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080209今年のトレンドはこれだ


人工呼吸関連

080601「手だけのCPR」解禁 080501さらば バックバルブマスク 080209今年のトレンドはこれだ 070501消える人工呼吸 060604心マのみCPR再考 990501マウス・ツー・マウスはいらない 病院や一般市民との関わり(救命講習)


 謹賀新年。本当は先月号で挨拶するべきなのだが、執筆から掲載まで1ヶ月弱あるので、今回が私にとっての今年初の投稿になる。ということで、今回は現在の病院前救護シーンを賑わしているいくつかの論題についてその方向を探ってみたい。

人工呼吸は消滅へ

 「胸骨圧迫のみのCPR」2008年はさらに勢いが増しそうだ。心血管系の代表的な雑誌であるCirculationに2編立て続けに関連論文が掲載されている。一つ目は大阪吹田の国立循環器病センター心臓血管内科の岩見拓先生目撃のある心停止患者4902例を検討したものである1)。岩見先生たちは心停止後15分を境として、15分より短い場合には胸骨圧迫さえしていれば人工呼吸はしてもしなくても1年後の生存率には差がないこと、15分以上ではCPRをしてもしなくても生存率に差がないことを示した。石見先生は「長時間放置されたCPA患者には人工呼吸を加えることで救命できるかもしれない」と述べているが、データを見ると15分以上放置の患者では何もしない患者で624人中2人、胸骨圧迫のみで92人中0人、人工呼吸+胸骨圧迫で139人中3人の生存でどれも有意差はなく、人工呼吸がそれほどの効果を持つとは考えにくい。

 もう一つの論文はスウェーデンの8209例を集めたものであり、こちらもバイスタンダーが人工呼吸をしてもしなくても1ヶ月後の生存率には差がなかった2)

 面白いのは、大阪では胸骨圧迫のみのバイスタンダーCPRが4割に上った1)のに対し、スウェーデンではわずか1割で、9割は人工呼吸を行っていたこと2)である。彼の地の教育の違いが見て取れる。

 これまでの連載でたびたび取り上げてきたとおり、バイスタンダーCPRには人工呼吸は不要であることはすでに確定した感がある。今年もさらに多くの論文が出てくるだろう。普通救命講習は確実に変わる。受講者に人工呼吸を強いる時代は終わったようだ。

胸骨圧迫しながらAED解析

 これは今年中、遅くても来年中には販売されるだろう。論文として数は少ない。しかし企業は論文にするより特許にするはずだ。論文3)では放電可能な電位が0.1mV以上、もしくは周波数が180/分以上と定義し、それに波の形を加味することによって放電可能としている。患者で試したところ、放電すべき患者に対しては感度93%特異性89%であり、放電できない患者に対しては感度89%特異性93%であった。医療機器としては感度・特異性ともに95%は欲しいところだが、器械が判断に迷うケースでは今までどおり手を離すように指示することも可能なので、それほど問題はないかもしれない。日本でも救急医療は注目度が高い。アメリカで認可されれば日本にも程なく入ってくると思われる。

外傷は話題に乏しい

 JPTEC関係はこれはという話題に乏しい。去年出たものでは脳外傷に関するものが多く、手技では外傷現場で挿管する方法・輸液の量・鎮痛方法などが目に付く。それぞれ見れば面白いのだが、どれも以前から言われていることの焼き直しである。そして現場での処置を否定する論文もやはり出ている。

 トレンドとは異なるのだが面白い論文として2つ紹介する。一つ目は「外傷による心停止は普通の心停止より予後が悪い」という通説に反論するもの4)である。これによると心停止後に心拍が再開したのは外傷34%心疾患30%であり入院できたのは外傷30%心疾患24%であった。しかし1年後の生存率は外傷1.9%心原性2.5%と差はなかった。神経学的に良好な患者の割合も差がなかった。このことから筆者らは外傷CPAも心原性CPAも同等の蘇生を行うように求めている。しかしこの論文を詳しく眺めると外傷患者の方が心原性患者より有意に若く、心室細動を捕らえられた症例も有意に少ない。外傷患者は「若いのに助からない」=予後が悪い感じられても仕方ないだろう。

 もう一つは「女は男より生き延びる」という通説に反論するものである5)。これは脳外傷の患者を対象にしたもので、男女とも6ヶ月後の生存率に差がないばかりか、年齢とグラスゴーコーマスケールをマッチさせると女の方が生存率が低かった。これについては何とも言えない。確かに頭はそうかもしれないが、出血とかはどうなのだろう。

トリアージは機材の進歩に注目

 トリアージの論文は大きく3つに分かれる。病院内トリアージ、病院外トリアージ、機材である。トリアージの方法論としてはもう出尽くした感がある。病院外トリアージを扱った論文として現在の主流はテロ対策である。アメリカからの投稿が多いのは普通として、この分野ではイスラエルからの教育的論文が目に付く。だが病院内外のトリアージに関してはこれといって新しいものは見られなかった。機材関係は日進月歩である。災害現場でのトリアージは当然として、病院受診患者の診察順位を決めるために看護師に無線を持たせるとか、心電図や脳波計に新たな解析項目を加えて診察順位や緊急度の評価を自動的に行うという論文が出ている。トリアージの現場では患者情報が錯綜するため、お互いに意思を疎通させるために必要な機材である。

流れは簡素化・ハイテクへ

 こうしてみると、今年もガイドライン2005の方向性が踏襲されるだろう。覚えやすく誰でもできること。重要なところには重点的にお金をつぎ込むこと。画期的な提案は少なくとも着実に変化はもたらされるはずである。重要文献は随時紹介していく予定なので今年も楽しみにしていただきたい。

文献
1)Circulation 2007;116:2900-7
2)Circulation 2007;116:2908-12
3)Crit Care Med 2008;36:198-203
4)Crit Care Med 2007;35:2251-5
5)Injury 2008 Jan;39(1):67-76


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08.4.27/2:11 PM