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090208 Z字移動が最も危険な手技

 JPTECの普及によっていまやありふれたものとなったバックボード。外傷患者は全例ボードに寝かされてきて来院するし、脊柱固定といえばボード以外には考えられない状況となっている。

 この連載ではボードについてその欠点を何度か論じてきた。その中でも最大なのログロールによる脊柱の動きであるとしてきたが、どうもログロールよりZ字移動のほうが危険らしい。

脊損で動きがひどくなるログロール

 ログロールでは体を回転させる。いくら頭部保持者が先導してログロールをしたところで、頭部と体幹との距離を変化させずに体を横向きにさせることは不可能であることは、ログロールをする人もされる人も経験から納得できるだろう。ログロールでどれだけ頸部が動くかは多くの報告があり、この連載でも2005年10月号で論じている。ここでは同じグループが出した二つの論文を紹介する。実験では死体を用い、椎体を外科的に露出させ骨に位置センサーを埋め込んだ。最初は脊椎骨に何も手を加えずログロールもしくはログリフトし、次に脊椎骨の靱帯の全てを切断し、脊椎損傷を人工的に作り出して同様のことを行っている。

 一つ目の論文1)では頸椎の動きを見た。ログリフトでは脊椎損傷があってもなくても頸椎の回旋には有意差がなかったのに対して、ログロールでは頸部の回旋角度が大きくなった。また脊髄損傷は首にだけ起こるのではないことから、二つ目の論文2)では脊椎の骨折部位として一番多い胸腰椎移行部で同じことを行っている。その結果ではログロールでは体の捻れと左右方向への傾きがロブリフトに比べて有意に大きくなっている。

 脊椎損傷状態でのログロールでは頸椎では捻れが大きくなるだけなのに対して胸腰椎では捻れに加えて左右の動きが大きくなることが面白い。首には注意するが腰まではなかなか気が回らないのだろう。

Z字移動は「予測不能」

 Z字移動とは患者の体を定められた位置に置くためにボードの上で患者の体を滑らせることを言う。ログロールでは側臥位となった患者の背中にボードを添えそのまま仰臥位へ倒すため、患者の体がきちんとボードに乗ることはない。そこで患者の体を一度下横へずらし、それから上横へずらせる。患者の軌跡がZとなるのでZ字移動と呼ばれる。

 このZ字移動が脊椎の動き・捻れをどう引き起こすか調べた報告3)がある。31人の被検者にネックカラーを装着、前頭部、第3頸椎、第12腰椎に位置センサーを付けて、バックボードに乗せるためにログロールを、正しい位置に患者を移動させるためにZ字移動を、さらにイモビライザー装着まで通して行っている。これらの動作中、経時的に被検者の前頭部、頸椎、胸椎の前後左右への傾きと回旋を記録した。その結果、ログロールの場合には頭、頸椎、胸椎が曲がったり捻れたりしているものの、その動きは前頭部、頸椎、胸椎とも一定の方向へ動いており、多分こう動かせばこう捻れるだろうという想像のつくものとなっていた。Z字移動に関してはこの研究の目的から外れているために1例だけの提示に留まっているのだが、体の動きに一定の傾向が見られずバラバラに動いていた。動きの大きさについては、ログロールでは最大で8°程度の屈曲伸展に留まっているのに対して、Z字移動では12°を越える横への傾きが前頭部に見られ、前頭部と頸椎で逆の方向へ動くことも観察された。部分部分の動きは小さくても、逆方向に動いてしまえば脊髄へのダメージはそれらの和となってしまう。

 Z字移動の危険性については私は全く認識していなかった。訓練中のことを考えると、ログロールでは自分の頭を支えるためにもやってくれる人たちのためにも首に力を入れて真っすぐにしようと心がけている。しかしZ字移動はすでに仰臥位で寝かされて脱力しているし、さらにログロールよりずっと複雑な動きをするために意識が全くついていかない。やっている方としても重い患者相手に力ずくで上下に動かしている面がある。頸椎保護にとってZ字移動が最も危険な手技になるのも当然かもしれない。

 JPTECセミナーではログロールの手技のみではなくZ字移動の危険性も教えたらいかがだろう。

バックボードの病院内使用は減少

 バックボードの欠点はログロールに留まらない。長時間寝かされることによる腰や背中の疼痛やレントゲン写真でのアーチファクトが代表的なものである。これらの欠点に加えて、外傷で実際に脊髄損傷になる患者の割合は当初考えられていた割合よりかなり低いことも知られてくるにつれて、バックボードの使用頻度と使用時間は確実に低下してきている。イギリスでのバックボードの病院内での使用頻度を調査した報4)告によると、病院搬送後可能な限りすぐにバックボードから患者を降ろすとしたのは2002年の5%に対して2005年では21%へと増加、降ろす前に脊椎損傷を確認する割合は52%から58%へと増加している。レントゲン写真で脊損のないことを確認するまではボードから降ろさないとする割合は43%から21%へ低下している。

スクープストレッチャーの復活

 頸椎を初めとする脊椎保護のために導入されたバックボードの脊椎保護機能が疑われているのは、それだけありふれたものとなった証拠なのだろう。頸椎に悪影響を及ぼすのはログロールとそれに続くZ字移動であり、これを回避するためにはログリフトを行えばいいのは明白なのだが、隊員3人ではとても無理だろう。そこでスクープストレッチャーである。スクープストレッチャーの有用性については来月報告する。

引用文献

1)J Athletic training 2008;43:6-13
2)Spine 2008;33:1611-5
3)PrehospEmerg Care 2006;10:46-51
4)Injury 2008;39:323-6


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09.2.8/8:51 PM