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080106高齢化社会での救命講習

 日本は現在5人に一人が65歳以上の高齢化社会である。バイスタンダーCPRの普及を考えるとき、老人の特性を加味した普通救命講習を展開していくべきだろう。今回は高齢者を対象にした救命講習を考える。

老人は「抜かす」「忘れる」

 老人会で講習した報告が出ている1)。対象は54歳以上の高齢者51人である。平均年齢は64歳。受講者は医療従事者もしくは経験者が14%、AHAの基礎蘇生コース受講者が78%もいて、さらにAHAに関しては半年以内に受けている人が受講者全体の47%にもなるという、およそ普通では考えられない高度な人たちを対象としている。そのため受講者にはCPR・AEDの方法だけでなく、講習直後にシナリオ問題をこなしてもらって老人がどの程度できるかを検討した。その結果、呼びかけによる反応の確認は94%の受講者ができており、また胸骨圧迫を行ったのは88%、AEDの電源を入れられたのは90%、放電ボタンを押せたのは94%であった。しかし速く胸骨圧迫ができたのは30%に過ぎず、AEDが手元に届いたのちもCPRを継続できたのは40%であたった。検査項目として最低だったのが「放電直前に「離れろ」と言えた」であり、これはわずか6%の受講生ができただけだった。

 筆者らの結論は、(AHAコースの経験者が78%もいるのに)「参加者は大事なステップを忘れる。AEDはただ設置するだけではなくそれを使う人たちの訓練もセットで設置すべきである」というものである。しかしこの論文から読み取れることはそれだけではなくて、老人の特性、たとえば動作がゆっくりだとか覚える能力が低下するとか、そういったことを理解して講習を組み立てることが必要だということだろう。

講習は2時間で十分

 定年退職して自由な時間があるといっても、4時間も講習を受けるのはおっくうだ。午前中なら9時に始めても13時までかかるし、13時に始めれば17時までかかる。半日まるまるつぶれてしまう。この連載では過去何回も救命講習時間の短縮化を提案してきたし、実際に講習時間の短縮化は世界的な流れでもある。今回もCPR+AEDで2時間でいいという報告2)があるので紹介する。

 報告では受講者1095人を均等に講習時間別に3つのグループに分けている。対象者は老人に限らず普通のボランティア、講習時間は2時間、4時間、7時間である。内容はCPR+AED。受講直後と受講後半年・1年の3回にわたってテストを行いどれだけ覚えているか検討したものである。テストはマネキンと AEDを用いシナリオ問題で行われた。その結果、講習直後は受講時間が長いほど正解者が多い(2時間92%、4時間95%、7時間97%)し、半年経っても講習時間が長いほど正解者が多い(2時間68%、4時間70%、7時間73%)。また12ヶ月後の正答率は6ヶ月後と変わらないことも示されている。

 確かに講習時間が長くなればよく身につくのだが、2時間を7時間に延ばしたところでそれに見合うほどは受講者は覚えていない。また知識は6ヶ月の間に落ちてしまい、6ヶ月間残った知識はその後も保持されることもわかる。この結果を受けて著者らは救命講習は2時間とすること、6ヶ月後に再講習を受けさせることが重要だとしている。

30分ビデオでも

 2時間からもっと短縮して30分ビデオでも講師が付いて教えるのと同等の効果があるという報告3)もある。30分のビデオと講師付きの講習でCPRの基本手技について習得率に差があるか講習最後にマネキンを使って試験した結果である。対象は40歳から70歳までの285人である。その結果、ビデオでの講習は講師付きの講習に比べて、反応なしの確認から胸骨圧迫の深さまで講師付き講習より全ての項目で優れていた。

 ビデオが講師に勝るなんておかしい。内容を読むと講師付きの講習は3時間から4時間で、講師ひとりで受け持つ人数が5人から17人、人形は一人一体から4人に一体。人形はいいとして講師の数が足りないのは筆者らも述べている。つまりビデオがいいのではなく講師付き講習がひどいだけのようだ。講師が足りない場合にはビデオを使うとか自分で自分の手技を確認しながら練習できるような、受講者の立場に立った指導が必要なのだろう。

さらに人工呼吸を省略すると

 以上の報告は時間の短縮であった。今度は内容の簡素化を考える。55歳以上、平均年齢71歳に人工呼吸+胸骨圧迫の通常CPRと胸骨圧迫のみCPRを教えて、3ヶ月後にどちらがよく覚えているかを検査した報告4)がある。AHAの心肺蘇生ファミリーコース(2時間講習)で、36人には胸骨圧迫のみのCPRを、38人には人工呼吸を加えた通常のCPRを教えて3ヶ月後に基本手技をどれくらい覚えているかを調べた。結果は講習直後には86%の受講生がきちんとできていたものが、3ヶ月後には44%しか基本手技を覚えていなかった。また3ヶ月後の割合は胸骨圧迫のみのCPR受講者でも通常のCPR受講者でも変わりがなかった。

 この結果からは二つのことがいえる。一つ目は人工呼吸を抜かして覚えることを少なくしても時間がたつと忘れること、もう一つは複雑な方法でも単純な方法でも覚えていることは同程度なことである。前者、時間がたつと忘れるのは老人に限らずどの年代でもいえることである。後者については以前CPRにAEDを加えることによって覚えが良くなるという論文も紹介したし、逆に現場ではかえってAEDや手技を忘れるという論文も紹介した。内容が複雑だから忘れやすい、とは一概に言えないようだ。論文を作る人の意図によってどちらにでも結論づけることができそうである。

受講してもらう工夫を

 今回紹介した論文の思想に共通するのは「受講者・講師の負担を減らそう」「講習時間を短くして回数を稼ごう」というものである。そうすることにより何回も救命講習を開くことができ、多くの人に受講してもらい再教育も促すことが可能になる。日本でも4時間講習にこだわらないさまざまな工夫をしているところがあると聞く。それぞれの消防署が内容や講習時間に特色を持たせられるように修了書交付条件も規制緩和を進めたらいかがだろう。

 それと、AED。頭文字並べただけで全く意味不明である。良い訳語はなかったのだろうか。

文献

1)J Emerg Med 2007 Jun 18 Epub
2)Resuscitation 2007 Oct 30 Epub
3)Resuscitation 2005;67:31-43
4)Resuscitation 2003;58:177-85


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08.1.6/10:02 PM