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070407効果的なセミナー教育

 あちこちでセミナー開催が盛んである。代表的なセミナーといえばこの連載でも時折触れるJPTECと、病院内の蘇生コースであるICLSであろう。ICLSは直訳すると「緊急心生命補助」であり、心停止から最初の10分間に行うべきことを学ぶセミナーである。今回はその本家であるACLS(高次心生命補助)についての論文を紹介する。

手厳しい評価

 文献1)を読むところオーストラリアではACLSコースは3日間行われるらしい。3日間という時間と、(おそらく多額の)参加費を投じても、それに見合った収穫がないことをここで問題としている。筆者らのACLSに対する評価はこうである。
(1)ACLSコースは未だに教育法が定まっていない。受講者が求める教育をするべきだ。
(2)ACLSコースは内容と方法に矛盾があったり不適当であったりするため受講者は終了後にほとんど知識が残っていない。
(3)講師たちは自分たちの地方でなぜ蘇生率が低いのか十分な知識の裏付けもなしにACLSは素晴らしいと勧めている。
 そこまで言うかという手厳しさである。

なぜ知識が残らないのか

 筆者らはいくつも原因を上げている。
(1)受講生は事前準備をしない。教官からは事前に受講生に対して事前勉強するように伝えられはするが、世界中の医者も看護婦もACLS用の訓練をして来ない。このため何も知らず、何もできないところからコースはスタートする。
(2)ACLSのトレーニング方法自体が効果が薄いことも指摘されている。理論は理論として説明され、実技にはそれが反映されない。これは受講生の混乱のもととなる。
(3)コースのグループ分けはできる人もできない人も混ざっている。教えるほうはできない人に合わさざるを得ない。
(4)実技試験は緊迫感と臨場感に欠ける。筆者らは「砂糖漬け」と表現している。
(5)筆記試験をやるべきなのにやらないことがある
(6)ACLSインストラクターの多くは看護婦である。それ自体は悪いことではないが、それが医師の参加を遠ざける原因となっている。
(7)ブース(授業の単位)はそれぞれ独立しており、受講生にはそれぞれの授業がCPRの流れのどこに組み込まれるのか見えづらい。

望ましいセミナーとは

 ILCOR2001年の勧告では、蘇生法に関する講習会は以下が望ましいとされていた。
(1)少人数制。講義とシナリオと確認とを組み合わせる。
(2)原則に忠実な訓練。
(3)受講者の職種に合わせた内容。
 これをふまえて、筆者らはいくつかの改善方法を述べている。
 まずはグループ分け。能力別でグループを編成する。そうすれば同じ知識の受講者が集まることになり、初心者と上級者ではっきりと指導を色分けすることができる。しかしこの場合、問題は今度は教える側になる。高度な知識と技術を持った受講者のグループができた場合、それらに教えるにはさらなる知識が必要となる。また受講生の能力が均一になれ受講する側も発言しやすくなり、自然とマンツーマンのような教え方にならざるを得ない。これも同じく講師に高い能力を必要とさせる。
 グループ分けについてはもう一つ提言している。蘇生はチーム作業であり、講習も常にチームとして動くのが望ましい。そのため一つのグループに医師と看護婦がいることが望ましい。さらに言えばいろいろな職種が混じっていることが望ましい。
 授業は座学中心でなく実技中心にすること。実技もシナリオを作り、あたかもロールプレイングゲームのような臨場感を持たせること。実技試験では実際の蘇生現場のように恐ろしく緊迫した舞台を用意すべきである。逆説的に言えば、通常の受講者はそれら蘇生の現場に居合わせたことがない。つまり何が必要なのか自分では分からない。教える側は蘇生現場でのあらゆる可能性を見せ、それらを体験として身につけるのが望ましい。

古い理論を教える指導者たち

 現場では次々と新しい試みがなされている。また蘇生法は5年ごとに大きく改定されている。しかしコースではこれらを無視して古いことしか教えてないという報告2)も出ている。ACLSを始め多くの蘇生法の教科書の引用文献の年代を調べて、どのくらい古い文献を用いて教科書を作っているか調べたものである。それによると、例として上げているACLS2003年教科書ではACLS1996年版およびACLS1992年版と引用文献はほぼ同じであった。この古さの原因として筆者らは、それらの文献が今でも有効である、ということより教科書の改訂間隔が長過ぎることがその原因と考えている。

ACLSの効果は

 実際のところACLSは蘇生率向上に寄与しているのだろうか。この3月に出たばかりの論文3)では、ACLS受講生が蘇生を担当した群とそうでない職員が担当した群(対照群)を比較している。ACLS受講生が蘇生に携わった症例では自己心拍再開が43%(対照群27%有意差あり)、生存退院率が32%(対照群21%有意差なし)、30日後の生存率27%(対照群6%有意差あり)1年後の生存率22%(対照群0%有意差あり)となっている。ただこの論文はAED普及前の1998年から3年間のという古い症例を拾い出したものであり、また患者数が156名と少ないので、これをもってACLS有効と判断するのは弱い気がする。またイタリアからは院外心停止症例がACLSの導入で助かるようになったという論文4)も出ているが、これも対照群の症例を古いものでは13年前に設定してあり、額面通りには受け取れない。

日本のICLSは

 良くできていると思う。一日で終了するので参加しやすいし、皆楽しみながらやっている。楽しい、というのは資格取得のない講習には絶対必要なことだし、楽しいから参加者が増え、蘇生術の普及も図れる。ただ、これだけICLSのインストラクターが増えてくると、そのインストの質と配置も考える必要があるだろう。理論に裏打ちされた講義を聴きたいし、看護婦に挿管を教えられても興ざめしてしまう。また受講生によって課題を変えていく可塑性はともすれば原則から逸脱した指導になる危険性がある。改善すべきところは改善して、さらに普及してくれればと思う。

文献
1)J Clin Nurs. 2007;16(1):58-66
2)Acad Emerg Med. 2006;13(5):580-4
3)Resuscitation. 2007;72(3):458-65
4)Emerg Med J. 2007;24(2):134-8


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07.4.7/11:05 PM