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131109漁船で秋に起きた事例




講師紹介

名前:清野篤史(せいのあつし)
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所属:釧路東部消防組合 浜中消防署
出身:浜中町
消防士拝命:平成12年6月1日
救急救命士資格取得:平成12年5月11日
趣味:スペンランカー(TVゲーム)


釧路東部消防組合浜中(はまなか)消防署の清野(せいの)篤史と申します。どうぞよろしくお願いいたします。


はじめに

浜中(はまなか)町は北海道の東部に位置し太平洋に面しており、日本で3番目の面積を誇る霧多布(きりたっぷ)湿原(写真1:霧多布湿原)を有する自然豊かな風光明媚な町です(写真)。

昨年6月に北海道から発表された巨大地震による津波浸水予測では、琵琶瀬地区(私の実家があります!)に34.6mという国内最大級の津波が押し寄せると想定された町でもあります。

1次産業を基盤とした町でもあり、沿岸部は昆布漁(写真2:昆布漁出漁の様子)やウニの養殖業などの漁業が盛んで、内陸部の多くは酪農業が営まれており浜中の牛乳(写真3:浜中はの牛乳の一大産地です)を主原料とした乳製品は有名アイスクリームブランド『ハーゲンダッツ』として全国で親しまれています。

人口6,349人(平成25年6月30日現在)、面積423.44Iで釧路町、厚岸(あっけし)町そして浜中町の3町で構成されている釧路東部消防組合に所属しています。

今回は、秋に起きた漁業に関わる事例について紹介します。

漁業での事故は、多くが沖合で操業中に機械に捲き込まれて起こる外傷事故で、重症外傷であることが特徴です。

一般的に沿岸より遠く離れている場合は、海上保安庁への通報を考慮するようですが、沿岸付近で操業している場合は、帰港を第一前提に携帯電話等における消防への通報が多く、陸上で発生した場合と異なり、救急隊に接触するまでの時間が遅延し、受傷してから初期治療までの時間が大幅に遅れ、ケースによっては致命傷になりうるということです。


事例1


琵琶瀬(びわせ)漁港でウニ養殖作業中の男性が負傷したと同業者からの通報で詳細不明。
現場は消防署から直線で南西に4.5kmの位置にある漁港。

救急隊現着時、傷病者は漁港に接岸した磯船の上に座位で知人に抱えられていました(写真4:座位で知人に抱えられていた)。

救急隊員が船に乗り込み初期評価を開始。意識清明で右腕の激しい痛みを訴え(写真5:右腕の激しい痛みを訴える)、気道開通は良好、呼吸はやや早く、脈拍は左の橈骨動脈での触知が可能。苦悶表情で顔色は蒼白。

受傷部を確認すると右前腕に大きな開放性の骨折が見られ皮膚のみで連続性が保たれている状態(図1:右前腕に大きな開放性の骨折)(*1)で、幸いにも出血はほぼ見られず自然止血している状態でした。全身観察の結果、受傷部は右前腕のみ、出血は止まっていたため、滅菌ガーゼで創部を被服保護し副子と三角巾を使用して固定処置を行いました。

車内収容後、受傷状況を傷病者と関係者から聴取(*2)すると、湾内のウニ養殖施設でウニの入った籠を磯船のドラム(巻上機)で引き上げる際に右腕を巻き込まれ負傷した(写真6:巻上機に右腕を巻き込まれた)とのこと。受傷したのは推定で消防覚知23分前。また、傷病者は1人で操業しており、受傷した際に周囲に僚船もなく、自ら船を操船して漁港に向かっていたところ、異変に気付いた知人が船で近づき傷病者の操船を代わり、漁港到着後に通報に至ったとのことでした。

受傷機転は、当時ゆったりとした上着を着用し作業していたため、袖部分がドラムに巻かれてしまったのではないかとのことでした。

収容後のバイタルは、血圧143/74、脈拍87回/分、SPO?97%(酸素投与リザーバ付フェイスマスクで10P酸素投与し100%となる)。隣町の二次医療機関へ搬送し応急処置の後、三次医療機関へ転送となりました。(*3)後の医師の診断名は右前腕不全切断でしたが、右腕の再建術が成功し漁業への復帰を果たしています。

事例1解説

*1
身体の一部が完全に身体とは何のつながりもなく切離したものが完全切断であり、完全に切り離されていないが、血行再建を行わなければ壊死に陥る場合が不全切断です。本事例では不全切断と判断されます。

*2
傷病者からだけでなく、時間があれば状況を把握している関係者(家族や同僚等)から聴取できれば後々有益になります。

*3
浜中町には内科系一次医療機関しかなく、二次医療機関は隣町の厚岸町にあり搬送時間は約30分、三次医療機関は厚岸町、釧路町の2町を跨いだ釧路市にあり搬送時間は約1時間強かかります。それらを考慮した上で一旦応急処置を目的に町立厚岸病院への搬送を決定しました。

事例2


海上でサケマス定置網漁の作業中に作業員1名がドラム(巻上機)に巻き込まれたとの通報。現場は消防署から直線で南西に9.6kmの位置にある漁港。


救急隊現着時、傷病者は漁港に接岸した定置網漁船の甲板に座位でいました。初期評価で意識、呼吸は正常でしたが、右膝関節に開放性の骨折が確認され(図2:右膝関節に開放性の骨折)、

同僚によってロープを止血帯とした止血((写真7:ロープが巻かれていた)*1)が行われていました。

全身観察の結果、右膝関節の受傷部以外にも右側頭部、右肘、右骨盤(*2)付近にも痛みを訴えたため、全脊柱固定を実施し車内収容。ロープによる止血帯を三角巾に替え(写真8:三角巾による止血)、

副子を用いて下腿部を固定、ガーゼと三角巾で創部の被覆保護を行い(写真9:副子による下肢の固定)現場を出発しました。受傷部の出血は持続していて止血帯の緊迫を解除すると活動性の出血が見られました。

受傷機転は、定置網を機械で巻上げている際に右足に網が絡まり、そのまま巻上機の中に引き込まれた(写真10:網の巻上げ中に右足が網が絡まった)とのことでした。

収容後のバイタルは、血圧132/58、脈拍60回/分、SPO?98%、呼吸28回/分。受傷状況から三次医療機関である市立釧路総合病院への直接搬送(*3)を判断しました。1時間強の距離を容態変化に注意しながら搬送し、病院到着後、医師へ引継ぎ帰署しました。

後に傷病者は、右膝関節の再建術が困難と判断され切断を余儀なくされました。

事例2解説

*1
止血法には、第一選択である直接圧迫止血法の他に、中枢側の動脈を圧迫する止血点止血法や今回同僚の方が行った止血帯法があります。これらは直接圧迫止血法の効果が不十分な場合に考慮するもで、積極的に行うものではありません。また止血帯法については以前まで住民への救命講習でカリキュラムに含まれていましたが、行い方によっては神経損傷や出血を逆に助長させる危険もある事から現在は行われていません。

*2
骨盤骨折が疑われる所見として、骨盤動揺、下肢長差があり、骨盤骨折が疑われる場合、原則的にログロールは行わずログリフトによりバックボードへ乗せます。この事案もログリフトを行いました。

*3
このような外傷重症傷病者の搬送医療機関を選定する際、『直近の医療機関』ではなく『重傷外傷に対して適切な対応が出来る医療機関』を選定することを『トラウマバイパス』といいます。本事案では事前に二次医療機関の外科医に助言を求め、重症度等を考慮し直接三次医療機関への搬送を判断しました。

おわりに

漁業に関する救急事案では、このような機械事故等の特異な事例が多く、また重症度が高いのが特徴です。今回紹介した2つの事例では既に受傷部が機械から外れていましたが、通報内容によっては救助隊との連携が必要になりますし、救助に時間を要するならば現場への医師派遣も考慮すべきでしょう。また、この2つの事案を経験した時代は、ドクターヘリが運用されていませんでしたが、現在ならば直ちに要請を行うでしょう。
最後に『JRC蘇生ガイドライン2010』から『救命の連鎖』に新たに『心停止の予防』が組み込まれました『予防』という部分では今回紹介した漁業に関する事案にも防ぐことのできるものがあると私は考えています。救命講習会では、職種に応じた危険性を考察させ、事故事例の紹介、操業中に起こり得るケースに基づいたシナリオでの処置方法を学んでもらうことも予防のひとつといえるでしょう。 


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13.11.9/11:50 AM