最新救急事情

050308 自動体外式除細動器で変わる救急現場

 いま救急現場で最も旬な話題は自動体外式除細動器AEDだろう。標準課程の救急隊員を横目に一般人が扱えるようになったのはついこの前である。今回はAEDについて報告する。

 AEDでどう変わるか
 一般市民でも短時間の講習を受ければ使えるようになるAED。ではAEDで救急はどう変わるか、救急の分野では世界の標準ともなっているシアトルとその周辺の例1)である。1999年からの4年間、AEDの使用状況を調査した。AEDは4年間で救急病院を除き475台設置された。配置の内訳は事業所が175台で37%、以下警察が57台、一般病院が52台、一般家庭が51台であった。普通救命講習+AED講習修了者は4年間で4004人であった。4年間で対象地域での病院外心肺停止症例は5761例、そのうち心臓疾患が原因で心肺停止に至った症例は3754例であった。この3754例に対し、4年間で救急隊到着前にAEDで除細動が試みられたのが50人(1.33%)であった。AED施行の割合は年ごとに上昇しており、最初の年の1999年が0.82%であったのに対し、2002年には2.05%にまで上昇した。これを場所ごとに分けると医療施設以外の施設では2002年には5.2%、老人ホームなどの病院以外の医療施設では2002年で4.2%に上った。AEDを施行された50人のうち38名(76%)が病院に生存入院し、25名(50%)が生存退院している。退院先は22例が自宅、3例が老人ホームもしくはリハビリセンターであった。AED施行場所による生存退院率は、病院外施設が48%、医療関連施設が58%、自宅が25%であった。これの結果を受けて筆者らは、生存率50%というのは救急システムでも他に類を見ない優れたものであるとしている。

 自動式と半自動式の違い
 次は、自動式と半自動式の二つのモードがある除細動器で、初めて扱う講習生に取ってどちらが間違いが少ないかを検討した論文2)を紹介する。
 62人の看護学校新入生に対し、心停止のシナリオで自動式、もしくは半自動式の除細動器を使用して心肺蘇生講習を行った。AEDのボイスガイドは1回のショックあたり6回とし、ショックの回数は3回とした。学生達の行動をビデオで記録して間違いを評価した。その結果、心電図解析中の行動が間違っていた学生は自動式で8%であったのに対して半自動式は17%であった。通電時の行動では自動式がみなマニュアル通りであったのに対して半自動式では7%が間違いを犯していた。詳細を見るとショックとショックの間の時間は自動式が長く、これは半自動式では受講者がボタンを早く押すためであった。脈拍の確認回数は半自動式群で多かった。1つのショックの間で間違いを検討すると、循環の確認を怠る間違いが自動式では回数を重ねても数が変わらないのに対し、半自動式ではショックの回数が増える程循環の確認を忘れるエラーが多くなった。自動式に比べ半自動式では確認とショックで2回ボタンを押す。たったこれだけのことでエラーが増えてしまうようだ。


 AED指導にプロはいらない
 AEDで最も費用がかかるのは、機材ではなく講習のための費用である。安く講習を行うことができれば、それだけ多くの講習会を開くことができる。この費用について、指導者養成の観点から研究したのがこの論文3)である。
 日赤の指導員4名と初めて指導する指導者4名が学生の客観的臨床能力試験(OSCE)を指導し、二つの指導者の群でOSCEの点数に違いがあるかどうかを調べた。日赤の指導員は最低でも2年前に基礎心肺蘇生コースを終了しており、その後月に2回のペースで講義を行っているプロである。合計8名の指導者は研究の前に4時間、日赤の指導歴20年の看護職員にAEDをみっちりたたき込まれ、その後学生の指導を行った。その結果、OSCEの平均点数は日赤の指導員でわずかに高かったものの、統計学的には有意差を認めなかった。OSCEの点数はシナリオで左右され、また継続して訓練することによって上昇した。このことからプロには根本的には優位性はないとしている。
 ずいぶん乱暴な論文だと唖然とするが、しっかり指導をしさえすれば誰が教えてもちゃんと覚えるということなのだろう。日本のAED講習も指導者養成に対して柔軟な考え方を示しているため、急速に普及することが期待できそうだ。


 心肺蘇生の素養は必要か
 AED講習を普通救命講習と組み合わせたほうがいいか、その必要はないかということに対しては、研究によって意見が分かれている2)。
 救助隊員に自動式除細動器の簡単な説明書だけを見せて正しく使えるかを試験したところ95%の退院は問題なく使えたという論文がある。もっと面白いのは、BLSを知らない小学校6年生15人に対してAEDを教え込み、正しく使えるようなったかという論文がある。そこでは全ての児童が正しい位置に電極を貼ることができるようになり、また放電時の対処の仕方も正しく覚えることができたとされている。
 これに対して筆者らは、救助隊員の例では救助隊員の半数はすでにBLSのトレーニングを受けていたこと、今までの研究の中で電極の位置などのエラーが少なかったとしているものは事前にBLSコースを受けていること、ある空港で30人の職員に対してAED講習のあとテストをしたところ、3分以内で除細動まで漕ぎ着けたのはわずか8人であったことを挙げている。AED講習会後のテストの失敗の原因の多くは電極を貼ることに関連している。AED講習会でビデオを使い、絵を使って一生懸命教えても、心臓を見たことのない素人にとっては電極を貼るという行為は素人には難しいらしい。それより体を使って心臓マッサージ体験をすれば、電極は手の横に貼ればいいので感覚的に覚えやすいらしい。


 どれだけ普及できるか
 最初に挙げた論文で、筆者はこう述べている。「この4年間は最初ということで、数は少ないながらも順調に普及してきた。だが、この一時的な傾向がいつまで続くか分からない」。これは公共の施設や事業所に置けるところは限られているからであり、そこに無理に置いてもらうより自宅に備えるのが望ましいと述べている。振り返って、日本ではまだほとんど設置されていないAED。自分の大学病院にもあるらしいがどこにあるかも知らないAED。まず置いてみないことには話が始まらない。

1)Circulation 2004;109:1859-63
2)Resuscitation 2005;64:41-7
3)Resuscitation 2004;63:305-10


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