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120721水上バイク・サーフィンによる事故

講師

斉 藤 真 生
所 属:留萌消防組合消防署 小平支署
出身地:羽幌町
消防士拝命:平成20年4月1日
趣 味:野球、フットサル

特異事例

水上バイク・サーフィンによる事故

1.はじめに

 全国各地域で、夏のシーズンになると海水浴場、池や川辺といった、水のあるところで起こるさまざまな水難事故が多く発生します。北海道は海で囲まれており、当消防本部の管轄地域である小平町も夏のシーズンには海水浴場が賑わっています。その中で、熱中症、バーベーキューなどでやけどや食中毒、サーフィン、水上バイク等による事故、遊泳中の溺水など事故が発生しています。今回は水難事故の中でも水上バイク、サーフィンによる事故の事例を紹介します。

2.水上バイクによる事故

写真1
水上バイク

 初心者の不慣れな操縦や無免許者の無謀操縦による、『衝突事故』、『落水事故』が多く発生しています。

写真2
操作部分にブレーキがついていない

 水上バイクに特徴的なのはブレーキがないことです(写真2)。水の抵抗を利用して停まる仕組みになっているため、ブレーキに必要な距離感を知っておかなければオーバースピードで衝突事故が発生しまいます。もちろんバイクというだけあってかなりのスピードが出ますし、万が一、他の遊泳者にでも衝突したら高エネルギー事故に繋がる大事故になります。

 また、水上バイクには舵がありません。エンジンを間違ったタイミングで切ってしまうと方向転換するための推進力が働かなくなり、ハンドルを切っても曲がらずにテトラポットへの衝突なども見られます。

 事故の負傷状況は約30%が頭・頚部外傷であり、軽度であれば打撲程度で済みますが、意識障害や頸椎損傷、外傷性クモ膜下出血といった重体になりうることも少なくありません。

3.水上バイクの事例

 8月初旬、覚知16時05分。ガソリンスタンドに務める職員の通報で、「スタンドの前で水上バイクが横転して人が浮いている状態なので、救急車の出動をお願いします」とのことでした。詳細は不明でしたが、救急車の出動と共に海上保安庁及び水難救難所へ連絡をしました。

 現場到着時、沖合い50mで浮いている要救助者2名を確認しました。覚知から約20分後、水難救難所が所有する漁船にて2名を救出、漁船が入港後、ただちに暖房を入れた救急車内へ収容し観察実施。2名とも意識レベルはクリア、全身観察の結果、外傷なし、シバリング状態でした。着衣を脱がしアルミックシート及び毛布にて保温しました。

 バイタル測定の結果、1名は脈拍110回、血圧103/83mmHg、Spo2-94%、鼓膜体温32.0℃と低体温状態。もう1名にあっては脈拍97回、血圧105/80@Hg、Spo2-93%、鼓膜体温34.0℃と低体温状態。2名に中濃度酸素5L投与、継続観察を行いながら、病院へ収容しました。

 現場の状況は風がやや強く、波の高さは1?2mと時化た状態。傷病者によると約1mの波に対し水上バイクで横切ったため、波の勢いに押されて落水したとのことでした。水上バイクはそのまま波に流され海岸に着いたそうです。

 傷病名は2名とも低体温症(※1)でした。

解説

※1 低体温症
 中心部体温が35℃以下を低体温と呼び、30℃以上を軽中度、30℃以下を高度低体温と呼び、体温が下がることで様々な病態学変化が見られます(表1参照)。35℃になると、体温の放熱を防ぐため、振戦(シバリング)により体温を維持しようとします。これを寒冷反応であり、酸素消費量は普段の3?6倍にも増加しますので、気道の確保・酸素投与は必須になります。但し、低体温時のパルスオキシメーターによる測定は、末梢血管が収縮していて正確な数値を拾うことは困難である為、過度の酸素投与には十分注意しましょう。

※表1 低体温による生理学的変化
hyou_01.xls

4.サーフィンによる事故

 事故に多いのが、知らないうちに流され漂流してしまったり、サーファー同士の『接触事故』やテトラポットへの『衝突事故』が多く発生しています。その他にも、高波に巻き込まれたり、落雷によって死亡した事故等も過去には発生しているようです。これらの原因として初心者の知識・技能不足、気象や海象への不注意、周囲へのマナーの悪さ等が多く見られます。

 負傷状況のほとんどが外傷であり、特に他のサーファーのボードに接触し顔面を縫う事故や、テトラポットに衝突して骨折をするといった事故が多く見られます。

5.サーフィンの事例

写真3
事故現場の想定写真

 8月中旬、覚知13時23分。一緒に遊泳していた友人からの通報で「友人の○○がサーフィン中にテトラポット(写真3)で顔面を負傷したので救急車をお願いします」とのことでした。

 現場到着時、傷病者は友人2名により砂浜まで移動していました。観察を実施するも意識レベルはクリア、右顔面部(前額部、右頬部、下顎部)の擦過傷、打撲痕がみられ、頸部に痛みを訴えていたためネックカラーを装着、頭部を動かすと四肢へのしびれが認められたとのことでした。寒気も訴えていたので、車内収容を優先し、車内にてウェットスーツを脱がせアルミックシート及び毛布にて保温を実施。バイタル測定の結果、脈拍94回、血圧90/65@Hg、Spo2-95%、継続観察に努め、病院へ収容しました。 

写真4
再現:波に流されてテトラポットに衝突した

 現場の状況は風が強く、波が荒い状態でした。傷病者より、一旦沖に流され、戻された際にテトラポットに衝突(写真4)し負傷したとのことでした。

 傷病名は頸髄損傷(C6−C7)(※2)、顔面打撲でした。

解説

※2 頸髄損傷
 人の脊柱は上部から頸椎(C1-7)、胸椎(Th1-12)、腰椎(L1-5)、仙椎(S1-5)、尾椎(1)に分けられますが、損傷個所が上部に行くほど、障害のレベルは高くなります。C3?5では横隔神経を支配するもので自発呼吸ができなくなります。C5?6では上腕二頭筋や三角筋を支配しているので、障害されることで自力で肘が曲がらなくなったり、手首の背屈ができなくなったりします。特に頭部・顔面損傷ではC6の頸髄損傷が多く見られます。

6.考察

 事例1にあっては、事故発生時を町民が発見し早期の通報であったため、救出に多少時間がかかったものの、早い段階で病院へ収容できたことが幸いだったと言えます。夜になるにつれて海水の温度も下がることから、救出がまだ夕方であったというのも大事に至らなかった要因と言えます。

 事例2にあっても、事例1同様に早期の発見及び通報であったことや、衝突事故による頸髄損傷(C6-C7)でしたが、呼吸機能に障害がみられるC3-5の損傷にまで至らなかったことが幸いだったと言えます。


7.おわりに

 今回、水上バイクやサーフィンによって起こる事故を掲載させていただきました。特に若年層の初心者による事故が多く、機械の理解や天候への注意力、マナーに欠けていることから多くの事故が発生しています。

 これから夏から秋にかけて水上バイクに乗る方やサーフィンを始める方が増えてくると思います。これを機会に海の事故に対して救急活動の視野を広げていただけると幸いです。



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12.7.21/1:11 PM