除細動は二相性へ

国内の除細動器は長い間単相性波形のものが使われてきた。ところが欧米では救命率が高いという理由で以前から二相性波形のものが市場に出回っている。厚生労働省の「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」(以下検討会)ワーキングチームでは二相性を「新型」と称し、これへの切り替えをスケジュール化することを提言している1)。今回はこの二相性除細動器を取り上げる。

単相性とは、二相性とは
単相性波形とは直流が作る波形で、二相性波形とは交流が作る波形である。グラフに書くと単相性では上に凸で、二相性では上に凸の直後に下に凸の波形が現れる。現在の除細動器は最大電圧が最初に訪れ、それが短時間で減衰して突然電圧が途切れるようになっており、グラフに書くと彫刻刀の切り出しの刃を上に向けたような台形となる。二相性では同じ形の波が上と下を向いて一つずつある。
歴史的には単相性より二相性の方が古い。1947年、臨床において初めて成功した除細動は二相性であったため、これ以降二相性が臨床に用いられていた。1975年、コンデンサーによる単相性除細動の成功率の高さが報告されると、構造の簡単さから除細動器の小型化・軽量化が一気に進み、腹部埋め込み式除細動器の実用化へと進んだ。二相性の有効性が再確認されたのは1983年であり、後述する理由からさらなる小型化が可能なため1987年には胸部埋め込み式除細動器に応用されている。

二相性は低エネルギーでOK
単相性除細動器を犬に当てた場合、除細動に成功する最低のエネルギーは1.5ジュール(J)/kgである。これは心筋のダメージをもたらすエネルギーの20倍であり、犬に心室細動を起こすエネルギーの実に320倍である。ヒトにおいては、単相性除細動器で360Jの除細動を受けた患者の約8%に心筋障害を示す徴候が見られ、また心拍リズムの変調が観察される。。
二相性の利点は何と言っても単相性に比べて少ないエネルギーで除細動が可能なことである。エネルギーが少ないので心筋へのダメージが少ない。そればかりか、単相性と二相性で同じエネルギーをかけた場合にも二相性は心筋ダメージが少ない。二相性は一回に使うエネルギーが少ないので電池を小さくでき、単相性では腹部にしか埋め込めなかった除細動器を胸部に埋め込めるくらい小さくできた。
なぜ低エネルギーで除細動できるか。第二相波が第一相波で生じた遺残電圧を消去するため心室細動を誘発しにくくするというのが有力な説であるが詳しくはわかっていない。

本当に有用なのか
ガイドライン2000では二相性除細動器の有用性を認めつつも、詳細な比較にはデータが足りないと述べている。ところがその2000年には二つの無作為割り付け試験の論文が発表された。一つ目の論文では二相性で70, 120, 150, 170Jの順に、もしくは単相性で100, 200, 300, 360Jの順に除細動を行っており、心拍再開は二相性で高率であった。二つ目の論文はもっと劇的で、4つの救命センター338人の突然心停止患者に対して行われたものである。150J固定の二相性除細動では出力漸増の単相性除細動器より明らかに蘇生率が高かった。内容を見ると一回の除細動で成功したもの二相性96%, 単相性59%。3回以内で成功したもの二相性98%, 単相性69%。除細動後に循環が安定したもの二相性76%, 単相性54%であった。生存入院率および生存退院率は二相性・単相性で統計的な有意差はなかったが、生存者で大脳機能が良好と判断された割合は二相性の方が単相性より有意に多く、また昏睡状態で退院した割合は二相性で少なかった。
二相性除細動では同じ出力で何回も除細動すると考えがちだが決まってはいない。。前述の報告では前者は出力を漸増させている。研究背景を無視すれば二相性であってもエネルギーの高い方が除細動率が高い報告が多い。またメーカーによっては可変出力を売りにしているものもある。それだけ研究の余地があるということだろう。

進化する除細動器
除細動器の出力を考えるとき、最も重要なのはどれだけのエネルギーが心臓を通過するかである。胸郭の大きい人、肺の含気が多い人、胸毛の生えている人、乾燥肌の人は単位体積あたりの抵抗が高い。電流は通り道を広げることで抵抗を下げようとするため、心臓を広く囲んだ胸郭全部に電流が流れることになり、心臓を通過する電流は少なくなる。この現象に対抗しようと、ある二相性除細動器では通電する直前の1/10秒でその人の抵抗値を測り、心臓を通過する電流が多くなるような波形を計算して放電する仕組みになっている。
単相性より二相性がいいのなら、三相性はどうなのだろう。当然湧く疑問で、動物実験ではやられているらしい。また、除細動の効果は波形によってかなり異なる。除細動器出現当初はサインカーブだったが、いまは前述のように切り出しの刃のような形になっている。将来はまた違った形になることは十分可能性がある。

報告は出たが
「新型除細動器について切替えに要する費用・期間等の検討を踏まえた具体的な導入スケジュールに基づき救急隊において早期導入を図る必要がある」という検討会の報告を受け、二相性除細動器は急速に普及するだろう。旭川でも新年度に3台の新型除細動器の購入が決まった。しかし、これで全国的な救命率がすぐ向上するとは正直のところ考えられない。検討会報告でも述べているように、「(救急救命士)配置率の全国平均は6割程度にとどまっており、地域格差も相当見られる」からであり、また救急隊が到着するまでの時間は変えられないからである。「どこでも除細動」が可能となるためにはまだまだ変えるべきところがいっぱいある。


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