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症例

52歳女性

主訴:嘔吐

 30歳の頃から糖尿病を指摘されていたが放置していた。もともと肥満だったが、この1年間は努力なしに痩せてきており、現在は標準体重であった。ある日の朝、胸のつかえ感を覚えると同時に嘔吐が始まった。今までも何回かこのような突発的な嘔吐があったものの、数時間横になっていると治ったので今回も横になっていたが、だんだん冷や汗をかいて意識が遠のく感じになり、いつもと違うようなので家族が119番通報した。前日に食あたりを起こしそうなものは食べていない。
 現着時、意識はJCS20、顔面蒼白で冷感あり。四肢麻痺はないもよう。血圧160/40、脈は120程度だが不整あり、期外収縮が多発。SpO2 90%。


Q1:考えられる疾患は
Q2:病院選定は


A1:意識障害を起こす疾患なら何でも可能性がある。糖尿病から急激な痩せがきているのだから、糖尿病として状態が悪化していることになる。このことから第一に疑うべきは低血糖発作である。その他脳梗塞やくも膜下出血・心筋梗塞など、一通り疑う必要がある。

A2:低血糖発作の場合はどこの病院でもブドウ糖急速静注ですぐ回復する。脳神経系の病気ならば脳外科を、心筋梗塞なら循環器科に運ばなくてはならない。本症例のポイントは期外収縮の多発であり、心筋梗塞を伺わせる所見であったため循環器科のある病院に搬送した。


解説

 本症例は心筋梗塞であり、心臓カテーテルによる血栓融解療法も無効で発症から2日目に心室細動を起こし死亡したものである。

 糖尿病では末梢神経の感覚の鈍麻が起こる。そのため通常であれば死ぬほど痛い狭心痛も全く自覚しないことがある。家族から聞き出したところ、過去に急激な嘔吐をきたしたときは1週間ほど動くとつらそうだったといい、その時も心筋梗塞が起こっていた可能性が考えられた。

 この症例は病理解剖を行っている。図1は心臓の輪切り。黒いところは今回の心筋梗塞の場所で、黒いのはそこに出血しているためである。白いのは過去に心筋梗塞を起こしていた場所で、白いのは線維が多いためである。ちょうど切り傷が治ったあとが白い線になるのと同じである。図2と図3は顕微鏡で見た心筋梗塞である。

 この症例のように、心筋梗塞は実にさまざまな症状を呈する。自覚症状がないのに心筋梗塞であることもある。心筋梗塞を疑うことが患者を救う第一歩である。


図1

症例の心臓。もともと高血圧があり、左心室の壁が厚くなっている。右心室の壁の厚さは正常。厚い筋肉の真ん中に見える黒い筋は今回の心筋梗塞の場所。黒い筋に近接して白い筋が見えるのは以前の心筋梗塞。

図2

今回の心筋梗塞の顕微鏡写真。中心の黒い点は炎症細胞で、白血球やリンパ球・形質細胞・マクロファージが集まったもの。今まさに腫れ上がっている状態。この症例では筋肉がばっさり死ぬのではなく、ところどころ縞状に死んでいく形態を取っている。

図3

以前に心筋梗塞を起こした場所の顕微鏡写真。右上、生きている筋肉はおまわりさんが持つこん棒が連なった形をしている。しかし、中心から右下、ヒモがうねうねしているように見えるのは、筋肉ではなくて線維に置き換わっているためである。線維=単なる糸なので縮まない。逆に心臓が収縮する時にそこだけ伸びて膨らむこともある。さらに、時には変な電気を発生させて不整脈の発生源となることもある。


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