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これで上司も市民も納得! 基礎からの統計教室

第2回
エビデンスってうるさいんですけど

例題
病院実習でよくお世話になる先生はよく「エビデンスは?」と尋ねて来ます。一緒に実習している後輩に「先輩、エビデンスって何ですか」と聞かれました。あなたはどう説明しますか。


解説
先生の言う「エビデンス」とは「統計学的に根拠のある処置」のことです。ですが、闇雲に信じると痛い目を見ます。


1.エビデンスが生まれた背景

エビデンス(Evidence, 証拠)が病院内で求められるようになったのはそれほど古いことではありません。今まで勘と経験に頼っていた診断や治療を統計学的に整理し、本当に有効なものを患者に提供しようという試みが1980年代後半から盛んになって来ました。エビデンスの本山である「コクランデータベース」が創立されたのが1993年ですので、まだ23年しか経っていません。

2.エビデンスを作ってみよう

統計学的に有意差があればエビデンスがある、と言えます(有意差については第3回以降で説明します)。ここでは簡単な方法でエビデンスを作ってみましょう。

箱の中に赤い玉と白い玉をいれ、中が見えないように1個ずつ取り出します。あなたが試したところ、5回続けて白玉が出て来ました。5回続けて白玉が出る確率は1/32=3%です。統計学では通常確率が0.05に満たなければ有意差ありとします(図1)。
(1/2 x 1/2 x 1/2 x 1/2 x 1/2 = 1/32)

図1
白玉が5回続けて出たときの確率は3%

おめでとうございます。これであなたは、「箱の中には白玉が赤玉より有意に多い」というエビデンスを作ることに成功しました(拍手)。

3.エビデンスにもレベルがある

「たった5回白が出たからって、白玉が多いって本当に言えるの??」と疑うあなた。世の中にはそういった疑い深い人が大勢います。
さらにエビデンスを作ろうと玉を取り出し続けます。
すると、6回目も白玉でした。白が6回続く確率は1/64=1.6%
7回目も白玉でした。白が7回続く確率は1/128=0.8%です。
白玉が連続するほど確率が下がり、説得力が出て来ます(図2)。

図2
白玉が出続けるほど確率は下がり、エビデンスレベルは上がります

エビデンスレベルもそれに従い高くなって来ます。

4.このエビデンス、どう思いますか

では別のエビデンスを作ってみましょう。
『あなたはある町の男女比を調べることにしました。そこである日の朝、高校の前に陣取り、登校する生徒の男女を調べました。すると、100人まで数えても女の生徒しか来ませんでした。
このことからあなたは、「この町の住民は全て女である」と結論しました。』(図3)

図3
性別比を見るために女子校の前に陣取るあなた


絶対変です。

図4
男女共学だったとしても男を無視したら同じ結論になります。

この人は女子校の前にいて女子高生を見たかっただけなのでしょう。もしくは男は眼中になかったかです(図4)。

このエビデンスはどこが間違っているかというと
・男女比を調べるのに偏った集団を対象とした(対象の誤り)
ことが原因です。調べる対象は調べる人の意図(この場合は女子高生を見たいということ)の届かないところで決めなくてはなりません。
また百歩譲って対象がふさわしいとしても
・男子学生を無視した(作為的なデータ取り)
ことで誤った結論を下しています。

このように、現在「エビデンスあり!」とされている事柄についても、本当に本当なのか疑ってかかるべきです。


4.エビデンスにだまされた例

救急隊員なら、4年前まで「ショックファースト」「CPRファースト」という言葉があったのを覚えているでしょう。これは現着時間の長さで蘇生の順番を変えるもので、アメリカの医学雑誌に出たものが心肺蘇生ガイドライン2005で採用されて全世界に広まりました。ところがその後、蘇生の順番を変えても生存退院率に変化がないことが分かり、ガイドライン2010では消滅しました。

図5
ショックファースト・CPRファーストは消滅しました。

ですので、今周りで「エビデンス!!」と騒いで知る事柄も、数年経てばひっくり返る可能性があります。これは全ての事象について言えることです。


5.まとめ
・「エビデンス」とは「統計学的に根拠のある処置」のことを指す。
・「エビデンス」は統計の取り方でどうにでもなる






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15.11.5/5:14 PM