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081004脳梗塞患者には酸素投与は原則禁忌


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 今回も脳梗塞についてお送りする。救急隊員は傷病者と接触すると酸素を投与する。片麻痺や顔面の麻痺があり原因がはっきりしている場合には投与したくなるのも理解できる。酸欠に陥っている脳神経細胞を高濃度酸素で蘇生させようと考えるのも自然なことだろう。しかし酸素投与は脳梗塞患者の死亡率を上昇させる可能性があることをご存知だろうか。

軽症・中等症には酸素は禁忌

 酸素が禁忌であると証明した論文1)は1999年にノルウェイから出ている。この当時のガイドラインには既に酸素投与の効果は疑わしいと記載されていたが、救急隊員や病院スタッフは低酸素でない患者に対しても相変わらず酸素投与を続けていた。筆者らは酸素投与群として鼻カヌラを通じて酸素を3L/分で24時間投与した。また酸素を投与しない対照群を設定した。患者は脳梗塞に限ることとし、一過性脳虚血発作や出血性脳疾患は除外した。また60歳以下の患者や初診時に発症から24時間以上経っている患者も除外している。評価項目は1年後の生存率である。

 結果として、酸素投与群は292名、対照群は258名であった。年齢、性別、重症度などは両群で差はなかった。1年後の生存率は酸素投与群が68%、対照群が73%と酸素投与群で生存率が低かったが統計的に差はなかった。著者らはここで重症度に着目した。スカンジナビア脳梗塞スケールで40以上の中等症・軽症と40未満の重症とを分けて評価したところ、中等症・軽症では酸素投与群で生存率が有意に低かった。重症群では生存率に差は見られなかった。論文に示されている生存曲線では中等度・軽症群では対照群に比較して最初の100日でばたばたと死亡していくのが分かる。

 二酸化炭素が脳血管を拡張させ、酸素がある条件下では脳血管を収縮させることは古くから知られていた。さらに高濃度酸素は活性酸素を増やし組織にダメージを与える。動物実験でも酸素投与は脳梗塞からの回復には関与しない。重症群で差がなかったことについては、呼吸状態が良くなく低酸素状態にあったこと、脳の酸欠状態と酸素投与の良悪が平衡したことが考えられる。さらに注目すべき考察として救急隊の関与を挙げている。対照群の26%に救急隊員や救急外来で酸素投与がなされていたことから、筆者らはこのごく初期の投与が重症患者でも生存率を低下させ、結果として酸素投与群と有意差をなくした可能性があるとしている。

高圧酸素もよくない

 高圧酸素療法は大きな高圧釜の中に患者が入り、2.5気圧で100%酸素を与えるものである。マスクくらいで死亡が増えるのに高圧酸素療法は論外だと思うのだが、現在でも行われている治療法である。ヘモグロビンに結合する酸素量はそんなにかわらないとしても、物理的に血液にとけ込む酸素の量は単純に考えて2.5倍になり、酸欠で弱っている神経細胞に効率よく酸素を与えることができるのがその理由である。この高圧酸素療法についても、脳梗塞患者の予後を悪化させるという結果が出ている2)。24時間以内に発症した脳梗塞患者に対し、17名では100%酸素2.5気圧、16名では100%酸素1.14気圧として1回だけ酸素療法を行った。その結果、高圧酸素療法を施行された群では90日後の神経学的な4つの指標がいずれも悪かった。

 現在では高圧酸素虜法は脳の酸素分圧を高め、脳浮腫を軽減することは認められているが、治療効果については一定の見解は出ていない。加圧せず100%酸素のもとに患者を置く常圧酸素療法も神経学的に患者の状態を改善するという報告がなされているものの、やはり低酸素状態を示さない脳梗塞患者に対して酸素投与を行うことは先の報告によっても慎重にならざるを得ない。

重症患者にはどうか

 ベンチュリーマクスといって、患者の口元の酸素濃度を簡便に決定できる酸素マスクを重症脳梗塞患者に用いて酸素投与した結果が報告されている。ベンチュリーマスクで酸素を40%投与した群17名と、鼻カヌラを用いて酸素を2L投与した群18名である。酸素投与は平均で4日間行われた。母集団が小さいので確定的なことはいえないにしても、前大脳動脈領域の梗塞患者ではベンチュリーマスクの方が死亡率が少なく、また肺炎も少なかった。全体としても入院日数がベンチュリーマスク群が18日であったのに対してカヌラ群は28日であった。

 40%酸素投与は重症脳梗塞患者に限っていえば有効かもしれない。この理由として、重症脳梗塞患者では脳浮腫がひどく進むため、酸素投与により血管が収縮することは脳の除圧に一役買っているのかもしれない。また酸素投与により代謝を改善させるという報告もある。ただこの報告は症例数が少ないため、この論文をもって重症者には高濃度酸素は有効、とは言い切れないと思う。

低酸素を確かめてから

 脳梗塞患者に対する酸素投与については新しい論文が見つからなかった。神経内科領域ではもう結論の出た話なのかもしれない。酸素投与をしつつ脳梗塞患者を搬入したところ病院でたいそう怒られたという話も聞く。すべての処置は観察して現症を確かめてからにしよう。今は「救急隊の酸素のせいで死んだ」と訴えられる世の中だから。

文献
1)Stroke 1999;30:2033-7
2)Stroke 2003;34:571-4
3)Arch Neurol 2006;63:741-4


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08.11.23/8:35 AM