OPS発足と筋弛緩剤投与事件の話

明けましておめでとうございます。今年もちまちまと書いていきますので、時間のあるときに読んでください。

【救急勉強会:OPS】

昨日(1/12)に興部消防署で初めての救急勉強会を開きました。興部は人口が5000人の町で、救急車が走り回ることはほとんどありません。かといって何にも知らない救急隊員に運ばれることは、いくら短時間の場合でもいやでしょうし、税金を払っている私たちの生存権を奪うことにもなりかねません。そのため、現場経験の不足を自発的な学習で補う必要があるのです。幸い、国保病院の阿部俊英院長、兼田孝事務長、興部消防署の矢野政一署長のご理解いただき、毎月一回、私の出張しているときに勉強会を開くことになったものです。

勉強会の名称は「興部進歩の会 Okoppe Progressive Society, OPS」。鼻水が出そうな大仰な名前ですが、そこは消防の若者たちの希望が託されていると思って許してください。普通はオーピーエスと呼んでいます。会長には興部消防署の矢野政一署長になっていただきました。

矢野会長の挨拶のあと、第一回目のメニューは救急基本手技の確認と症例検討です。全員で23名、和気藹々とした雰囲気の中活発な討議がなされ、有意義な時間を過ごすことができました。びっくりしたのはその参加メンバーで、紋別、滝上、雄武、西興部の紋別地区消防組合の全署から1−4名ずつと、興部町の保健婦3人(遠山、藤井、竹田諸氏)、栄養士の長谷川さんまで参加してくださいました。紋別の某消防士は藤井さんと竹田さんで態度が違いましたし、私はセクハラと騒がれながらも遠山さんをおちょくって遊んでしまいました。栄養士の長谷川さんには次回(参加された場合には)遊んでもらおうと思っています。

OPSのお問い合わせはビッグマウス mailto:mkma72@d2.dion.ne.jp まで。

【仙台の筋弛緩薬投与事件について】

私は現在は病理学で遺伝子関連の研究を行っていますが、もともと麻酔科の人間です。準看護士が投与したとされる毒薬「マスキュラックス」は常時使用しています。

マスキュラックスは全身麻酔の時に筋肉を虚脱させるときに用いるものです。胃を取る手術を考えてみましょう。そのまま腹を切ると患者は痛みを感じますから、全身麻酔薬で眠らせて手術します。今の麻酔薬は患者を眠らせるだけで、おなかの筋肉を柔らかくする作用は強くありません。そのままおなかを切ると患者は痛くはないものの、おなかの筋肉が張ってしまい、中にしまってある胃や腸が、ちょうど練り歯磨きのようにウニウニと外に押し出されてしまいます。ここでマスキュラックスを注射するとおなかの筋肉はデレンとなり、外科医はゆったりと胃をいじることができるのです。

マスキュラックスは強力な筋弛緩薬なので、随意筋(自分の意志で動かせる筋肉)をすべてデレンとさせます。この中には呼吸する横隔膜も、目玉を動かす筋肉も含まれます(心臓は随意筋ではないのでマスキュラックスを注射しても普通に動き続けます)。意識はそのままです。患者に少量のマスキュラックスを投与する方法は緊急手術の際に行われますが、そのときには患者はまず目の不調を訴え(視点があわない、物が二重に見える)、つぎに全身の虚脱感を、最後に息が苦しいと言い出して呼吸が止まります。その間の時間はマスキュラックスを1/4本(1mg)注射した場合で3分から5分、入れる量が多くなるほど早くなります。

テレビで映し出された小さな瓶(アンプル)では3分以内でしょう。呼吸が止まるまでの数分で、犯人はアリバイ作りができます。ここは青酸カリや東海大学の安楽死事件(KCl を注射した)のように注射して即死する薬剤との違いです。

マスキュラックスを点滴に入れた場合には、その濃度(=薬の量/液体の量)で死ぬか生きるかが決まります。点滴の量に比べて薬の量が多い、つまり濃い点滴をされた場合には、時間はかかりますが患者はやはり息ができなくなって死んでしまいます。しかし、薬の量が少ない、つまり薄い点滴をされた場合には、体に入る量より尿や胆汁として出ていく量のほうが多くなり、患者は息苦しい程度で死ぬことはありません。これが何人かが生き残った原因です。

全身が動かない感覚は、ちょうど金縛りに似ています。金縛りと違うところは呼吸もできなくなって最期には死んでしまうことです。患者は声を出したくても手足を動かしたくても叶わず、ゆっくりと息が止まっていく感覚をクリアな頭脳で味わいながら死ぬことになります。何年か前にオランダの安楽死の実録テレビを見たことがあります。そこで使われていたのもマスキュラックスと同等の薬でした。その番組ではまず全身麻酔薬を注射して意識を失わせてから同等の薬を注射していました。イギリスだったかの、何人も安楽死させたという医師も同じ方法を用いています。

テレビでは毒薬を鍵なしのところに置くのはけしからんと言ってましたが、マスキュラックスを金庫に入れているところは皆無です。大きな手術室を持っている病院ならともかく、普通のクリニック程度では年に数本も使わないでしょう。

半年に一回行われる薬剤点検(棚卸し)でようやく薬がなくなっていることに気づくくらい。それだけ人目に付きづらいのかもしれません。利尿剤を注射したこともあるようです。利尿剤では死にません。何でこんなことするのでしょうか。海外の例では「皆の注目を引きたかった」と言った看護婦がいました。待遇とか何とかではなく、この犯人もただ自分が中心なりたかっただけなのでしょう。

01-1-13 14:04

玉川 進

旭川医科大学第一病理学


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