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080807脳卒中救急の現状と課題


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 現在救急隊員の間ではJPTEC,ICLSに続いてPSLSが注目されている。PSLSとはPrehospital Stroke Life Supportの略で脳卒中の初期治療プログラムである。先月の月刊消防One Step Upにも図解入りで分かりやすく書かれてていたので分からない方は7月号を読んで欲しい。このプログラムが発案、注目された背景には発症早期に点滴すれば完全回復も望めるt-PAの存在があり、手元の雑誌1)は「Time is brainの時代」と銘打つほどである。今回はこの脳卒中救急の現状と課題について報告する。

t-PAとは

 Tissue Plasminogen Activatorの頭文字を取ったものである。プラズミノーゲンアクチベーターはプラズミノーゲンをプラズミンに変換するもので、変換されたプラズミンは血栓の主要構成物質であるフィブリンを分解して血栓を溶解する。しかしプラズミンはフィブリンだけでなくその前駆物質であるフィブリノーゲンも分解する。フィブリノーゲンは血管が破れたときなどに血液を固まらせる重要な原材料であるため、どこかに出血(の可能性)があれば血が止まらないことになる。このためt-PAの投与は予期せぬ頭蓋内出血にも対処できるよう脳神経外科の常駐する施設で行われるべきとされている。またt-PAにはいったん形成された血栓のさらなる増大を防ぐ働きもある。逆にt-PAは高度に傷害された脳において神経毒性を持ち梗塞面積を広げる可能性も指摘されている。

発症後3時間までが投与の限界

 このt-PA、投与の限界が脳梗塞発症後3時間となっている。救急隊の関与するタイムテーブルとしては発見から救急要請、救急隊の到着から病院への搬送、救急外来担当職員への申し送りで終了となるが、それからの時間のほうがずっと長い。患者を診た救急医はt-PAを投与する担当医へ連絡し、脳卒中スコアを再評価し、採血をし、CT、胸部写真を撮影する。MRIを追加する場合もある。それらの情報をチェックリストに記載し投与を決定、それから本人と家族に説明をして同意書を取り付けてから点滴開始となる。国立循環器病センターの場合、患者来院から検査終了・方針決定まで45分以内、点滴開始までは60分以内となっている。t-PAチームがすでに機能している病院の場合、無駄に時間を浪費する場面は最初に患者を診察した医師がt-PAチームに連絡を取るまでであり、また事務職員が、特に新患の場合にカルテを作成するまでに時間が取られる、という話も掲載されている。電子カルテであってもカルテ番号がないと採血などのオーダーができないためである。

最も時間がかかるのは救急要請

 だがこのt-PAの投与を決めているのは救急隊でも医者でもなく、実は患者本人なのである。ドイツで脳梗塞558症例について本人もしくは家族にアンケートをした結果が報告されている2)。それによると、発症から救急外来に到着するまでの時間は平均で151分、最小5分最大9590分(6日と16時間)となっている。もしこの患者が全員国立循環器センターに運ばれたとして、3時間以内に点滴を開始できる患者は発症後2時間以内の46%しかいない。どこの施設も国立循環器病センターのようにマンパワーに溢れているわけはなく、通常であれば発症後1.5時間以内に運ばれてこなければ点滴開始3時間の壁は破れないだろう。発症後1.5時間までに来院となるとそれを満たすのは全患者の37%に減少する。

 この論文では患者背景も評価している。発症から病院到着までを短縮する要因として最も大きいのが救急車の使用であり、次いで脳卒中スコアが高い重症患者である。症状については片麻痺の方が両麻痺より病院に行くのが早い。患者は左右比較することによって異常を発見していることが分かる。他に時間を短縮させる要因としては12年以上の学歴を持つ人と以前に一過性脳虚血発作を起こしたことのある人が挙げられている。病気を正しく理解することが自分を救うという真っ当な理由である。学歴については心筋梗塞でも予後を左右する因子とされている。

 この報告では一人暮らしは来院時間には影響していなかった。結局は本人の理解力が来院時間を決定することらしい。

t-PA投与症例は多くない

 日本では脳梗塞患者のうち実際にt-PAを投与する割合は3.5%程度であり、これは積極的にt-PAを投与している病院共通の数字のようである。投与まで3時間を切る症例であっても投与されない症例は軽症例と重症例、それに診察中に症状が急速に改善する例である。またt-PA解禁から2年間の症例の蓄積により、太い血管が閉塞した場合にはt-PAがほとんど効かないことや投与後脳出血の経験から、t-PA投与は解禁初期に比べると制限される傾向にある。しかし逆にタイムリミットを3時間から4.5時間に延長できるという報告があったり、3時間を過ぎた症例であってもカテーテルを用いて局所的に投与する方法が選択されることもあり、これからもt-PAは注目され続けるであろう。

真に必要なのはシステム作り

 病院内t-PAチームの発足を受けて、消防を含む行政との話しあいで脳梗塞に特化したシステム作りを構築した病院もあるが、日本全体としてはそのような恵まれた地域は少ない。医師不足の現状で24時間常にt-PAチームが病院に常駐できる病院は一握りであろうし、そういう病院が近くにあっても救急隊の脳卒中に対する意識の低さがt-PA投与を遠ざける可能性もある。PSLSで扱う限りにおいては確認すべき所見やチェック項目はそう複雑なものではない。何回か訓練をしてさえおけば、チェックリストを見ながらで覚えることもなさそうだ。病院や行政を動かすのは難しいとしても自らのスキルを磨くことには何も障害はないだろう。

引用文献
1)内科 2008年5月号。2)以外の出典を兼ねる
2)Ann Emerg Med 2004;44:476-83


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08.11.23/8:35 AM