最新救急事情
小児救急医療の危機

小児救急医療の危機が叫ばれている。子供が夜中に熱発しても診てくれる医院がない。ならばと総合病院に連れて行くと1時間以上待たされる。長い待ち時間の間に容態が急変したという話も聞く。
子供はどんどん減っている。それに伴って小児科標榜病院も減り続けている。厚生労働省の調査によると、平成2年と平成11年を比較した場合、病院では591減少し、診療所では959も減少している。また小児科医の数は昭和45年の3万2041人から30年後の現在もほとんど増えていない。内科医はこの30年で約2倍になった(6万人から10万人へ)のとは大違いである。なぜ小児科医は増えないか。なぜ小児科は減り続けるのか。今回は日本医師会雑誌から小児科救急の現状をお届けする。

コンビニ小児科
この30年間の女性の社会進出・晩婚化は、母親の意識の変化をももたらした。それは「いつでもどこでも質の高い完結医療の提供は当然」という意識に代表される、権利意識の台頭である。また核家族化は家庭機能の減弱をもたらした。日中仕事をし子供と一緒に過ごす時間のない母親は、保母の伝聞のみを主訴として時間外に病院を受診する。また別の母親は子供に熱があってもまずは家事を終わらせ病院を訪れる。子供は大切だから、誰が当直しているか分からず検査も入院もできない夜間急病センターより、確実に小児科医が診てくれる総合病院の小児科を時間外受診する。現在はほぼ全ての自治体で3歳以下の診療費が無料であり、これは時間外であっても同様である。いつ行ってもただで小児科の先生にかかれるのなら待ち時間が少ない時間外に行った方が楽であろう。

パンクする小児科
少子化は確実に進んでいる。将来お客さんが少なくなる小児科を選ぶ学生が減るのは当然である。現在いる小児科医、特に開業小児科医は高齢化が進み、時間外診療は敬遠される。また新規開業の小児科クリニックはビル診や住宅分離型であり、時間外の診察は行わない。小児科の患者は二次救急病院においてすら90%が軽症であり、時間ばかり食ってお金にならない不採算部門である。この不況の時代、採算のとれない部門はたとえ小児科であろうとも閉鎖される。その結果、わずかに開いている総合病院の小児科に多くの患者が殺到し、昼夜変わらない勤務に医師は疲れ果てることになる。
以前、私の勤務していた病院は周産期センターも持っている基幹病院だった。そこの小児科は当直する医者が5人いるのだが、その勤務は朝8時からずっと働き詰めで当直勤務に入り、夜は小児科入院患者40名と新生児ICU12床と時間外外来患者を見続け、朝は5時に起きて採血や指示を出し、そのまま普通に勤務して夜に帰るという、ものすごい勤務をしていた。ほとんど寝られないらしい。5人だから平均で月6日間の当直があることになる。

東京都の挑戦
記事の中には「東京ER・墨東」の小児科の先生の記事がある。救急診療科と救急救命センターで構成され、「いつでも・だれでも・さまざまな症状」をもつ「救急患者」に対応する制度である。総合診療科の中に内科系・小児科系・外科系の3系列を有し、各系列は専門の医師が診療に当たる。午後5時から翌日午前9時まではER診療医が外来診療を担当し、入院患者は病棟担当医師が対応する。
と、ここまで書くと理想的なERのように思えるが、内容は同情を禁じ得ない。
小児科の医師定数は常勤7名、非常勤2名でER専任常勤2名。定数として認められているER専任非常勤6名は欠員である。その結果、医師11名で365日2人当直体制(ERと病棟)を敷いている。1当直当たりの患者数はER前の20-30人からER開始後には50-60人となり、患者は2時間待ちである。ほとんどは新患で軽症者、大量の患者のため2次救急は断り1次救急の対応に追われている。ER受診後にはかかりつけ医に転院を勧めているが、多くは振り分けに納得せずに墨東病院小児科を受診するため日中も小児科はパンク状態である。平日当直は2人、休日は日勤3人であり、当直回数は月平均8回、最大10回にもなる。当直翌日も通常勤務である。ERを作っても病院全体の病床数は増加していないため後方病床がない。平日は事務で探してもらえるが、夜間休日は当直医が探さなければならない。
記事を読んで考え込んでしまった。夜間患者数。翌日通常勤務。当直最大月10回。どれをとっても長いこと勤められるとは思えない。独身のうちはいいだろうが、結婚し家族ができると家庭を維持できるのか心配になってしまう。

改善は遠い
この悲惨な状況は医師が増えれば解決する問題がほとんどである。国も自治体もその点は分かっており、診療点数を大幅に増やしたり医師定数を増やしたりして労働条件の緩和に乗り出している。しかし、少子化を前にして小児科を選ぶ学生が増えるとは到底思えない。結局定数はわずかに在籍する小児科医が自分を犠牲にして孤軍奮闘しているのである。
日本医師会雑誌ではこの小児科救急の特集に13の記事を載せており、その多くで解決方法の提案をしている。
一番多かったのは、子供は国の宝だから十分な予算を投入して設備と人員を確保するとともに保険点数を引き上げ採算性を高めるという考えである。一言でいうと金になるよということだが、医療費の抑制に躍起になっている国が小児科だけ大盤振る舞いできるわけがない。例として平成11年に策定された小児救急医療支援事業では補助金の負担の1/3を市町村に求めたため実施が計画を大幅に下回り、平成12年度いっぱいで実質的に事業は中止されている。
次に多かったのが卒前卒後の医学教育を改善し小児救急医療の重要性を認識させるというものだが、これはどの科の雑誌でも同じことが書いてある。
大学病院の小児科医を活用したり、リタイア女性小児科医の活用を図るのは現実的と思われる。実際に岩手や熊本では大学病院が中心となり小児科救急制度を軌道に乗せている。国立大学も生き残りをかけて地域貢献に躍起になっている時期でもあり、大学に溢れている小児科医をうまく活用するのが現在の最上の方法であろう。

引用文献
日本医師会雑誌 2002; 128(5):707-66


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