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シリーズ 救命の輪をつなげ!女性救命士

第10回(最終回)

消防署救急救命士と民間救急救命士

内山 藍


所属:特定非営利活動法人 オールラウンドヘリコプター
氏名:内山 藍(うちやま あい)
出身:栃木県
救急救命士資格取得年月:平成20年5月
趣味:フラワーアレンジメント、編み物、温泉めぐり


シリーズ構成

冨高 祥子(とみたか しょうこ)
会津若松地方広域市町村圏整備組合消防本部 会津若松消防署


 私は現在、特定非営利活動法人オールラウンドヘリコプター(All Round Helicopter以下ARH)で救急救命士として働いています。この法人は宮城県気仙沼市を拠点とし、医療搬送や防災面において幅広く柔軟に活用できる民間ヘリコプター運航会社で、東日本大震災後の2013年1月にNPO法人格を取得しました。三陸沿岸部はもともと慢性的に医師が不足する医療過疎地域であったため、震災により医療機関の再開が困難な地域が広く存在します。ARHはこの医療過疎を改善する目的で、例えば軽症者の搬送や県境を越えての搬送など、現行の医療搬送手段を補完するべく運航しています。まだドクターヘリが配備されていない宮城県では、気仙沼市から仙台市にある高次医療機関へ救急車で搬送した場合約2.5時間要しますが、ヘリコプターでは30分程度で搬送が可能です。ARH事務所にはヘリポートと格納庫が整備され、パイロットと整備士、運航管理員、救急救命士が待機し、搬送や緊急事態に対応できる体制を取っています。

イベントでのARH紹介

 進路選択の際、医療系の職業に就きたいと思い救急救命士(以下、救命士)の国家試験を受ける事ができる大学に進学しました。大学卒業後、東京消防庁・消防学校を経て新宿消防署に配属され、そこでポンプ隊員・救急隊員を経験させて頂きました。現場では隊長に指示される前に何が必要とされるか考え行動し、さらに迅速に隊長の指示に従えるよう常に周囲の状況と隊長・機関員の行動を把握していました。厳しさの中にも愛情ある上司・先輩に指導していただき、毎当番忙しく大変やりがいを感じていました。救助活動現場で活動したあと、その傷病者が消防署を訪問し「女性の声が聞こえ安心した」と言って頂けた事や、現場で女性傷病者の方々に感謝される事もありました。

 他方で身長が低い私は傷病者を寝かせメインストレッチャーを車内収容する事が大変厳しく、周囲の人が負担に感じる事もあったかと思います。努力をしても乗り越えられない状況も見え悩んでいたところ、東日本大震災が発生しました。連日報道される被災地の状況や被災者の表情を目にし、被災地に救命士としてもっと活かせる場があると思い退職を決意しました。
 

訓練の様子

 自ら決意し退職したものの何ができるのか分らず不安でいましたが、まずは行動しようと被災地で一か月程ボランティア活動をしました。想像を超えた被災地の困難な状況に気圧され前に進めず、救命士として働く事を辞めようとも考えましたが、やはり女性救命士として消防署で培った経験を活かせる職に就きたいという気持ちが勝り、諦めずに探していたところ現在の職場であるARH救命士募集の求人を見つけました。それにより思いがけず被災地における深刻な医療過疎の状況を知りました。以前、大都会で勤務していた私にとって様々なことが衝撃的でした。例えば地域特性による搬送時間の違いを漠然と感じてはいましたが、高次医療機関が多くある新宿区との搬送時間の違いに驚き、車両の半分以下の時間で搬送が可能なARHのヘリコプターはとても有効な事業だと思いました。それにより患者や医師の負担軽減になりますが、身近とは言い難い「ヘリコプター」で搬送される患者やその家族に不安はないのだろうか、機内での不安を和らげるには女性ならではの視点や細かなケアが必要とされる場合があるのではないかとも思いました。ヘリコプターに搭乗した事はありませんでしたが、消防で培われた度胸と忍耐力でそれらをカバーできる、また消防署では頼りなかった小柄な体も狭い機内なら役立つと考え、現在ARHの救命士として働いています。

施設での救護活動

 まだ新しい事業のため確立できていない部分は多いのですが、その分自由な発想を持ち寄り前進し続けています。多くの方々にARHを知っていただき理解・支援をしていただけるよう、拠点地とその周辺地域のイベントで機体の展示やPR活動、救護活動をし、シートと特殊なカメラを用いて災害時情報収集訓練をするなど様々な訓練を実施しています。その他にもヘリポートの確保し、病院や老人ホーム等と協定を締結し患者搬送経路を確保することにより、必要な時医師等が要請し直ちに機体の運航をするよう準備しています。業務内容は多肢にわたり消防署とは異なったものですが、以前の経験を活かすことができています。

機体の展示と救護活動の紹介

 ここで働いていけるのは、地域や職場の方々にご指導いただき支えられているからです。近年、救命士は消防署だけでなく医療施設や介護施設、また人が多く集まる観光地の救護所やイベントの救護等、活躍の場は確実に拡大しています。しかし救命士という職業の課題として、消防署とは違い審査会のようなものが無いため、技術や知識を維持するのが困難で救急に関する新しい情報の入手も簡単ではありません。そのため常にアンテナを張り、自身で講習や研修に参加する必要があります。消防署を経験したからこそ身に付いた規律や接遇が、患者と接する際も役立っていると実感しています。そして様々な経験をしている救命士と出会い現状を知ることで視野を広げ、地域の方々に「救命士だから安心だ」と言っていただけるよう日々努力をしています。


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15.11.6/5:31 PM