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130408温泉浴場での事例

講師

畑正章

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所属:釧路北部消防事務組合弟子屈(てしかが)消防署川湯(かわゆ)支署
出身:川上郡弟子屈町
消防士拝命:平成22年4月1日
趣味:読書、釣り

川湯温泉は、北海道東部のほぼ中央に位置し、周辺には世界有数の透明度を誇る摩周湖、日本最大のカルデラ湖である屈斜路湖、

現在も火山活動を続け噴煙をあげる硫黄山など大自然が広がる北海道でも有数の観光地です。

 四方を山々に囲まれた川湯は、盆地状の地形のため寒暖の差が激しく、夏は30℃を超え、冬はマイナス30℃を下まわる日があり、その差は60℃以上になります。しかし、この厳しい寒さは神秘的な現象を生みだします。大気中の水蒸気が凍り太陽の光が当たるとキラキラ輝く「ダイヤモンドダスト」、屈斜路湖が全面結氷すると氷が2mほど隆起し、神様が渡った跡とされる「御神渡り」が見られます。

また、硫黄山の麓には100haもの白エゾイソツツジの群生地が広がり、初夏には白い花が咲き、一面を覆いつくします。

川湯は昭和の大横綱大鵬が少年時代を過ごした地でもあります。その華々しい活躍を今に伝える川湯相撲記念館には、多くのファンが訪れています。

川湯温泉は、その豊富な湯量から「源泉100%かけ流し宣言」をしています。泉質は酸性明礬詮で、非常に酸性が強いため金属類の腐食が激しく、目や傷口にはしみますが、殺菌効果があるといわれています。そのため古くから湯治場としても知られています。温泉街には温泉が流れる温泉川があり、そこから立ちのぼる湯けむりと漂う硫黄の香りが温泉場の雰囲気をさらに引き立てます。
 

温泉街ということで、団体・個人・家族連れ・修学旅行生など老若男女問わず様々な人々が川湯温泉を訪れます。そのなかには、持病を抱えていたり、アルコールを過剰に摂取、長時間の入浴、浴場で足を滑らせ転倒するなどして、救急要請となるケースも多々あります。そのなかで、私が経験した事案をいくつか紹介したいと思います。

写真1
温泉街中心を流れる温泉側

写真2
雲海に浮かぶ硫黄山


事例1:低血圧

北国の花が一斉に咲き乱れる6月下旬、川湯温泉のあるホテルの従業員から「風呂場で人が倒れている」*1と救急要請があり出動。

写真3
搬送中、意識回復した傷病者

現場到着時、傷病者はホテル大浴場の洗い場に仰臥位の状態でした。観察すると、呼びかけに開眼する状態で意識レベルはJCS I-10 *2、呼吸37回/分、脈拍119回/分でした。通報者から状況を聴取したところ、発見時は浴槽に浸かっていた状態で、他の入浴者が洗い場へ移動させたとのことでした。搬送中に意識が回復した傷病者本人からは「1時間くらい入浴をしていたが途中で気を失った」と聴取しました。また、「ここ一週間くらい道内各地を巡り、疲れが溜まっており風邪気味だった」とのことでした*3(写真3)。

車内収容後、バイタル測定すると、呼吸37回/分、脈拍119回/分、血圧は159/70で体温は39℃、Spo2は85%であったため、中濃度マスクで酸素5L投与。皮膚は暖かく傷病者自身も熱感を訴えていました。

搬送中はバイタル測定及び経過観察を継続。Spo2は96%まで改善し、意識も清明となり医療機関に到着、医師に引継ぎ、救急隊は引き揚げました。
後の医師からの診断名は温泉による血圧低下でした。

事例1解説

*1脳疾患なのか、循環器疾患なのか、それ以外かを考えながら観察し、なぜ意識消失になったのか考えながら活動することが大事だと思います。仮に脳疾患であればドクターヘリ要請も視野に入れながら処置をします。搬送中は嘔吐など様態変化に注意します。

*2既往歴から糖尿病の可能性も考えます。インスリンを打っているのか、食事はちゃんととっているか、低血糖を疑う事も重要です。

*3今回の症例では、傷病者本人から既往歴等の情報が得ることができ、また傷病者が浴槽で気を失っていた時、幸い顔が浴槽のお湯から出ていたとのことでした。診断では温泉による血圧低下でしたが、意識消失や既往歴等の情報を踏まえ、何か重い疾患があるのか先入観を持たず観察をしながら搬送します。



事例2:大腿骨頸部骨折

写真4
浴場の床は滑りやすくなっています

夏が終わり秋の到来を感じる9月初旬、「宿泊客が大浴場で足を滑らせ転倒した」(写真4)*4と地元ホテルから救急要請があり出場。

写真5
傷病者をバキュームスプリントで固定

現場到着時、傷病者は関係者等の介助により車椅子に座っている状態でした。傷病者に状況聴取したところ、「浴槽から出るときに足を滑らせ転んだ*5。自分で歩くことはできない」とのことでした。主訴は右鼠径部痛。観察すると他に外傷等はみられませんでした。受傷状況と主訴から大腿骨骨折を疑い、バキュームスプリントで全身固定*7(写真5)を実施後、車内収容しました。搬送先は、地元の救急告示病院*6に決定しました。

搬送中のバイタルは安定しており、右鼠径部の疼痛を訴えていました。

病院到着後、X線撮影が行われた結果、右大腿骨頸部骨折と診断され、約70km離れた別の二次救急医療機関へ転院搬送となりました。

事例2解説

*4大浴場の床は滑りやすく、老若男女問わず転倒して受傷、救急要請となる事例が見受けられます。

*5特に高齢者では、加齢による様々な生体機能の低下、慢性・変性疾患等により、外傷を重症化させ、中枢神経の衰えは外傷を生みやすい特徴があります。

*6弟子屈町の救急告示病院は、2次病院が1件であり、最も近い3次病院または緊急手術ができる専門病院までは、当支署から約90分かかります。

*7本事例では、大腿骨骨折を疑い疼痛軽減のため、バキュームスプリントで全身固定を実施し搬送しました。骨折部位によっては出血量が多くなり、出血性ショックとなる場合もあるので、受傷部位の固定やバイタルサインにも注意しなければなりません。病院までの搬送時間が長時間に及ぶ当支署では、継続的な観察、処置確認の大切さを再認識させられる事例でした。




事例3:サウナに入っていた時に意識障害を発症した観光客

温泉が心地よく感じる1月上旬の夕方、川湯市街のホテルより「宿泊客の男性(80歳代)がサウナで意識を失っている、呼吸はしているようだ」とのホテルフロントからの通報を受けました。通信員からはフロントへ傷病者をサウナ内から脱衣所に移動するよう指示しました。

写真6
救急隊接触時の傷病者の状態

現場到着時、傷病者はサウナ内から脱衣所に移動されており(写真6)、仰臥位の状態。観察すると、意識レベルJCS-300、GCSがE1・V1・M1の合計3点、顔色は正常ですが、表情は無表情、呼吸40回、脈拍120回、血圧は測定不能、SpO2 92%、発汗あり、除細動モニター上洞調律を確認。現場にいた関係者から状況を聴取したところ「お酒を飲んだ後にサウナに入った。どの位入っていたかは不明」「飲酒量*8はワンカップ3本と焼酎の水割り1杯*9」「脳梗塞の既往歴あり」とのことでした。

写真7
酸素をリザーバー付酸素マスクで10L投与

酸素をリザーバー付酸素マスクで10L投与し車内収容しました(写真7)。

収容後、回復兆候あり。意識レベルJCS-10、GCSがE3・V1・M6合計10点。呼吸36回、脈125回、血圧99/55、SpO2 97%(酸素10L投与)、体温38.1℃。四肢に麻痺等は認められませんでした。両腋下にアイシングを実施して搬送を開始しました。
搬送中に意識清明となり*10、直近医療機関に到着。医師からの診断名は脱水症で、中等症でした。

事例3解説

*8温泉場のホテルということもあり、飲酒に関連した救急要請は多々みられます。

*9アルコールの脱水作用は強く、体内の水分を奪い、尿を生成して体外に放出します。3.飲酒後にサウナや風呂に入ると、血中アルコール濃度を上昇させ、脱水症状も加速させます。

*10本事案は接触時、傷病者の意識状態が悪く主訴等聴取できないため、脳疾患や心疾患等を疑った症例でした。現場にいた友人から飲酒後のサウナ、脳梗塞の既往があるとの情報を得、脱水も考慮して搬送しました。この方は、幸い発見が早かった為、事なきを得ましたが、入浴時間帯が深夜早朝だと最悪のケースとなっていたことも予想されます。仲間などと会食、温泉に入って楽しいひとときを過ごすのは、よい思い出となるでしょう。しかし、このような不幸な事故を防ぐためにも、飲酒はほどほど、飲酒後の入浴は控えて欲しいと思います。


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13.4.8/9:33 PM