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症例
75歳男

現病歴

 高血圧症にて15年間内服治療中。タバコ30本60年間。3年前、近医でレントゲン写真を撮ったところ胸部に異常陰影を指摘された。循環器内科へ紹介され、そこで胸部大動脈瘤と診断を受けた。2年間で直径が4.5cmから5.5cmと大きくなったため手術を勧められるものの、症状がないので拒否していた。
 ある日の朝、足下に落ちたものを拾うのに屈んで伸び上がった瞬間、背中に激烈な痛みを感じ、さらに左手のしびれも自覚したため家族が119番した。

救急活動

 5分後現場到着。患者は居間に側臥位になっていた。意識は清明。しきりに背中が痛いという。顔色は赤いが左上肢と両下肢には冷感がある。血圧220/140。心拍数120/分。SpO2 96%。息苦しさは訴えない。


Q1:疾患名は
Q2:搬送中の注意点


A1:胸部大動脈解離。
A2:破裂して頓死する可能性がある。意識ABCを常に観察するとともに、指令台もしくは現場から病院へ必ず報告しておくこと。


解説

 典型的な胸部大動脈解離である。原因はアテローム動脈硬化と高血圧であり、これらを引き越す原因としてはタバコ、肥満、糖尿病などが指摘されている。男女比は3:1。

 胸部大動脈瘤自体は一般的には無症状で、胸部レントゲン写真を健康診断などで撮った場合に偶然に発見されるものが多い。症状は膨らんでいる大きさと場所で異なり、主気管支を圧迫すれば喘鳴、咳、呼吸困難、反復する肺炎を、反回神経が圧迫されると嗄声を、食道が圧迫されると嚥下困難を、胸骨や肋骨が圧迫されると胸痛を生じる。

 高血圧や外力などを契機として内膜と中膜が剥がれそこに血液が流入すると大動脈解離(解離性大動脈瘤)といわれる。発病と同時に90%以上の例で突然の胸背部の激痛が出現する。また解離する部位が広がることによって痛みが移動する。外膜まで破れて血液が胸腔や腹腔に出たり、大動脈閉鎖不全を起こす場合には頓死する可能性が高い。そのため5.5-6cmを越える胸部動脈瘤では手術の適応となる。本症例の場合には左鎖骨下動脈から末梢で解離を起こしており、スタンフォードB型と判断された。左手のしびれは解離が鎖骨下動脈にかかったためであった。

 本症例では3年前から胸部動脈瘤を指摘されていた。直径当初は4.5cmであったが(写真1、2)1年前には5.5cmとなり(写真3、4)手術を強く勧められたものの本人が拒否していた。患者は救急外来からすぐ手術室へと運ばれ、左鎖骨下動脈より末梢の人工血管置換手術を受けて一命を取り留めた。

 胸部大動脈瘤破裂の多くは即死する。今回の症例は外膜が裂けずに管として機能していたため生き延びたものである。


写真1
3年前の胸部写真正面。矢印が大動脈瘤

写真2
3年前の胸部写真側面。矢印が大動脈瘤

写真3
1年前の胸部CT. 血管の断面は大福餅のようになっている。これは血管腔が二重になっていることを示す。

写真4
1年前のMRI. 胸部大動脈の蛇行が一目瞭然。

写真5
人工血管置換術後。


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