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症例41:二つの嘔吐

菊池智人

留萌(るもい)消防組合消防署

救急救命士


症例:二つの嘔吐

はじめに

 平成18年1月、留萌市はここ数日大雪に見舞われていた。この日の午前、2回の救急出動があった。通報から現場到着まで3分と6分。通報から病院収容まで17分と20分。この短時間の救急活動の中で同じような主訴をもつ救急に続けて出動した。

症例1

 86歳男性。「自宅で横になっている。動くと吐くので救急要請。」
 居間に左側臥位。JCS1-0。呼吸、脈拍-正常。主訴-全身脱力感。嘔吐あり。痙攣、失禁、麻痺、外傷なし。瞳孔-正常。既往症-高血圧症。血圧145/63、脈拍64、SpO2 99%。搬送途上変化なし。
 ここ数日、一日あたり2-3時間の除雪作業をしていた。前日夕方から嘔吐出現。病院受診をさせようと家族が起こしたところ頻回の嘔吐があり救急車を要請した。
 判断:年齢的なことからも正直、一番はじめに脳疾患、特に脳梗塞を疑った。観察をしていく中で四肢の麻痺や瞳孔所見血圧に注意した。体動による嘔吐があるものの特徴的なものはなく脳疾患の既往もなかった。
 ここ数日の大雪で無理して除雪作業を行い一過性脳虚血発作ではないかと思いつつ搬送している。

症例2

 78歳女性。「自宅で眩暈と吐き気で具合が悪く救急要請。」
 居間に左側臥位。JCS1-0。呼吸、脈拍-正常。主訴-眩暈、全身脱力感。嘔吐あり。痙攣、失禁、麻痺、外傷なし。瞳孔-正常。既往症-大腿部頸部骨折。血圧184/97、脈拍65、SpO2 97%。搬送途上、変化なし。
 7時30分頃、家で急に眩暈が出現し嘔吐した。軽減せず夫が救急車を要請した。
 判断:1時間ほど前の救急と類似するものと思っていた。やはり年齢的なことからも正直、一番はじめに脳疾患、特に脳梗塞を疑った。観察をしていく中で四肢の麻痺や瞳孔所見、血圧に注意した。血圧は高いものの嘔吐、眩暈はさほど強いものと思えなかった。特に女性の眩暈での救急搬送は多くしかも軽症事例が多いため今回も軽症ではと考えていた。

考察

 救急出動において遭遇する一般的な救急といえるこの二つ。短い活動時間の中で出来る限りの情報収集と観察を行い搬送をした。
 病院から後で渡される傷病者引継書を見ると
 症例1:起立性低血圧症・脱水症(軽症)
 症例2:脳出血(ICUへ)
だった。同じような症状や主訴の救急から重症だと思い込み搬送して軽症な場合、逆に今回の症例2のような軽症と思い込み重症なケースもある。救急というものの難しさを実感させられる。

 通報から現場到着まで3分と6分。通報から病院収容まで17分と20分。留萌市での救急活動はその大半が帰署まで約30分ほどである。市街地が狭く居住域が密集しているため一部の郡部地域を除き短い時間で勝負している。
 消防学校、救命研修所、色々な資格研修などでの救急活動シミュレーション…お約束の車内収容後に発する「搬送時間20分」。搬送時間5、6分で活動している救急隊がいることも知ってほしい。

解説

 症例1は診断名が脱水となっているがこれは嘔吐により引き起こされたもので、本当の原因は別にありそうである。でもその原因が過労にせよ食あたりにせよ安静と補液で改善するため普通はあまり追究しない。症例2については医者でもだまされる脳出血のタイプである。特にくも膜下出血の場合では痛みをこらえながら数日過ごし致死的な再出血を起こす可能性があるため注意が必要である。
 救急隊の立場ならこの症例をどう考えるだろう。2つの症例とも短時間の活動であり、詳細に観察する余裕なく病院へ搬送完了している。バイタルサインをみると症例2で血圧が高い以外疾患を特定できるものはなさそうである。この症状と活動時間で的確な活動(と診断)をせよというのは酷な気がする。


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06.6.4/5:23 PM