症例

65歳男性
家族から「お父さんが血を吐いた」との通報で出場。5分後現着。
到着時、患者は居間で側臥位になっており、妻が傷病者の頭を抱えて洗面器に頭を入れていた。床には大量の鮮血が広がっていた。
意識JCS-100。顔面は蒼白、なおも鮮血を吐いている。血圧は橈骨動脈で触れず、総頚動脈でわずかに触れる。脈拍は120程度。四肢は冷たく湿っている。SpO2 94% .
現病歴として、肺癌の診断にて入院加療していたが手術を受けることなく3ヶ月前に退院。自宅療養していた。

Q1:考えられる病態は
Q2:処置は
Q3:気道確保の方法は

A1:肺癌によって大血管が切れて喀血したもの。
A2:気道から出血しているのだからいつ気管が血で塞がり死亡してもおかしくない。心電図モニター装着、パルスオキシメーター装着、酸素投与、保温。血液の排出を促すため頭部を下に傾けた体位もしくは回復体位を取るのが望ましい。
A3:困難であり、時に絶望的である。気管挿管し気管支鏡で出血源を確認、止血処理をするしか方法はない。

解説
肺癌は固形癌罹患率で男性の3位、女性の4位を占めているものの、その率は頭打ちとなっている。肺癌の死亡率は今もって高く、死亡率を罹患率と置き換えられるほどである。また肺癌は最後に呼吸困難が来ることが多いため、本人も周囲の人間にも悲惨な経験となる。
患者はタバコを一日60本約50年間吸っているヘビースモーカーである。2年前の胸部写真では異常がなかった(図1)のだが、半年前から咳が出やすくなり、最近は痰に血が混じるようになったため近医を受診、右肺の異常陰影を指摘された(図2)。
画像診断では腫瘍は直径が5cm、右の主気管支をほぼ閉塞していた(図3)。心臓への浸潤はなく、胸水も見られなかった(図4)。気管支鏡では腫瘍の先端は気管分岐部を越えて気管に達しているのが確認された。肺動脈造影では同じく右上肺動脈の腫瘍による狭窄・閉塞が観察され(図5)、またその形態から血管壁の一部には腫瘍の浸潤が強く疑われた。
病期分類ではIIIaとされ、減量手術も考慮されたが本人が拒否、化学療法を終えて一時自宅に帰っていたものである。

救急隊によって車内収容された後にも喀血は続き、SpO2は84%まで低下した。救急外来搬入時、意識はJCS-300、血圧は触診不能、心拍数は60回/分であった。ただちに気管挿管し、100%酸素を与えながら気管支鏡による止血を試みたが血餅により視界確保ができず断念した。気道閉塞により搬入後1時間で死亡した。


図1
2年前の胸部レントゲン写真。

図2
近医での胸部レントゲン写真。右肺門部に腫瘍を認める

図3
胸部断層写真。気管支の閉塞に注目。

図4
CT写真。胸水はない。肺門リンパ節も腫れているのだがこの写真でははっきりとは分からない。

図5
敗動脈撮影DSA 右肺上葉へ栄養している血管が途中で途絶している。


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