症例28

45歳男性。

3ヶ月前から食物を飲み込む時に胸にしみる感じを覚えた。時間が経っても一向に改善せず、また固形物がつかえる感じが出てきたので病院を受診した。
既往歴は特記すべきことなし。嗜好としてたばこを1日40本30年間、ビールを1日700mL 25年間。

つかえる場所はみぞおちの上あたりだと言う。日によって変動する。声はかすれていない。痰はわずかに出るが、血が混じったことはない。血圧は146/86nnHg, 心拍数76回。胸部レントゲン写真、一般検血、生化学検査で異常所見は認めない。


Q. 最も考えられる疾患は

A. 食道癌

早期ガンでは無症状であり、進行してくるに従って食物がつかえたり熱いものや冷たい物がしみたりするようになる。また潰瘍を形成すると痛み出てくる。進行癌になると体重減少や咳、声のかすれ、胸背部痛が出現する。食物のつかえは喉頭癌でも出現するが、その場合声のかすれが早期から伴うことが多い。


解説
今回は適当な救急症例がなかったため、若くして食道癌になった症例を紹介する。ご容赦願いたい。

食道癌は胃癌や大腸癌に比べて発生率が少ないが、症例数は高齢化に伴って年々傾向にある。

食道癌が恐ろしいのは以下の2点による。
1)構造が弱い
胃や大腸は一番外側に漿膜と呼ばれるしっかりとした膜を持ち、そこが癌の浸潤に対して最後の防波堤となるのだが、食道では外膜と呼ばれる荒い膜しかないため、食道外に浸潤しやすい。
2)大手術になる
食道癌の根治手術は胸を開けて食道を取り去り、腹を開けて胃を食道になぞって細工をし(胃管)、また胸を開けて喉(咽頭)に繋ぐという手術を行う。また食道は長いため、大量のリンパ節廓清を必要とする。そのため消化器の手術では最も侵襲が大きい。
全体の5年生存率は15-30%であり、早期癌では70-80%の生存率である。

患者はその症状から食道癌が強く疑われたため、バリウム検査と内視鏡検査が行われた。内視鏡検査では潰瘍形成型の腫瘍が見られ、またバリウム検査では下部食道に鋸歯型(ノコギリの歯のような形)の欠損像が見られた(図1)。病理学的検査では扁平上皮癌であった。
手術では胃を用いた再建術を行った。術前の写真(図2)と比べて、術後では右胸腔に影が見える(図3)。これが食道の役割を担う胃管である。CT像でも右胸腔に太い管が見える。管の周りの薄い部分は大網である(図4)。

写真説明

図1
食道バリウム検査。ノコギリの歯のようなギザギザが見える。これは食道の腫瘍が潰瘍となってでこぼこしていることを示している。

図2
術前の胸部レントゲン写真。正常

図3
術後の胸部レントゲン写真。右胸腔内に胃管が見える。

図4
術後の胸部CT.胃管と、それを取り巻く大網が見える。


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