2002/05/31(Vol.112)号「肩こり(2)」

●麻酔科のお話

 皆さんこんにちは。
 4月末に放映されたNHK「奇跡の詩人」インターネット上では今も議論が
 続いています。私も録画したものですが見てみました。議論の中心はいくつ
 かあり、

  1)母親が詩を書いているのではないか
  2)ドーマン法の有効性
  3)詩を書く息子に対して娘はないがしろにされているのではないか
  4)もし息子が書いたのではない場合のNHKの責任は

 というものです。ほかに文字盤の有効性や2000冊読書の信憑性、宗教の
 話も出てきています。

 1)について、私は集中治療室で働いていたことがあります。気管に管を入
  れられて人工呼吸器に繋がれた患者さんは声を出すことができないので、
  あの子供と同じように指で文字盤をなぞって意思を伝えようとするのです
  が、「水」「痛い」と書いた文字を指し示すことも容易ではありません。
  こちらがその表情を見て状況を見てようやく会話が成り立つのです。五体
  満足な患者さんですらそうなのに、水頭症(もしくは脳形成不全)で手足
  の自由がきかない子供にあのような高速の詩作は無理です。

 2)について、ドーマン法は私の学生の時には講義で習いましたが、医者に
  なってから「時間と費用だけかかり効果は認めない」という統一見解がア
  メリカ小児科学会から発表されています。ドーマン法が発表された当時は
  「苦労をすれば報われる」という期待が医学界にあったように思われます。
  ドーマン法も、泣き叫んでいる患児をうつぶせにして手足を無理矢理動か
  すという方法を採ります。今は力ではなく、愛情で接することが勧められ
  ています。たとえば極小未熟児では、以前ではバイ菌が付くからと母親に
  は触らせなかったのですが、いまはできるだけ早期に母親の裸の胸に抱か
  せ乳を含ませる「カンガルーケア」があちこちで行われています。

 4)について、丸山ワクチンが多く報道されていたときには多くの患
  者に「ワクチンが欲しいのだけど紹介状を書いてくれるか」と頼まれまし
  た。また、フィリピンの心霊手術を見て無理矢理退院し、腸を破かれて帰
  ってきた症例も知っています。この番組の全てがインチキではないのかも
  知れません。でも、障害を持つ親は藁をも掴む思いでこの番組を見たはず
  です。障害者の親族は親に向かって「こんな方法がある」「どうしてやら
  ないんだ」と親をなじることでしょう。あの家庭はあの子がいて、あの方
  法で本を出し何万部も売って食べているのですから、私がとやかく言うも
  のでもありません。出版社も本が売れればいいのです。しかし、医学的検
  証もせずに放送し、同じような可哀想な子供を持つ親たちに空しい希望を
  与えてしまったNHKの責任は大きいと思います。

 肩こり2

 肩こりは精神的な側面が大きく、おなじ事をしていてもイヤなことをしてい
 れば凝りますし、楽しいことをしていれば凝らないようです。これは経験の
 ある人も多いでしょう。人生楽しいことばかりではありませんが、なるべく
 楽しいことを考えるのが治療の第一歩です。
 薬を使った治療としては、筋肉を柔らかくする作用を持った安定剤(商品名
 デパス)がよく使われますが、副作用として眠気があるので勝手に飲まなく
 なる人が多いようです。ほかに中枢性に筋肉を柔らかくする薬がありますが、
 あまりぱっと効く感じはしません。漢方薬として葛根湯(風邪に使うあれで
 す)、芍薬甘草湯などがあり、漢方薬の方が副作用をあまり気にしなくてい
 いため使いやすいものです。湿布や軟膏の類はよく使われますし、一定の効
 果が期待できます。しかし、いつも同じところに貼っていると早晩皮膚がか
 ぶれてきますので、毎日少しずつ場所をずらすように心がけてもらいます。
 麻酔科では、肩に痛み止めの注射をします。痛み止めと言っても歯を抜くと
 きの局所麻酔薬で、少量の使用では大きな副作用はありません。本当に苦し
 いときにはステロイドを少量加えることによって劇的な効果が得られます。
 肩が凝って吐き気までするような人にはお勧めです。

                     玉川 進(たまかわ すすむ)
                     旭川医科大学第一病理学講座

玉川 進(たまかわ すすむ)

旭川医科大学第一病理学講座


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