OPSホーム>症例目次>140615 ドクターヘリを要請した高速道多数傷病者事案

講座・特異事例

月刊消防のご購読はこちらから




「ドクターヘリを要請した高速道多数傷病者事案」

プロフィール
氏名:濱畑 貴晃(はまはた たかあき)
hamahata.jpg
勤務先:宮崎市消防局 宮崎市北消防署
出身地:宮崎県都城市
消防士拝命:平成2年4月
救急救命士合格:平成15年4月
趣味:ボクシング、マラソン、映画鑑賞


1 はじめに

宮崎県は九州東南端に位置し、南国情緒あふれる気候から「太陽と緑のまち」と呼ばれ、プロ野球やJリーグなどのキャンプ地としても知られており、

春のシーズンになると多くの県外客が訪れています。

また、原風景・高千穂など多くのスピリチュアルなスポットがあり、

平成24年に「古事記編さん1300年」、

また平成32年には「日本書紀1300年」を迎え、天孫降臨・日本発祥の地として各種イベントが行われております。(神楽の舞いと高千穂の写真は高千穂町観光協会提供)

私が所属する宮崎市消防局は、管内人口約43万人、総面積約870Iで、職員数322名、1本部2署1分署6出張所を配し、隣接する国富町・綾町から委託を受けた1市2町の広域消防業務を行っています。

 さて、平成24年4月、宮崎大学医学部附属病院を基地病院とした“宮崎県ドクターヘリ”が運航開始となりました。今回は、当市消防局管内で発生した“ドクターヘリを要請した多数傷病者事案”について報告いたします。


2 概要

事故概要 宮崎市内の東九州自動車道上で普通自動車同士が正面衝突し、双方に乗車していた計10名が受傷
事故発生日時 平成xx年xx月xx日午後
場所    宮崎市内 東九州自動車道
通報内容  「車両が大破して負傷者が多数いる」
出動車両 宮崎市消防局 救急車7台 消防車5台(指揮車、調査車、タンク車、救助工作車、支援車)
西都市消防本部 救急車2台 救助工作車1台(東九州自動車道における消防相互応援協定による出動)
宮崎県ドクターヘリ1機
負傷者数 10名(重症4名、中等症2名、軽傷2名、死亡2名:初診時傷病程度)

○詳細 

写真2
事故現場の航空写真

本事案の概要は、宮崎市内から北へ進んだ東九州自動車道上の中央分離帯のない対面通行区間で、北進中のA車両(ハッチバック車)が対向車線にはみ出し、南進中のB車両(ミニバン)と正面衝突したものです。(写真2)


○先着救急隊活動状況

第一次出動指令として、直近の出張所である中部救急小隊及び中部タンク小隊(業務出向中)並びに東分署救急小隊の救急車2台、消防車1台の計3台が出動しました。

車両A

中部救急小隊は、現場へ向かう途中に指令課への追加情報の要求と後着隊への活動方針の連絡を行いました。現場に最先着した中部救急小隊は、指令課へ現場状況と負傷者数の報告、救急隊・救助隊の応援を要請しました。また、現場への早期医療介入が必要と判断し、指令課へ宮崎大学医学部附属病院(以下、大学病院という)に連絡しドクターヘリの出動を要請するよう依頼しました、ドクターヘリは別の事案に出動中でした。(写真3、4)

車両B

その後、中部救急小隊は、「情報収集」「安全確保」「場所取り」「一次トリアージ」を実施しました。(図1)

黒タグであった負傷者H(70代)についてはバイスタンダーによるCPRが施されていたため、そのまま継続するよう協力を依頼し、もう1名の黒タグ負傷者C(3歳女児)に隊員1名を配置し、後続の応援隊が到着するまで負傷者の評価及び処置を実施しました。(先着隊の実施したトリアージ数:赤2名、黄色3名、緑3名、黒2名、合計10名)

その後、中部救急小隊は後続隊に対して、トリアージに準じて搬送順位及び搬送医療機関の決定など救急指揮を行いました。(表1)



○ドクターヘリ活動状況

 覚知から14分後、宮崎市消防局から出動要請がかかりましたが別事案対応中でした。防災救急ヘリでの出動を検討しましたが、防災救急ヘリは資器材の積み替えに時間を要することから、ドクターヘリが別事案対応終了後に現場へ急行することに決定しました。その間、大学病院救命救急センターでは災害モードに切り替え、スタッフをオンコールで呼び出しバックアップ体制を取りました。

覚知から44分後にドクターヘリが現場である東九州自動車道に到着。この地点で、負傷者10名のうち7名は救急車で医療機関へ搬送している状況でした。

中部救急小隊から申し送りを受けたフライトドクターらは、2名1組でチームを組み、1チームが車内に閉じ込められショック状態にある赤タグ負傷者J(30代)の観察及び輸液等の処置を行い、もう1チームが現場に残る黄タグ負傷者I(70代)並びに黒タグ負傷者H(70代)の観察・処置を行いました。その後、フライトドクターは、救急指揮を執っていた中部救急小隊長と協議して3名の負傷者の搬送手段並びに搬送先を決定し、負傷者Hを救急車で県立宮崎病院救命救急センターへ、負傷者Iを救急車で大学病院救命救急センターへ搬送しました。


写真5
ドクターヘリに収容

覚知から約1時間後、車内に閉じ込められていた負傷者Jが救出されると、救急車内に一旦収容し両側胸腔ドレーン及び気管挿管の処置をフライトドクターが行い、覚知から1時間22分後にドクターヘリで大学病院救命救急センターへ搬送し現場活動を終了しました)

3 考察

 本事案は、高速道路における多数傷病者事故事案で、残念ながら2名の方が亡くなられましたが、先着隊の活動として行われた“CSCATTT(指揮・命令、安全、情報伝達、評価、トリアージ、処置、搬送)”がうまくいった症例だと思われます。実際、後に開かれた地域MCの場においても“PTD(防ぎ得た外傷死)なし”と検証され、早期の医療介入及び先着隊の活動が重要だと認識させられた症例でした。

4 終わりに

宮崎県は、9市14町3村で構成されていますが、そのうち山間部の7町村は消防本部を設置していない「非常備消防地域」です。もちろん、消防職員がいないこの地域では、救急車に役場の職員や委託を受けた搬送業者が1名から3名乗車して現場へ出動しています。また、地域によっては、近くの医療機関から看護師や医師が搭乗して出動しています。もし、週末などその地域に医師が1名しかいない時、重症患者を他の高次医療機関へ搬送すると往復4〜5時間は掛かるため、その間は、“医療の空白地帯“ができてしまいます。これらのことを考えても、宮崎県でドクターヘリが運航されるようになったことは「非常備消防地域」に住む方々を含め、私たち消防職員にとって大変喜ばしいことです。
平成26年3月、県民の念願であった東九州自動車道が一部完成し、ようやく県都宮崎市と県北市町村が1本の高速道路でつながりました。それに合わせるかのように、今年4月から、大学病院と県立宮崎病院の両救命救急センターで新たにドクターカーが運用されることとなりました。
近年、急激に変化してきた宮崎の救急医療体制。これに対応すべく、今後私たち救急隊もスキルを高めていかなければいけないと考えます。


OPSホーム>症例目次>140615 ドクターヘリを要請した高速道多数傷病者事案


http://ops.umin.ac.jp/

14.6.15/5:15 PM