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救急事例解説

170910交通外傷傷病者に対して現場で輸液を行った一例

船木亮輔

留萌消防組合留萌消防署

氏名 船木 亮輔(ふなき りょうすけ)
所属 留萌消防組合留萌消防署
年齢 23歳
出身地 北海道士別市
消防士拝命 平成27年4月1日
救命士取得 平成27年5月18日
趣味 サッカー、野球、スノーボード
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これまで救急救命士が現場で実施できた特定行為は、心肺機能停止傷病者への器具を用いた気道確保、静脈路確保及びアドレナリン投与であり、心肺機能停止傷病者への救命率の向上を目的として救命処置が行われてきまた。しかし、平成26年の法改正により初めて、心肺機能停止状態に陥らせないことを目的とした特定行為が追加された。

今回私は交通外傷でショック状態であった傷病者に対して現場で輸液を行った事例を経験したので報告する。

事例

「国道上で車の単独事故を起こし、同乗者の59歳の男性が呼吸はしていますが呼びかけても反応がないので救急車お願いします。なお、車からも脱出できません」との通報で出動した。

現着時、男性は助手席に座っておりドアが開放せず脱出不可であった。後部座席は破損が強く、観察スペースは不十分であり、背もたれを倒すこともできない状態であった。運転席側より隊員1名が進入し観察を実施した(図1)。

図1
特定行為の指示要請の間に隊員1名が侵入しバイタルサインを測定した。車両内は破損がひどく、隊員1名が運転席側よりアプローチしている

観察結果を表1に示す。

助手席の窓からリザーバー付フェイスマスクにて酸素を毎分10L投与し(図2)。

図2
リザーバーにて酸素投与実施

ネックカラーを装着(図3)した。

図3
助手席側の窓よりネックカラー装着

さらに心電図電極を装着して心電図も持続観察した(図4)。

図4
心電図モニター装着。

接触の段階でショック状態が疑われたため、MCに輸液の指示要請を行った(図5)。


図5
MCに輸液の指示要請

バイタルサイン測定をしている間に別の隊員が輸液ルートを作成した(図6)。

図6
輸液ルート作成

ルート作成が完了後、運転席から救急救命士が傷病者に対して静脈穿刺を行い(図7)、

図7
救急救命士による静脈路確保

輸液を開始した。その直後に救助隊がドア開放に成功した(図8)ため、全身固定を行って現場を離脱した。

図8
救助隊によるドア開放

搬送途上の観察では、腹部にシートベルト痕があるが、他に目立った外傷はなかった。上下肢も弱いながら動かせる状態であった。バイタルサインは徐々に改善し病院到着前には脈拍80回/分台となった。病院到着時にはJCS1桁、SpO?100%となった。

現場活動状況を表2に示す。

病院での診断名は頭蓋骨陥没骨折であった。


考察

本事例は、病院から5分ほど離れた場所で発生した。傷病者がショック状態であることや医療機関までの搬送距離を考慮すると通常ならば搬送優先となるのだが、本事例ではドア開放不可のため、救助隊によるドアの開放を待っての救急車収容になる。救急隊による観察結果と心肺機能停止前による静脈路確保の事前準備、救助活動に要する時間を考慮したうえで、輸液の指示を要請し、救助活動中に静脈路確保と輸液を実施した。その結果、病院到着と同時に意識レベルの改善も見られ、現場状況に合わせた処置を実施することの重要性を感じた。

本事例では目立った外傷は見られなかったものの、シートベルト痕があったことから腹腔内出血、胸腔内出血による循環血液量減少性ショックを考えた。これは体内を循環するべき血液量が減少して起こるショックである。循環血液量減少性ショックが血液量の減少に起因していることを考えれば、足りなくなっている血液を輸液により補えば良いことが容易に推測される。ただし出血部位のコントロールができていない状況下で、輸液により血圧の上昇が得られても、過剰な輸液はかえって血液希釈や低体温の原因となり凝固障害をきたす可能性がある1)。したがって、多量の出血に対する輸液は決定的な治療ではなく、あくまでも血圧を保つという意味合いで行うということと、第一に目指すことは迅速な病院収容であることを強調したい。


結論

1)ショック状態となった交通外傷傷病者に対して輸液を行った一例を報告した。
2)ドア開放に時間を要したため、閉じ込められた車内で輸液を開始した。
3)現場での輸液は血圧を保つために行うものであって、第一に目指すのは迅速な病院収容であることを強調した。

引用文献
1)MM Carrick: Biomed Res Int 2016;2016:8901938


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17.9.10/5:08 PM