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山岳登山中の外傷

利尻礼文消防事務組合 利尻富士支署
消防士長 藤原裕悦

講師 藤原裕悦
ふじわらゆうえつ
fujiwara.doc
利尻(りしり)礼文(れぶん)消防事務組合 利尻富士支署
出身:利尻富士町
消防士拝命:平成12年4月
趣味 読書


まず利尻(りしり)島のことについて説明します。

利尻島は稚内から西に約20kmの位置にあり人口は約6,000人、周囲が約68kmです。利尻山の標高は1721mで、頂上は夏場でも平均気温は10℃から15℃ですが、最低気温は4℃程度と低く、風が強ければ体感温度はさらに低下します。周りに遮るものが何もなく天候はとても変わりやすいので、下では晴れていても頂上付近では小雨が降っていることもあります。

登山口から頂上までの高低差は1500m以上あり、頂上までの所要時間は早い人で2~3時間、遅い人は4~5時間程度かかります。9合目から頂上までの道はスコリア(写真1)という軽石状の砂利がたくさんあってとても登りづらく滑りやすいため、体力が奪われます。

登山道は風雨や降雪など削られたり(写真2)、

細くなったりしていて頂上付近はとても危険です。(写真3)

登山ルートは沓形(くつがた)ルートと鴛泊(おしどまり)ルートの二つがあります。沓形ルートは7月上旬まで雪がありアイゼンなどが必要なため、上級者向けの登山ルートです。鴛泊は沓形と比べて危険な箇所が少なく比較的楽なルートなので高齢者や初心者は鴛泊ルートを選択して登るようです。そのため救助要請は利尻富士支署の管轄である鴛泊ルートからが多くなっています。

利尻の山岳救助

山で傷病者が発生した場合消防だけではなく役場職員も救助隊として一緒に行きます。利尻島には山岳救助隊はありません。消防職員だけでは人の力で下ろすときに人数が足りないので、まず消防職員が傷病者に接触・処置してから役場職員を待って一緒に傷病者を麓まで下ろし救急車で搬送、という流れになっています。
山岳救助には疲労・脱水で動けない症例と、怪我をして動けない症例に大別できます。

疲労や脱水の原因としては、利尻山は標高が低いから簡単に頂上まで行けると思ってしまうことです。しかし遅い人だと往復で10時間以上かかることもあるので、歩きつづけて疲れきってしまう人や長時間なので手持ちの水を飲み尽くし脱水になる人が出ます。

怪我の理由は先ほども書いたとおり、不安定な足場で滑りやすいため足や腕の打撲は頻回であり、さらに骨折になると救助が必要になります。

事例

初夏の夕方に救助要請。6合目で70歳代男性が左足を骨折して動けないとのことで召集されました。

利尻山の6合目は登山口から1時間ほどの場所でした。追加情報を消防から確認したところ、下山中に体勢を崩して転倒、左下腿の開放性の骨折と若干の出血がありますがバイタルサインは正常との報告を受けました。役場からは北海道警察(道警)ヘリを要請*1したとの報告もありました。

その日の天候はあまりいいとは言えなかったので、ヘリで搬送できなかった場合に備えて山岳救助隊を編成しました。

傷病者情報で開放骨折とのことだったので、救急用の装備は副子、弾性包帯、三角巾、クッションや緩衝材、精製水、消毒薬、ガーゼを持っていきました。

水分不足や熱中症の可能性も考え、スポーツドリンクやコールドパックなども持ちました。

先発隊として消防の山岳救助隊3名が出発し、少し遅れて役場の山岳救助隊が組み立て式の担架*2やライト・食料などを持って出発しました。

今回は道警ヘリから隊員1名が降下して応急処置をしました。私たち救助隊は到着直後から傷病者から受傷した情報などを聞き、呼吸・脈拍・血圧・熱などを測ったあと開放骨折なので感染を考慮し精製水などで泥などを流し、その後消毒してガーゼで被覆しました。下山時の動揺の痛みを軽減するためクッションと緩衝材でカバーして副子を添えて弾性包帯や三角巾で固定しました。処置後は道警ヘリで収容できる地点まで傷病者を搬送します。搬送中もバイタルサイン(熱)や傷病部位の痛みの程度などを調べました。

その後道警ヘリに収容され病院まで搬送されました。

解説

*1
ヘリ搬送だと救助から旭川の病院到着まで約1時間半ですが、背負ったり担架で搬送すると、車寄せまで約3時間、利尻の病院まで30分、利尻から稚内へフェリーで搬送1時間40分、稚内から旭川の病院まで約5時間、すべて合わせて10時間を越えます。フェリーは出港時間があり乗り遅れるとさらに時間は長くなります。

*2
搬送方法として考えられるのは背負っての搬送と役場職員が持ってきた組み立て式の担架での搬送の二つです。この二つにはメリットとデメリットがあり搬送方法は状況に応じて変える必要があります(表)。
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メリット デメリット
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背負って搬送: ○狭い登山道でも搬送できる ×負担が大きい×固定が難しい。 
担架で搬送:○負担が少ない○固定が出来る× 狭い登山道だと搬送が難しい×大人数が必要
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終わりに

何度か背負って下山しましたが、やはり傷病者への負担が大きいと感じました。傷病者の事を一番に考えるのであればヘリコプターでの搬送が選択されるべきだと思います。

救助を要請するのはほとんどが60歳以上の高齢者です。事故の原因の多くは登山者の装備不足や自分の体力を過信したために起こっています。どんな小さな山でもきちんと準備をしてから向かうこと、体力に見合った山を選択することが怪我を減らす方法です。


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12.4.14/12:24 PM