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エビデンスって何

 5年前からよく聞くようになったエビデンス。単語としては「根拠」だがここではEvidence- Based Medicine, EBM:明らかな根拠に基づいた医療のことを指す。読者諸兄に最も馴染みの深いEBMと言えばガイドライン2000だろう。この中ではEBMの思想に基づいてすべての医療行為についてランク付けをしている。例えば心肺停止直後の除細動は明らかに有効であるが、気管内挿管の有効性はそれより劣るといった具合である。3年ほど前にはエビデンスがなければすべて誤りのような雰囲気すらあったのだが、現在はちょっと落ちついてエビデンスを眺められる状況になっている。

EBMとは何か

 詳しく書くと「患者に対して、医療情報の妥当性・信頼性を十分ふまえた上で、確実で明確な臨床判断を行なうことを重要視する医療方法」となる。今までの医療が経験主義でともすれば大家の言うことが金科玉条とされてきたのに対し、EBMでは経験や流言を根拠にするのではなく、研究によって有効性が確かめられた方法で治療を行う。有効性の根拠となるのが今まで発表された良質の論文であり、それら論文を組み合わせてさらに根拠を高めていくものである。対象となる医療は治療方法に留まらず、検査から予後、疫学、経済効果まで様々である。
 EBMの発祥は英国であり、現在でも英国厚生労働省がEBMを強力に押し進めている。また提唱者の名前をとったコクラン研究所が5か国に設置されており、世界に向けてその研究成果を発信している。

EBMはどう決まるか1)

 EBMは多くの医学論文を一緒にして統計処理をすることによって得られる。用いられる統計学はMeta-analysisといって何項目もの要因を設定しそれらがそのように関連付けられるかを推測する方法であり、私くらいの知識ではとても理解できない複雑な数学的処理を必要とする。
 EBMを決定する上で最も重要なのは基礎となる文献の質である。採用する素材の質が悪ければ、出来上がった作品の質も望めないのは料理もEBMも同じである。時代を経るにつれて研究方法は進歩しており、とくに実験方法で複数の群の差をなくし客観的評価にたえうる結果を生み出す方法(介入と言う)は目覚ましく変化した。そのため以前はEMBにふさわしい論文とされたものでも現在は不適格となるケースも存在する。Greenらは1980年から1997年までのEBM論文18編について詳細に検討した。そのうち、研究者が有効な介入を行っていたものは18編中わずか7編に過ぎなかった。7編中5編は対照群へ介入(コントロールスタディ。だが無作為割り付けは1編のみ)しており、7編中2編は何らかの盲検法を用いていた。研究評価の方法はコントロールスタディの5編で全て患者の自己申告によっており、退院後の患者の状態を調べたものはなかった。17編中7編では量経験的(良くなった、悪くなった)は評価法を用いており、2編では適切なコントロールすら立てていなかった。このことから、現在エビデンスと言われていることでも将来は変わっていくことが十分想像できる。

EBMは知識ではない

 臨床医がEBMを語る時、それは検査方法や治療法について、つまり知識をさすのだが、論文1)を読むと現在はその段階はとうに過ぎたらしい。EBMは当たり前で、EBMを教育に取り入れることが今の流れのようだ。英国などのEBM先進国では医学部教育にEBM講座が設けられ、「EBMという考え方」を学んでいる。与えられたものをそのまま受け取る段階から、自分で証明してみせる段階に進んだといえよう。このあたりを読んでいると、幾何の証明問題のように数学的なものの考え方を習っているような気がする。実際にインターネットでEBMを調べても、大多数のサイトで考える筋道を解説している。
 疑問が起こったら自分で調べ患者に最適な治療法を決定する。この時に最も頼りになるのがEBMの考え方である。論文の探し方、論文の読み方、解釈の仕方、その採否まで、EBMは最も確実な方法を提供してくれる。

使われないことには

 「彼女の目にパニックを見た時、EBMはドアから出ていった」という不思議なタイトルの論文2)には痛いことが書かれている。心筋梗塞後の予防がEBMによって確立しつつあるのに半数の患者は何もしていないのはなぜか調査したところ、患者と医者の双方に時間がない場合、または医者と患者の関係がうまくいかない場合にはEBMなんか採用されないと言うのである。患者にとって時間は生活を顧みたり通院をしたりするものであるし、医者にとっての時間は患者への説明であり、緊急時の処置である。
 もう一つ注意したいのは、医療の全てがEBMで片付くものではないという現実である。ガス交換にはバッグマスクで十分なエビデンスが証明されているのにチューブ類を求めるのは片手が空き疲労が少ないためである。しかしこれとてどこにエビデンスがあるか分からないうちには判断のしようがない。私たちの行っている行為をすべてEBMのフィルターを通して見ることが患者にとっても私たちにとっても必要なことであり、それから現状を加味して最上の方法を選択すべきであろう。

参考文献
1)JAMA 2002;288(9):1110-2
2)Fam Pract 2002 ;19(6):605-610


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