲ(図4)
沖縄近海に生息し、青みがかった透明な体で、移動速度が速く海水浴場での被害が多く報告されます。症状はアンドンクラゲと似ており、刺されると激痛が走り、強いかゆみを覚えます。まれに呼吸困難を引き起こし、刺傷痕は時間経過と共に水脹れれや壊死を引き起こします。沖縄では死亡事例もあります。

アカクラゲ(図5)
直径20センチほどの傘に赤い放射線状の縞模様が特徴。刺されると火傷のような痛みが走り、みみず腫れや水脹れ、時には呼吸困難を引き起こします。刺胞毒はそれほど強くなく、死亡することはありません。乾燥した刺胞が空中に漂いそれを人間が吸い込むとくしゃみを引き起こすことからハクションクラゲとも呼ばれています。

クラゲ刺傷の応急処置

できるだけ早く食用酢(ミツカン酢など4-6%酢酸溶液)で30秒以上しっかりと洗います。酢にはクラゲの毒を不活化させる作用と、刺胞からの毒針の発射を押さえる働きがあります。

酢が手元になく体表面に刺胞が残っている場合には素手で触らず、タオルなどで擦らないように取り除き、その後海水で洗い流します。真水で洗うと体表面に残っている刺胞から毒針が発射され疼痛を強くしてしまいます。

痛みには、耐えられるだけの高温の湯に20分漬けるのが最も有効です。湯がない場合には冷やします。

おわりに

クラゲ刺傷は数少ない症例です。だからこそ観察や聴取する内容のポイントをしっかりと覚えておきましょう。

管轄内に海がない消防本部の皆さんも、海水浴から帰って来てから発症する場合もありますのでご注意ください。

クラゲ刺傷に限らず、観察、問診、医師への正確な引き継ぎが傷病者の未来へとつながります。1人でも多くの生命を守りましょう。


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12.4.14/12:26 PM