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070525「心停止:ガイドラインは直ちに変更を」


人工呼吸関連

080601「手だけのCPR」解禁 080501さらば バックバルブマスク 080209今年のトレンドはこれだ 070501消える人工呼吸 060604心マのみCPR再考 990501マウス・ツー・マウスはいらない 病院や一般市民との関わり(救命講習)


「070501消える人工呼吸」で取り上げた論文について編集者のコメントが載っているので紹介します

Ewy A: Cardiac arrest-guideline changes urgently needed. Lancet 2007;9565(17 March):882-4

直訳すると「心停止ーガイドラインの変更が直ちに必要になった」

Ewyらの主張はこちらで取り上げています

また心マを取り巻く状況はこちらで取り上げています

 心配蘇生法は従来から心マと人工呼吸のセットになっていた。心マの重要性は疑うべくもないが、人工呼吸の必要性は疑われていた。

 病院外心停止の研究で最大の問題は何をやっても蘇生率が上がらないことである。このためもっと蘇生できる方法を示すことができない。しかしサブグループの検討では蘇生率をあげるチャンスが示されている。ここに紹介するSOS-KANTO(注:長尾先生を中心とする関東グループのこと)による研究では心マのみを受けた患者の22%が神経学的に良好な転帰を示した。それに対してガイドライン2000そのままでは10%であった。

 今のガイドラインでも最初にマウスツーマウスで呼吸をさせる。これは「レスキューブリージング(救助のための呼吸)」と言われる~逆説的にだが。確かに呼吸不全による心停止にはレスキューになるかもしれない。だが大多数の患者には救助とは逆の効果をもたらす。

マウスツーマウスを取り巻く状況は8つにまとめることができる。

  1. マウスツーマウスを要求することはバイスタンダーの効果を大きく減らす(注:やる人がいなくなる、ということです)。院外心停止にバイスタンダーは重要なのに。
  2. バイスタンダーが心マさえやってくれれば、救急隊が駆けつけてからおもむろにCPRを始めるより生存率が高い
  3. CPR一人法では人工呼吸にとても時間がかかってその間心マしてくれない
  4. 人工呼吸による胸腔圧上昇は冠状動脈血流と脳血流を減らす
  5. 突然の卒倒では患者の体に酸素がいっぱいある
  6. 突然の卒倒では患者の多くが引きつけたような呼吸(注:しゃっくりみたいな。gaspといいます)をしている。心マさえ続けていればこの呼吸は長く続き患者は自分で呼吸し続ける。この呼吸は引きつけなので胸腔内圧を下げて冠状動脈血流と脳血流を増やす
  7. 心マのみを長く続けると冠状動脈圧が上がり蘇生に有利に働く
  8. 呼吸を麻痺させていない動物による実験では心マのみの蘇生の方が心マ+人工呼吸より蘇生率が圧倒的にいい

 過去の蘇生ガイドラインは心停止を二つに分類していた。心臓に原因のある心停止(これは体に酸素がいっぱいある)、呼吸が止まってから心臓が止まるもの(体に酸素が枯渇している)。私たちはこれら二つのカテゴリーは踏襲する。例えば溺れたり薬で呼吸が止まるのは人工呼吸が必要だ。しかし目撃のある予期せぬ卒倒についてはガイドラインをすぐ変更すべきだ。

 今回のSOS-KANTO グループの発表はガイドライン変更の牽引車となるだろう。

日本でも心マのみの蘇生法を広めているグループがあります。こちらもご覧下さい

心臓マッサージとAEDでつなぐ命の輪:J-PULSE

岡山市の心臓の専門病院心臓病センター榊原病院

この中の「簡単・抜群 心脳蘇生法」(ここが一番わかりやすい)


070501消える人工呼吸

 この連載で過去何度も取り上げている「胸骨圧迫のみCPR」。ガイドライン2005発表の時には「将来的には50:2」と書いた。しかし事態は急速に進んでおり、次のガイドライン2010では人工呼吸は廃止される可能性が出て来た。

 今回紹介するのは駿河台日本大学病院救急部助教授の長尾建先生を中心とするグループがLancetに発表した論文である1)。LancetはNew England Journal of Medicineに並び称される臨床系雑誌の最高峰である。

驚くべき結果

 この研究は2002年9月から2003年12月までの前向き研究である。第一の評価点は心停止後30日での神経学的状態で、正常もしくは日常生活可能を評価対象としている。第二の評価点は心停止後30日での生存率である。この期間中の心停止患者は9592例、そのうち目撃のある心停止が4241例。目撃例のうちバイスタンダーCPRがあったのが1324例。内訳は人工呼吸+胸骨圧迫が712例、胸骨圧迫のみが439例であった。

 結果は驚くべきもので、生存率、神経学的後遺症のない症例および軽い症例の割合ともに人工呼吸+胸骨圧迫より胸骨圧迫のみのCPRのほうが優れていた。さらに呼吸停止でも胸骨圧迫のみのほうが神経学的に後遺症が少なく、同じ心室頻脈・心室細動であっても後遺症が少なかった。卒倒から4分以内にCPRが開始された例でも胸骨圧迫のほうが後遺症が少なかった。バイスタンダーCPRが開始されてからAED到着までの時間が長かったとしても胸骨圧迫のみのCPRのほうが助かる可能性が高いことも示されている。

素人のほうが蘇生率が高い

 この論文では誰がバイスタンダーであったかも書かれている。人工呼吸+胸骨圧迫を行ったバイスタンダーの49%が非番の医療従事者であり、残りを救命講習修了者(18%)・連絡によって駆けつけた人(19%)、全くCPR訓練を受けていない人(14%)で等分している。それに対して胸骨圧迫のみCPRを行った人は医療従事者は22%しかなく、救命講習修了者も16%に過ぎない。駆けつけた人32%、訓練を受けていない人30%と、胸骨圧迫だけを行った全くの素人の方が高い生存率と神経学的回復率を得ている。

 さらに胸骨圧迫のみのCPRは人工呼吸+胸骨圧迫に比べCPRに着手するのが早く、卒倒から現着までの時間も早く、CPR開始から心電図解析までの時間も早かった。きっとこれは胸骨圧迫という単純作業の中でこれからの流れを考える余裕があったためだろう。「30:2」だとか「あごを上げて」とか難しいことを考えていては本当に必要なことは思いつかなくなるのかもしれない。

 これら一連の結果を受けて、長尾先生たちは「口対口人工呼吸が有用であるというエビデンスはどこにもなかった」と結論している。

旗色の悪い人工呼吸

 人工呼吸が蘇生に有利に働くという論文は私は知らない。長尾先生たちが「胸骨圧迫のみCPRは普通のCPRより劣っている」と紹介している2000年の論文2)は、よく読むと人工呼吸はあってもなくても同じという結論である。また並んで紹介されている1993年の論文3)は確かに胸骨圧迫だけよりは人工呼吸を加えたほうが14日後の生存率は高くなっている(10%と14%)が、この論文では人工呼吸のみCPRの蘇生率が2%であることを同時に示して、バイスタンダーCPRは胸骨圧迫をやってくれるから蘇生に有利である、という結論になっている。動物実験では人工呼吸回数を増やすと死亡率が高くなるし、胸骨圧迫の中断時間を増やしても死亡率が跳ね上がる。人工呼吸の旗色は悪くなるばかりである。

 今回の論文でアラを探すとすれば、胸骨圧迫のみのCPRのほうが心原性の卒倒の割合が多いこと(9%対5%)が挙げられる。心原性ならばAEDに反応しやすいからである。

バイスタンダー増加への起爆剤

 バイスタンダーCPRが救命に重要であることは古くから知られてる。しかしいくら救命講習会や自動車学校でそう訴えても現在に至るまで実施率は30%をうろうろしている。バイスタンダーCPRを妨げている最大のものは口対口人工呼吸であり、さらに気道確保から始まるCPR手技の複雑さも相まって、「自分が手を出したことで目の前の人が死んでしまったらどうしよう」とバイスタンダーが考えても致し方ないところがある。もし本当に胸骨圧迫だけで満足な救命率が得られるのならばバイスタンダーCPRの最大の障壁の除去されることになる。

 一方救急隊をはじめとする医療スタッフであっても胸骨圧迫の中断は頻繁であり、時として致命的でもある。今回はバイスタンダーCPRの話で救急隊が来る前の話であったが、しかし救急隊が行うCPRであっても胸骨圧迫のみのほうが良好な結果を選られたという論文4)を去年6月に紹介している。二つの論文を合わせると、現場から病院着まで胸骨圧迫のみのCPRの優位性が示されたことになる。

 胸骨圧迫のみのCPRは現在最もホットな話題の一つである。次のガイドライン設定までにさらに多くの論文が出てくるだろう。どんな研究が出てくるか、人工呼吸からしばらくは目を離せない。

文献
1)Lancet 2007;369:920-6
2)N Eng J Med 2000;342:1546-53
3)Resuscitation 1993;26:47-52
4)Am J Med 2006;119:335-40


人工呼吸関連

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08.4.27/2:10 PM