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心マの小物は当てにならない

「絶え間ない心マ」がガイドライン2005の中心に据えられている。心マは中断してはいけない。とはいうものの心マは大変な重労働である。できるなら若者に任せるか、機械の手を借りたい。

 心マを助けてくれる機械といえば自動心マッサージ機である。ピストンで胸骨を押すThumperがポピュラーであるが、これは大掛かりで救急車の中でしか使えない。小型で現場に持っていける自動心マッサージ機としてAutoPulseがアメリカで注目されている。この機械についてJAMAに論文が二つ出た。またもう一つの小物としてICLSでは必須の背板がある。これについても最近面白い結果が報告されたので紹介したい。

AutoPulseとは

 アメリカで2004年から使われるようになった自動心マッサージ機の商品名であるである。一般名は「自動胸郭圧迫自動心臓マッサージ機」と書かれている。イメージとしては背板にバストバンドがついたものである。電動式でバストバンドがぎゅっと縮まり背板に胸骨を押しつける。心臓マッサージでは心臓を外から直接押す機序と胸腔内圧を高めることによって心臓や大血管を収縮させて血液を流す機序が考えられており、実際にAutoPulseで心マすると手で心マするより胸腔内圧が上昇し血圧も高くなることが報告されている。日本の救急医療財団のホームページ1)でも好意的な書き方がされている。

 一つ目の論文はAutoPulseが有効であったという報告2)である。これはバージニアから出た報告で、手での心マを657例、AutoPulseを381例に使用している。その結果自脈が戻ったのが手で20%、AutoPulseで35%。生きて病院に収容されたのが手で11%、AutoPulseで21%。さらに生存退院したのが手で3%、AutoPulseで10%となっている。生存者の神経学的な状態も有意差はないものの数字を見るとAutoPulseの方が優れていように見える。

 もう一つの論文はJAMAの同じ本に出たものでシアトルからの報告3)。こちらは効果を否定している。手で心マする症例が517例、AutoPulseで心マするのが554例であった。評価は119番通報から4時間後の生存率と退院時の生存率、神経学的評価である。結果は、4時間後の生存率は手での心マでもAutoPulseでも変わらず約30%、生存退院率はともに11%程度と差はなかった。これを心原性疾患による心停止の患者に絞ってみると、4時間後の生存率は差はないものの、生存退院率は手の心マで10%だったのに対してAutoPulseでは6%と有意に低く、また神経学的評価で自立した日常生活を送れる割合が手の心マで8%、AutoPulseで3%とこれも有意に低かった。

機械はダメみたいだ

 同じ研究方法でどうしてこんなに差が出るのだろう。初めの論文、AutoPulseのほうは119番の覚知から患者に取り付く時間がAutoPulseで有意に短いのだが、それでもわずか24秒の差でしかない。救急隊到着時の心波形では心室細動の出現頻度は同じとしても、そこから自脈に回復する割合が手の方が27%に対してAutoPulseのほうは56%であり、このあたりに結果の差が出てきているような気がする。また初めの論文では手での心マが2001年から2003年、AutoPulseが手での心マを引き継ぐように2003年後半から導入されており無作為割り付けでないこと、AutoPulseの方は低体温療法が導入されたあとのデータであるところもこの差を引き起こしていると考えられる。それに対して後のほうの論文は無作為割り付けで信用性が高い。読み比べれば後の論文の方が本当なのかなという気がする。

背板も意味がない

 背板は昔から心臓マッサージのときに使われてきた。ガイドライン2005においても確実な心マのために背板をいれるように勧めている。勉強会で背板について質問したところでも背板は心マしやすくなる道具と救急隊員は理解しているようである。しかし本当だろうか。実際にみんな背板を使っているかという質問には同意する参加者は少なく、背板を入れると心マが楽になるかという質問にはさらに同意が少なかった。自分の経験でも大した変わらないような気がする。

 この短い論文4)で著者らはマネキンをベッドの上に置いて被検者はその横に立ち、背板を入れるのと入れないのとで心マの深さを測定した。その結果、背板を入れても入れなくても胸を押す深さは変わりがなかった。また3分間押し続けてどれだけ疲れたか自己申告させたところ、これは有意差はないものの背板を入れたほうが疲れは大きかった。この疲れは背板なしでマネキンのすぐ横に膝をつけて押した時にも変化はなかった。

 この論文はさらに内容が怪しくて、被検者が若い医学部2年生のたった6人しかおらず、また評価も胸の押す深さと自己申告による疲れしか見ていない。知りたいのは胸のへこみではなく血流が確保できるかであるし、また被検者の年齢がもっと高くなれば例えば立って押すより膝をつけたほうが腰の痛みは軽くなるだろう。しかしながら、背板で心マを楽にするには患者を布団に落ち込ませないようにする必要があり、そのためには今のような小さな板には大した意味がないことは想像できる。

 では背板の欠点は何か、会場に問いかけたところ答えた人は一人もいなかった。答えは、「心マを中断しないと装着できない」ことである。

新たな機械が欲しい

 AutoPulseは画期的な製品と思えたのだが、JAMAに否定的な論文が載ったことにより評価は大きく下がるだろう。結局は手で押すしかないのか。体力に自身のない筆者には次の製品の発表が待ち遠しい。

1)http://www.qqzaidan.jp/qqsosei/guideline/techniques_devices.pdf
2)JAMA 2006;295:2629-37
3)JAMA 2006;295:2620-28
4)Intensive Care Med 2006;32:1632-5


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06.12.5/9:25 PM