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これで上司も市民も納得! 基礎からの統計教室10


事例発表のコツ1:演題の作り方と抄録の書き方

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例題

 あなたの所属する消防局では、年に数回、事例発表会が行われます。これは消防署ごとに演題を消防局に提出し、その中で優れたものを選んで大会場で発表するもので、発表まで辿り着くのは約半分という狭き門です。
 上司であるあなたは、これはと思う部下に発表させたいと思っています。ですが、あなた自身も学会形式の発表の機会はそれほど多くありません。部下の演題が採用され、しかも発表会の参加者に部下の主張を伝えるためには、どのようにアドバイスすればいいでしょうか。

解説

 事例発表には3つのポイントがあります。一つ目は選ばれる抄録書き方。二つ目は分かりやすいスライドの作り方。三つ目は聞いて分かりやすい原稿の書き方です。
今回は演題の作り方と抄録の書き方を解説します。来月はスライドの作り方と原稿の書き方を解説します。

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 先日札幌市消防局の救急活動事例研究会に顔を出してきました。もう180回以上開催されている伝統のある研究会です。一度にだいたい7演題が発表されます。この発表の様子は公開されていて、事前の申し込みで公聴が可能です。私も事前に申し込んで、ちゃっかり質問もしてきました。また優秀な演題は雑誌「プレホスピタル・ケア」(東京法令出版社)内の(仮題)「札幌発!救急活動報告!!』に掲載されることになっています。
 研究会後の懇親会で、選に漏れたという隊員とも一緒になりました。懇親会に参加していた他の参加者の話も総合すると、抄録の書き方が未熟だと選ばれないとのことでした。そこで今回は、抄録の書き方を含めた事例発表のコツについて述べることにします。
また、前出「プレホスピタル・ケア」では2015年12月号から現役救急救命士である若松淳氏による連載「論文の書き方」が開始されています。そちらも一緒にご覧下さい。


1.抄録やスライドを作る前に結論を決める

 目の前に症例の概要があります。もしくは研究したデータがあります。じゃあ抄録もスライドも原稿も楽勝?そんなことありませんよね。先輩たちはそれから苦労をしてきたのですから。
まずやるべきこと。それは

・結論を決める

ことです。
 結論は1つだけです。2つも3つもあるようなら論点がボケてしまい、聞く方も何が言いたいのか理解しづらくなります。

 今まで消防職員を含めて様々な人に学会発表の指導をしてきました。抄録やスライド作りに苦労している人のほとんどは、明確な結論を決めていません。私が「で、何を言いたいの」と尋ねると、あれもこれもと結論を探し始めます。自分が理解していないのに他人に理解させるのは不可能です。

 選に漏れる抄録は例外なく結論が貧弱です。抄録を初めから最後まで読むと、題名と結論が合っていないのです。全体に一本の筋がなくては採用される可能性は少なくなります。そして、一本の筋を通すためには、結論から書き始めるのが最も簡単な方法です。
 抄録の時点では結論を書かないこともあります。発表まで時間があるため結論が定まらない場合や字数制限がきつくて結論までかけない場合などです。しかしスライドや発表原稿では必ず結論が必要になります。

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例*:独居老人がたくさんの病院から受け入れを断られたことを発表したい

何も考えなければ「受け入れ病院が見つからずに大変だった」で終わり。受け入れ病院が見つからないのはよくあること。このまま抄録を書いても当たり前すぎて採用はされないでしょう。あなたが(仮に上司からの「何でもいいから提出しろ」命令だとしても)この症例を選んだのには理由があるはずです。今一度その理由を考えて下さい。理由がすなわち結論になります。
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2.結論から遡ってストーリーを作る

 結論が決まりました。それを紙に書き出します。そして、結論を見ながらストーリー(話の流れ)を作っていきます。

 ストーリーを作る時は鉛筆とメモ用紙を用意します。そうして

・結論→考察→症例(研究)の概要

の順で項目をまとめていきます。考察と症例の概要も数行で書きます。
ストーリーが単純すぎる場合には別の素材も投入して幅を持たせることも必要になります。

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例:独居老人

 あなたが独居老人を選んだのは「こんなの良くない」と思ったからでした。問題を提起するためです。
ここでは素直に

結論:独居老人への対策を考える必要がある

とします。
 次に考察を考えます。結論が「考える必要がある」ですから、何か考えなければなりません。今まで独居老人宅に何度も出場していますが、全てが「良くない」事例ばかりではなく、「良い」事例もあったはずです。思い返していくと、たとえ独居老人で痴呆が進んでいたとしても、あらかじめ行政機関から情報をもらっていたり個人認識カードなどを持っていた場合にはスムーズに搬送できたことに気が付きました。そこで

考察1:独居老人は情報が少なくて大変
考察2:行政機関の関与があればスムーズに行く
とします。

 最後に症例の概要を組み立てます。「こんなの良くない」と思った症例を最初に述べます。加えて、考察2で挙げた「行政機関の関与」があった症例を数例挙げて対比させることにしました。
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3.ストーリーができたら「はじめに」「題名」を書く

 ここまでできれば、この発表で自分が何を訴えたいか明快になっています。苦労せずに「はじめに」を書けるでしょう。題名は最後に付けます。

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例:独居老人

 この事例報告は、行政の関与の有無でうまくいった例といかなかった例を挙げて、最後に独居老人への対応を考える、という結論になっています。訴えたいことは行政の関与です。消防も行政組織の一部門ですから、それほど突飛な主張ではないはずです。

 初めに:独居老人が増えていること。現場で必要な情報が聞き出せないために活動時間が延びていること。行政機関の関与で活動時間の短縮が可能になること。この3点を文章でつなげることにします。
題名:救急活動における行政関与の重要性
としました。
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4.抄録に沿ってスライドを考える

 抄録ができ、演題が採用されたらスライドを作ります。
 目安は各パートで1枚ずつ、1分1枚。主張したい部分は複数枚になっても構いません。

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例:独居老人

 はじめに、症例、考察、結論が1枚ずつ。合計4枚です。
 症例は良かった例と悪かった例の複数となりますので、それぞれ1枚ずつ作ってもいいでしょう。
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5.発表原稿を書く

 発表原稿を作らないで発表する人がいますが、よっぽど発表に慣れた人でない限りは必ず原稿を作るようにしましょう。発表原稿を作ることで発表にかかる時間が明確になり、大切な事項を話し忘れることがなくなります。また他人に読んでもらうことで原稿の改善も容易に可能になります。
 原稿は、自分が話す通りに書きます。ですます(いきます、そうです、など)体、だ体(いった、そうだ、など)も、その通りに書いて下さい。

6.「文才がないから」

 イコール「逃げ」です。「時間がないから」「忙しいから」「家族がいるから」逃げる理由はいろいろあります。時間は作るもの、忙しいのは自分の時間配分や要領が悪いからで、ほとんどの家族はあなたが公で発表し偉くなることを望んでいます。

【何かをしたい者は手段を見つけ、何もしたくない者は言い訳を見つける(アラビアのことわざらしい】

 芥川龍之介が志賀直哉を評して「才能のある人(志賀直哉のこと)はうらやましい。俺はここまで努力でやってきたので苦しいんだ」と述べています。あの芥川龍之介にしてその言葉です。自分に文才がないなんて私なら恥ずかしくて言えません。
 抄録や論文に文才は必要ありません。必要なのは、「結論から書く」「ストーリーを作る」「ストーリーに沿った題名を付ける」だけです。結論とストーリーを眺めながら、思いつく文章をどんどん書いて行きましょう。すぐ詰まるでしょうが、そんな時はちょっと休憩してさらに文章をひねり出します。文章が20から30になったら、ストーリーに沿って並べ替えます。重複は削除し、足りないところは補えば完成です。自分一人ではそれほど良いものはできないかもしれませんが、あなたには上司がいます。きっと文章に慣れた人がいるでしょうから、その方に見てもらいましょう。


7.練習する

あとは練習あるのみ。ストップウオッチを片手に原稿を読みます。大切なのは

・声を出して読む
・ゆっくり読む

この二つです。黙読より音読の方が原稿を覚えられます。本番ではどうしても早口になりますので、練習の時はゆっくり読んで早口にならないよう訓練します。



8まとめ

抄録は1本筋が通っていることが必要。そのためには
・結論を最初に書く
・結論を見ながら考察や症例を書く


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*この例は札幌市消防局の救急活動事例研究会での報告を下敷きにしています。報告自体は近日「プレホスピタル・ケア」に掲載されます。


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16.3.6/11:43 AM