OPSホーム>症例目次>120215急性アルコール中毒

新連載
講座・特異事例

月刊消防のご購読はこちらから

急性アルコール中毒

講師

池田翔平
いけだしょうへい
ikeda.jpg
所属:渡島西部広域事務組合 松前消防署
出身地:北海道日高町
消防士拝命:平成21年4月1日
趣味:野球、スノーボード

はじめに

まず松前町について説明します。

松前町は北海道の最南端に位置し、かつては北の大地の政治、経済、文化の中心地として歴史的使命を果たしてきた地域です。

 松前町には2百50種、1万本の桜があり、その開花は1ヶ月におよび(財)日本さくらの会より「さくらの里」の称号を受けるなど、全国的にさくらの町として有名です。

 また北海道では唯一の城下町で、日本最後に建立された旧式築城の松前福山城が鎮座し町民の安全を見守っています。そのため、桜の咲く4月下旬から5月上旬にかけて松前福山城と全国屈指の桜を一目見ようと、道内外から数多くの観光客が訪れています(写真1)。 

アルコール中毒とは

アルコール中毒は、短時間に多量のアルコールを摂取することによって生じる中毒です。その症状には個人差がありますが、重症になると意識レベルが低下し、激しい嘔吐、低体温、血圧低下、頻脈をひき起こします。アルコールは脳を麻痺させる性質があり、呼吸や心拍数を制御する脳幹部や生命維持に関する脳の中枢部分に影響を与えるため、呼吸数減少や呼吸困難などの症状を呈し危険な状態になります。また、血中アルコール濃度が0.4%以上になると、飲酒後約1〜2時間でその半数が死亡すると言われています。

 意識障害が起こった場合、舌根沈下と嘔吐の症状がよくみられるため、特に呼吸状態をよく観察し、注意します。口腔内に吐物がある時には指で掻き出す、あるいは吸引器で吸引除去します。アルコールの体内への吸収は早く、最高血中濃度に達する時間は30分〜2時間と考えられるため、摂取した時間の確認も必要となります。

事例1

花見の時期となる、5月初旬に「坂の途中で男の人が倒れている。」との通りすがりの人からの救急要請にて出場。

現場到着時、傷病者は路上にて仰臥位で倒れており(写真2)、出血等の外傷はみられませんでした。呼びかけ反応はなく、痛み刺激に対しては反応が有り、意識レベルはJCSで桁であると判断しました。

直ちに呼吸・脈拍の確認を行ったところ、呼吸数は14回/分で脈拍数は橈骨で54回/分でした。瞳孔については異状がみられませんでした。顔貌は蒼白※1で、傷病者の呼気からはアルコールの匂いがしており、傷病者の右側には嘔吐物の痕跡を確認しました。一緒にいた家族より傷病者の情報を聴取したところ現病・既往症にあっては何もなく服用している薬もない※2とのことでした。

車内収容後に中濃度マスクにて酸素3L/分を投与。また、車内モニターにてバイタルの測定を実施して、血圧100/61、脈拍数は55回/分で、SpO2は97%と正常値でした。指先が冷たくなっていたため毛布で保温※3を行いました(写真3)。

搬送中はバイタルの経過観察を継続し、容態の変化はみられないまま医療機関へ到着し医師に引継ぎ、救急隊は引き揚げました。

後の医師からの診断名はアルコール中毒でした。

事例1解説

※1 血中アルコール濃度が少量だと、皮膚の血管が拡張し血圧も上がるため顔貌は紅潮となりますが、多量に飲むと血圧が下がり顔貌は蒼白となります。

※2 特に抗精神薬や睡眠薬との相互関係で毒性が高くなるため、薬剤を飲んでいないかの確認が必要となります。

※3 酒酔いによって寝込むと、体温調節中枢の抑制により低体温症になることも多いため、保温につとめます。

今回の事例では傷病者本人からは情報が得られず、近くにいた家族から現病・既往症は聴取できましたが、家族にいつから・何を・どの位の量を飲んだかについては聴取できませんでした。また、再度嘔吐することも考慮し、写真4の回復体位のように体位管理も必要であったと思います。

事例2

早朝の5時にスナックの従業員から「客が酒を飲んでいて、身体が冷たくなり様子がおかしい。」との救急要請にて出場。

現場到着時、傷病者は店向かいに停めていた車の助手席に座位でいました(写真5)。

呼びかけ反応には開眼するが、話そうとすると呂律が回っていない状態※1でいました(意識レベルはJCS30と判断)。直ちに観察を実施し、顔貌は蒼白で目立った外傷等はなく、嘔気・嘔吐もなく、失禁及び麻痺もみられませんでした。飲酒量については、前日夜から飲み始めたが量については分からないとのことでした。救急隊のストレッチャーには自力で乗り移って救急車内に収容。車内にてバイタル測定しSp02にあっては98%と正常値のため、酸素投与はおこないませんでした。血圧は厚着であったため測定されず、直近の医療機関へ収容となりました※2。

 その後すぐに、病院にて検査及び応急処置が行われ、転院搬送となりました※3。転院搬送の際には、接触時は意識レベルJCS。桁でおり、時折イビキをかいていました。

麻痺を確認すると右片麻痺がみられるようになっていました(写真6)。

傷病者を救急隊のストレッチャーに移動したところ嘔吐し、口腔内清拭の処置をした後に救急車内に収容しました。

収容後はバイタルの測定を実施したところ、血圧が199/119、脈拍数は54回/分でした。SpO2は93%と低かったため酸素は中濃度マスクにて3L/分の投与を実施しました(SpO2は98%に改善)。心電図での波形は同調律でした。バイタルの測定後に、搬送先病院へ現在の状況やバイタルの報告をして、現場出発しました。搬送途上においては2度の嘔吐がみられ、サクション及び口腔内の清拭の処置を行いました。その後、継続的にバイタルの測定を実施し、病態の変化なく医療機関へ到着し、医師に引継ぎ救急隊は引き揚げました。

 1次病院及び搬送先の医療機関では、いずれも診断名は左被殻出血でした。

事例2解説

※1 脳疾患であっても、アルコール中毒であっても呂律が回らなくなるため、判断が付きづらくなります。

※2 松前町の救急告示病院は、2次病院である町立病院が1件のみあります。

※3 1番近い3次病院あるいは緊急手術ができる専門機関の病院がある函館までは、約90分かかります。松前町では一旦町立病院に運び検査・応急処置を行った後に、転院搬送になります。
 道南圏においても、現在ドクターヘリ導入への検討が行われていますが、傷病者の早期治療による救命率の向上及び後遺症の軽減と、搬送時間の短縮が望まれます。

今回の事例では、当初は飲酒のしすぎによるものだとの先入観から脳疾患を疑う瞳孔や体温測定等の観察を怠り、そのまま飲酒によるものと判断し直近の2次医療機関に搬送しました。その後脳出血という診断が下されましたが、先入観にとらわれず要請内容や状況も情報の1つとして頭に入れつつ、バイタルや傷病者の状態から客観的な観察を行い、適切に判断し処置を行わなければいけないと感じた事例です。

終わりに

アルコールの多量摂取により、転倒した時や意識を失い倒れた時にケガをしていることもあるため、外傷や出血の確認を行います。また、患者は暴れていることも少なくないため、しっかり抑制したり、周囲の人と共になだめたりします。場合によっては、警察官の臨場も必要となります。

診断結果の異なる事例を2つ紹介しましたが、事例2で紹介したように脳疾患などが発症した時にたまたまお酒を飲んでいたという可能性もあるので、ほかに意識障害となる原因を検索する必要があります。


OPSホーム>症例目次>120215急性アルコール中毒


http://ops.umin.ac.jp/

12.4.14/1:32 PM