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120616スズメバチ刺傷

講師

名前:階上聡(はしかみさとし)
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所属:富良野広域連合富良野消防署占冠(しむかっぷ)支署
出身:北海道砂川市
消防士拝命:平成18年4月1日
趣味:バイク、スノーボード

I はじめに

 『講座・特異事例』第3回目は、蜂刺傷によるアナフィラキシーショックについて解説をします。

 単に蜂刺傷といっても症状は様々であり、またアナフィラキシーショックは蜂以外の外因物質によっても引き起こさるため、判断が難しい症例もあります。

II.アナフィラキシーとは

 ハチ毒や食物、薬物等が原因で起こる、急性アレルギー反応のひとつです。アナフィラキシーは、じんましんや紅潮等の皮膚症状や呼吸困難・めまいに続き、血圧低下等の血液循環の異常から意識障害・ショック症状を引き起こします。この他にもラテックス(天然ゴム)によるアナフィラキシーが注目されています。

III.事例

 蜂に刺されて意識がないとの通報により出動。

↑実際の写真

 現場は、救急車停車位置より約350m線路沿いに進んだところ(写真1-4)であり、

傷病者の位置

関係者によりCPRが実施されていました(写真3)。初期評価を実施したところ、意識レベルJCS300、呼吸・脈拍はなし。CPAを確認し、救急隊員によるCPRを実施しました。

 なお、顔貌は褐色(窒息様)、発疹はなく、刺傷部位は判りませんでした。
蜂刺傷によるアナフィラキシィーによるCPAを疑ったため、喉頭浮腫を考慮し、気管挿管*1及び静脈路確保の具体的指示要請を行いました。

実際の写真

 また、現場では蜂が飛んでおり(写真4)2次災害の恐れ*2があったため、関係者に蜂からの安全確保を依頼し、救急車までの移動距離を踏まえ、バックボードに固定、現場にて気管挿管を実施しました。

 搬送開始し、関係者と協力し6名で搬送していたところ、BVMに抵抗があり、吸引を実施しましたが変わらなかったため、気管内チューブを抜去し、用手による気道確保で人工呼吸を継続しました。

 搬送間のCPRは4回(1回4サイクル)を実施し、救急車内収容まで10分かかりました。

 車内収容後、喉頭展開を実施し、喉頭浮腫が見られ声門部の確認ができなかった*3ため、気管挿管を断念し、食道閉鎖式エアウェイ(スミウェイWB)による気道確保に切り替えましたが、BVMに抵抗があり、食道閉鎖式エアウェイを抜去し、用手による気道確保で人工呼吸を実施、継続しました。

 静脈路確保を実施後現場出発。具体的指示要請を行い、薬剤投与を実施し、Vf様波形を確認。車両を停車し解析をしましたが、適応外のためCPRを継続し、様態変化のないまま搬送先医療機関へ到着しました。

 医師及び看護師が救急車内に乗り込み、処置を継続実施しましたが、残念な結果で終わってしまいました。


写真1,2
現場写真

写真3
傷病者の位置

写真4
蜂の巣


IV.事例解説


*1
気管挿管適応症例としてプロトコールの(4)指示医師が気管挿管を必要と判断した症例。今症例ではアナフィラキシーによる毛細血管透過性による喉頭の浮腫(上気道閉塞)が考えられたためです。
*2
通報内容により、蜂刺傷事案が疑われる場合は、必要に応じて殺虫剤を携行します。また、感染防止衣を上下着用し肌の露出を極力少なくします。
*3
最初に蜂刺傷にあってから、救急隊が傷病者に接触するまで約50分たっており、時間経過とともに喉頭浮腫が出現しました。
気道平滑筋の収縮(下気道閉塞)により、食道閉鎖式エアウェイでも換気抵抗があり用手による気道確保での人工呼吸となりました。


V.自己注射が可能なアドレナリン製剤(エピペン)について

 

 アナフィラキシーショック症状が進行する前の初期症状(呼吸困難などの呼吸器の症状が出現したとき)のうちに注射することが効果的です。(写真5,6)

(1)薬効・薬理

化学的に合成した副腎髄質ホルモン(アドレナリン)を含有しており、交感神経のα、β受容体に作用します。
a.循環器系に対する作用
心拍数増加、心収縮力増強、心柏出量増大、
冠動脈の拡張、末梢血管抵抗増加による血圧の上昇
b.血管以外に平滑筋に対する作用
気管支の拡張

(2)救急救命士のエピペン使用について

 アナフィラキシーショック等で生命が危険な状態にある傷病者があらかじめ自己注射が可能なアドレナリン製剤(エピペン)を交付されている者で本人や家族が実施困難な場合に救急救命士が本人に代わって注射することができます。

 これまで救急救命士は、心肺機能停止の傷病者に対してのみ薬剤投与が認められてきましたが、厚生労働省による通知改正によって、エピペンを予め処方されている者という条件はあるものの、心肺機能停止前の傷病者に対する薬剤投与が初めて可能となりました。


(3)使用手順
a.エピペン貼付の連絡シートにより傷病者本人のものであることを確認します。
b.収納ケースのキャップを回しながら外して、注射器を取りだします。
c.エピペンの薬液・容量は努めて2名以上で確認する。また、使用期限、薬液の変色や沈殿物等を確認します。
d.エピペン穿刺部分の左右大腿部前面外側を確認します。
e.エピペンの両端に指や手を当てることなく中央部をしっかりと持ち、灰色の安全キャップをはずしエピペンの先端方向(黒色)を確認します。
f.穿刺部位に直角に強く押し当て刺します。そのまま5秒間刺し続けます。
g.エピペンを抜いて先端から穿刺針が出ていることを確認し、ケースに入れ、数秒間穿刺部位を揉みます。
h.使用したエピペンはケースに保管し、搬送先医療機関に引継ぎます。

写真5,6
エピペン


VI.危険と隣り合わせ

 蜂刺傷の現場は蜂が多数飛び交う、救急隊にとっては最大の修羅場です。救急隊員は蜂の専門家ではありません。殺虫剤と網を持っての丸腰の無防備状態で突入するのです。

 普段は消防職員としての「使命感」に突き動かされて仕事をしています。ですが、蜂が相手となると、この時ばかりはアドレナリンは下降気味です。頭の周りで飛び交う蜂。傷病者が倒れている。しかし「行かねばならぬ」・・・・自分が選んだ道ですから。

 現状は「蜂に刺されても大丈夫だろう」という認識で活動していますが、間違いが起こる前に公的にアレルギー検査を受ける体制の構築を望みます。


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12.6.16/9:41 AM