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症例40:初産婦の分娩

松本直樹

留萌(るもい)消防組合消防署

救急救命士


真冬の新生児誕生。生命力を感じた症例を紹介する。

症例

 マイナス8℃の真冬の夜中、1時38分に『妻24歳が子供を産みそうです。初産です』との通報を受け高規格救急車で出動。

 隊員に分娩用資機材の準備(*1)と救急車内の高暖房を指示し、分娩のシミュレーション(*2)をしながら現場に向かう。途上で『すでに娩出し啼泣している』内容を受け、保温と搬送準備を指示し覚知から8分で現場到着した。

 現場は共同住宅2階。母親は自宅トイレ付近フロアーに寝間着姿で仰臥位。新生児は母親と臍帯がつながったままで、母親の腹部上で目をキョロキョロさせながら落ち着いた状態でいた。屋外階段部が狭隘な建物構造から、親子同時に搬出することは危険と判断し、直ちに、救急隊の2次出動要請を行った。現場で、収容先病院医師の指示を仰いだところ、臍帯切断不要での搬送指示を受けたが、現場状況を考慮し、臍帯切断することを医師に伝えた。これは、病院研修による医師との信頼関係が功を奏した。

 母親及び新生児の観察後、両親に対し親子別々に搬送することや処置のIC(*3)後、新生児の臍部より5?離れた部位に2本の臍帯クリップを挟み中央を消毒したハサミで切断した(図1)。胎盤の引き出しは行わなかった。

 屋外は真冬の厳寒期、新生児の体温低下を防ぐためタオル・レスキューシート等を活用し最大限の保温に努め、隊員による抱きかかえで車内収容した。

 搬送途上、車内を高暖房に保ち、背部の刺激に反応し啼泣することを確認しながら、保温及び鼻、口付近に吹き流しによる酸素10L投与を施し、覚知から32分後に2次病院へ搬入した。

 母親は、現場にて保温と酸素投与を実施し後続救急隊へ引き継いだ。 数分後、母親も後続救急隊により無事同病院へ到着した。

反省点

しかし、元気な女の子で少しホッとした。

(*1)分娩用(滅菌)資機材(ゴム手袋・シーツ・タオル・ガーゼ・臍帯クリップ)、膿盆、吸飲カテーテル、ハサミ、携帯型酸素一式、保温用毛布等の準備を指示。

(*2)新生児が泣いているか、吸引、清拭と四肢等の確認、保温、臍帯切断、母子共に安全な搬送に注意。厳寒期のため保温には特に留意した。

(*3)初産なので特に母親への心遣いが大切。こちらが落ち着いていないとICもままならない。

図1

 臍帯は2箇所をクリッピングし臍輪から2センチ外側(実際は5センチ程度)で切断した。

 臍帯は非常にコリコリしてすべりやすいためはさみを使用する際は根元ではさみ、しっかり臍帯を保持して切断しなければすべってはさみから逃げてしまう。また、臍帯クリップで臍帯をクリップする際は非常に力が必要であり一度体験するまでは想像がつかなかった。

解説

 本症例は陣痛が来たにもかかわらず自宅で様子を見ていて、結果として自宅で出産してしまった症例である。初産では出産まで時間がかかるとされるが、それは子宮頚管が10cmに開大するために時間がかかるのであり、本症例のようにすでに開大していた場合には墜落産もあり得る。
 分娩介助については過去の講座(1999年5月号基礎講座)を参考にしてほしい。

 先月、産気づいた妊婦が産科病院に間に合わず、私のいつも行っている当直先の病院で出産したという話を聞いた。その時の当直医は外科の医者。職員の妻に偶然助産婦がいて介助してもらったとのこと。いつも偉そうなことを書いているけれど私一人じゃとても無理だと思う。日頃からの勉強が大切なのは救急隊員も医者も同じだと実感した。


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