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060504エピネフリンだけは救えない

 救急現場での薬剤の投与が始まる。挿管救命士に続いて薬剤救命士が誕生することで、救急医療の高度化も現時点での到達点に達したことになる。今回は現場での薬剤投与について考える。

根拠のない一剤投与

 まずは厚生労働省研究班での報告を読む1)。これはドクターカーと通常の救急車で薬剤投与によって蘇生率がどう変わるかを見たものである。分析の対象は目撃のあるCPA症例とした。内因性CPAの場合、ドクターカーでエピネフリンを投与された群では通常の救急車でエピネフリンを投与されなかった群に比べ蘇生率(p=0.413)、1ヶ月後の生存率(p=0.051)で有意差は見られなかった。これがエピネフリン、アトロピン、リドカインの3剤併用になると、ドクターカーでは蘇生率(p=0.016)、一ヶ月後の生存率(p=0.027)で有意差が見られた。研究班の結論は「エピネフリン1剤使用では、対照群の蘇生率を基準とした場合、研究デザイン上、効果を過小評価せざるを得ないこと、統計学的な有意差はないものの対照群と比較して蘇生率が上昇していること、1ヶ月予後では更に介入群の効果が鮮明になること等から、一定の効果については評価できる」としている。また同じ研究の結果を横浜市立大が報告している2)。こちらも3剤なら効果があり、1剤でも改善が見られたとしている。
 これらのデータで「エピネフリン1剤が有効」と宣言するのは明らかに誤りである。一般的にpが0.05未満をクリアしなければ統計学的に何も言えないのは統計学の初歩である。またドクターカーと通常の救急車という医療水準では全く異なる手段の間でデータを比較しているのも疑問である。ドクターカーの場合にはすぐエピネフリンを投与できるのに対して、通常の救急車では電話なりの時間を経てエピネフリン投与となる。横浜のデータを見ると、ドクターカーと通常の救急車では除細動までの時間に差はない。つまり医者が自分の判断でエピネフリンを投与しても有意差は出ないのである。救急隊が電話をかけている間に心室細動から心静止に移行する症例もあるのではないだろうか。この研究結果で研究班は当初3剤の許可を考えていたのだが、プロトコールの複雑さからエピネフリン1剤へと方向転換したのだろう。

否定的な論文

 現場での薬剤投与に対して最も強い影響力を持つ論文は、2004年11月号で紹介したNew England Jpurnal of Medicineに載ったもの3)であろう。ここでは病院前に二次救命処置をする群と一次救命処置のみの群とで心拍再開率と生存退院率を比較しており、心拍再開率は二次救命処置群で高かったものの、生存退院率は2つの群で差がなかったとしている。また救命の輪の構成要素である「素早い通報」「素早いCPR」「素早い除細動」「素早い二次救命処置」でそれぞれが救命にどれだけの役割を果たしているか検討したところ、輪の左側ほど役割が大きく、素早い二次救命処置ではやってもやらなくても救命率には差はほとんどなかった。
 最近では現場から病院到着までの処置によって死亡率がどう変わるかという論文4)が出ている。アメリカのピッツバーグで内因性の虚脱を起こした1496名に対して検討し、病院着1日までに死亡した症例と病院着1日以降に死亡した症例を調べた。全症例のうち死亡したのは90%に上り、その3/4は病院着1日以内で死亡している。病院着1日までに死亡する因子としていはエピネフリンの使用が挙げられ、また病院着一日以降に死ぬ因子としてもエピネフリンが関係している。この結果は、エピネフリンによって無理に心臓を動かしても死亡するということを表していると考えられる。

ガイドライン2005での扱い

 国際ガイドライン2005によると、エピネフリンの蘇生に対する効果すらまだ明らかではないらしい。エピネフリンは心拍再開率は向上させる。しかし生存退院率まで向上させるデータはどこにもない。しかしエピネフリンに代わる薬剤はバソブレッシンしかなく、それとてどこにでもある薬剤ではないためエピネフリンが心停止症例へのファーストチョイスであることには変わりはない。
 病院外での小児のエピネフリン投与量はガイドライン2005ワークシートでは大量エピネフリンの効果をある程度認める内容だったが、ガイドライン2005では大量投与は意味がないとされた。これと同様の報告も2005年に出されている5)。これによると一般的な使用量の10倍から20倍のエピネフリンを投与すると心拍再開率は上昇したものの、生存退院率や退院時の神経学的なスコアには何ら変わりがなかった。

滞在時間を延ばして助かるのか

 薬剤投与のプロトコールを初めて見たとき、我が目を疑った。いったい何分現場にいさせるつもりなのだろう。患者に取り付き心室細動でAED、自動調律に戻らず医者に電話して、点滴とって薬を入れてAEDかけて反応を確かめて救急車に乗せる。現場にいる時間がとにかく長い。家族にしたら、救急隊が慣れない点滴をとって薬を入れる暇があったら一刻でも早く病院へ走ってもらいたいと思うだろう。医者としても救急さんが点滴とったりショックをかけたりする間ずっと電話につきあわされる。そんな時間があったら早く連れてきてもらったほうがいい。しかもプロトコールを見ると目撃のない心静止もある。医者にすれば心停止全例につきあうよりは、症例により、また電話してきた救命士により指示を変えるのは十分に理解できる。
 JPTECでは「Load and Go」「完全なる社会復帰」を唱えている。G2005では「絶え間ない心マ」「心マ施行者ローテーション」をスローガンに救助者はいつも元気良く中断なく心マをせよと強調している。しかし現場での気管挿管も薬剤投与もStay and Playそのものである。厚生労働省の研究班はこの薬剤投与を「速やかな病院搬送から速やかな心拍再開への行動基準のシフト」と述べている。しかしエピンエフリンだけではシフトは不可能だ。救急隊に3剤を使わせるか、もしくは一刻も早く病院に運んで医師が3剤を使うべきだ。

協力

引用文献
1)http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/12/s1226-1b2.html
2)Resuscitation 2005;66:53-61
3)N Eng J Med 2004;351:647-56
4)Resuscitation 2005;67:69-74
5)Pediatr Emerg Care 2005;21:227-37


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