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090106CPRファーストは有効なのか

 謹賀新年。この連載もお陰様で今年で10年目となる。この「最新事情」、論題こそ救急隊員向きのを選んでいるが内容については「理解しやすいように書こう」なんてほとんど考えていない。それでも読者からの支持は得ているらしく、編集室から「終了」の話も来ない。まことにありがたいことである。

 さて、新年最初の最新事情は除細動の話である。ガイドライン2005(G2005)では覚知から現着までの時間によってショックファーストかCPR ファーストかが区別されるようになった。これは卒倒から5分までなら除細動を最初に行ったほうが蘇生率が高いのに対して、5分を超えると胸骨圧迫をしてからのほうが蘇生率が高かったという報告1)に基づいている。これに対して最近、ショックファーストでもCPR ファーストでも生存退院率には差はなかったという論文2)が出たので紹介したい。

CPRとショックで差はない

 紹介するのはオーストラリアからの論文である。CPRファーストを決定づけた2003年のJAMAの論文1)に続いてオーストラリアからも同様の論文3)が2005年に出た。これを受けたオーストラリア心肺蘇生ガイドライン2006年版4)では患者への取り付きから3分間CPRを行い、その後初めて除細動をすることとなった。これに対して筆者ら2)はCPRファーストの有効性を確認するために前向きの研究を行った。ここで、CPRファーストとは除細動の前に3分間CPRを行いその後AEDによる除細動を行うもの、ショックファーストとは患者にとりつきCPRを開始、AED電極が付き次第除細動を行うものである。この研究はG2005を挟んでおり、G2005の前には除細動は3連続、後には除細動一回ごとにCPRを行っている。

 対象は2005年7月1日から2007年7月31日までに心肺停止で救急要請があった3245例で、そのうち1845例は心室細動(VF)が認められず研究対象から外された。さらに非無作為例などを除外して202例をショックファースト群105例、CPRファースト群97例に分けた。二つの群の間で年齢・性別・卒倒目撃の割合・バイスタンダーCPRの割合・卒倒場所についての差はなかった。また覚知から現着時間が5分以内であった割合もショックファースト群で13%、CPRファースト群で16%と差は認めなかった。

 結果は、ショックファースト群で生存退院率17%、CPRファースト群で生存退院率10%と、数字としてはショックファースト群が大きいが統計学的な有意差は認めなかった。また退院に至までの現場心拍再開率・救急外来生存到達率・ICU入院率に関しても両群に有意差は認めなかった。また筆者らはショックファーストが選択されるべき現着5分以内の症例と5分以降の症例で生存退院率などを比較しているが、それでも両者には有意差は見られなかった。さらに神経学的な評価でも両群に差は見られなかった。

CPRファーストで向上するはずだが

 「ショックファースト」「CPRファースト」なる言葉を患者への取り付きの段階で使うと知ったのはつい最近のことである。教えてくれた人にその使い分けを聞いたところ、「ショックファースト」は「傷病者を確認した時に、充実したCPRがされているのを確認したとき」もしくは「目前で心肺停止になったとき」に行い、「CPRファースト」は「発症目撃がない時」もしくは「充実したCPRがされていないと判断したとき」に行うとのことだった。また地域によっては目撃通報があっても到着まで4-5分経っていれば2分間のCPRを行うようにしているところもあるとも教えてくれた。

 目の前で卒倒することはそれほど珍しくないとしても、覚知から現着まで5分を切るのは多くはないはずだから、通常はCPRファーストになるだろう。最初にCPRファーストを提唱した論文1)は現着まで4-5分以上ならCPRファーストによって生存退院率が向上するとしていた。オーストラリアの2005年の論文3)でも全体としてみれば除細動前のCPRはやってもやらなくてもVFからの回復は変わらないとしていたものの、症例を現着まで5分以上に限ってみればCPRファーストで生存率は向上している。

単回ショックが生存率向上の理由か

紹介した3つの論文でなぜこれほど結果が分かれるのだろう。筆者ら2)はG2005の運用前と運用後での患者数、心拍再開患者数、生存退院患者数を経時的に示している。それによるとG2005導入によっても心拍再開患者数はわずか5%の増加に留まっていた。しかし生存数はG2005の運用開始によって増加している。G2005以前なら一度動き出した心臓のかなりの数がまた止まってしまうのに対して、G2005以降は動き続ける心臓が増えたことになる。

 G2005で変わったのは除細動の回数と使用薬剤であるが、使用薬剤について筆者らは変更によっても生存率に変化はないとしている。となると残るは3連続除細動から単回除細動への変更がその理由だろうと思われるが、統計学的には証明できていない。つまり二つの方法がなぜ同じ結果をもたらすかは、結局分からずじまいであった。

無駄なことはやめる

 この論文ではCPRファーストもショックファーストも生存率には影響しないことから、筆者らは心室細動患者へのCPRファーストは廃止してショックファーストだけで対処するとしている。最初のCPRに費やす時間、この論文では3分間の時間と体力がもったいないからである。

 G2005での最初の2分間のCPRの是非を検討したのはこの論文が始めてであろう。G2005以前で蘇生にとっての一番の障害は3連続除細動であったのは間違いないようだ。また除細動を成功させるためのCPRの必要時間は、患者への取り付きから電極を貼るまで十分なのかもしれない。

 こうやって論文を眺めると、CPRという狭い範囲でも変更の余地はあると感じる。今年も「最新救急事情」で世界の最先端を紹介していくので期待していて欲しい。

文献

1)JAMA 2003;289:1389-95
2)Baker PW et al:Resuscitation Epub
3)Emerg Med Australas 2005;17:39-45
4)Emerg Med Australas 2006;18:337-56


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09.1.6/9:19 PM