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090904ガイドライン2005の効果

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「G2005で救命率が上がったと思いますか」という質問を雄武当別の勉強会で参加者にしてみました。

当別には札幌の救急隊員も来ていました。症例が少ないから、だけではなさそうです。


 ガイドライン2005(G2005)も発表されてまもなく4年となる。変更による効果について検証した論文がいくつか出てきたので紹介したい。

効果があったという報告

 G2005が生存率などに効果があるとした報告は探した範囲では4本である。発表順に紹介する。

 1本目はシアトルの大学病院から2006年12月に発表されたもの1)で、除細動の変更だけである。シアトルでは2005年1月から除細動3回連続から除細動一回ごとのCPRに変更したので、この変更の前後で病院外心停止患者の生存退院率を比較した。研究期間中の病院外心停止患者は変更前2225例、変更後869例。このうち心臓疾患が原因の、目撃のある心停止症例は変更前374例、変更後134例であった。これらの症例で、自脈が再開したのは変更前60%変更後74%、生存退院率が変更前33%変更後46%、退院先が自宅であったのが変更前26%変更後37%であり、生存退院率は有意に高かった。

 2本目はアメリカ・ウイスコンシンから2008年9月に発表されたもの2)。これは人工呼吸をせず胸骨圧迫のみで蘇生を行うもの。変更前のG2000での目撃のある卒倒かつ除細動可能な症例は92例、そのうち生存退院は20%、神経学的に正常な患者は15%。人工呼吸を廃止してからの対象症例は89例、そのうち生存退院は47%、神経学的に正常な患者は39%。生存退院率と神経学的正常者率は有意に向上した。

 3本目は1本目と同じシアトルの大学病院から2008年10月に発表されたもの3)。過去30年間の蘇生率を比較し、G2005導入以降蘇生率が大きく上昇したとしている。

 4本目はデンマークから2008年8月に報告されたもの4)で、この論文は前掲の3つと異なり全てのCPA症例を対象としている。。コペンハーゲンにある大学病院の救急部に搬送された患者のうち、病院前心停止の患者をガイドライン2000実施中の372名とガイドライン2005実施中の419人に分けて検討した。その結果、自己心拍が再開した割合が23.4%から39.1%へ、30日後の生存率が8.3%から16.0%へ、生存退院率が7.9%から16.3%へ上昇した。これらの数字は全て統計学的に有意差を認めた。

効果がなかったという報告

 これらに対して、効果を認めなかったという報告もある。ノルウエーから2009年に発表されたものである5)。筆者らがG2005を導入したのは2005年の8月である。これを境にして、G2005導入以前の435例と導入後の481例を対象として比較したところ、心拍再開率は35%から38%へ、生存退院率は11%から13%へ変化したが、有意な差は見られなかった。また目撃のある心室細動患者だけを抜き出しての検討も行っているが、これでも差は見られていない。このためG2005で強調されている項目についても検討した。電気ショック前の胸骨圧迫中断時間は17秒から5秒へ、全行程における胸骨圧迫中断の時間割合は23%から14%へ、胸骨圧迫のリズムは毎分120回から115回へ、呼吸回数は1分間に12回から10回となっており、G2005の項目がよく守られていることが示された。

この差はどこからか

 G2005で成績が向上したという報告のうち、最初の3本1-3)はG2005を完全実施したものではない。しかしそれでも生存率が向上したという報告は、G2005への期待を大きく抱かせるものだった。さらにデンマークから2008年に出た論文4)はG2005を完全に実施したもので、30日後の生存率・生存退院率ともにG2000の2倍と、めざましい効果を上げている。しかし2009年になって、同じ北欧から有効と無効という異なる結果が報告された5)

 デンマーク4)とノルウェー5)の報告を比べてみると、デンマーク4)では心室細動の割合がG2000の30%からG2005の37%へと上昇しているのに対して、ノルウェーの報告5)では35%から34%へと逆に減少している。またデンマークの報告4)では、発症目撃、バイスタンダーCPR、低体温療法など、生存に都合のいい因子が増加している。これに対して、ノルウェーの筆者らは、覚知から現着までの時間が他の報告では5分であったのに比べ、自分たちの報告では8分と長いことが生存率を上げられなかった大きな原因としている5)

そう簡単には向上しない

 以前「病院前ACLSは無意味」(2004年11月)で紹介した論文6)には、研究期間の8年間で生存率に向上は見られないと書かれている。この記事の8年間とは、胸骨圧迫と人工呼吸が5:1から15:2になり、また除細動器が急速に普及しAEDも登場した時期である。AEDの登場が現場に与える影響はG2005制定の比ではなかった。しかしそれでも救命率は向上しないのである。

 G2005で救命率が向上したのは、生存に都合のいい症例が偶然集まった可能性はある。しかし公衆衛生活動や啓蒙の成果が陰に隠れている可能性は否定できないし、脳低温療法などの治療法の進歩もあるだろう。だがこの向上も、ノルウェーの論文が示すように、覚知から現着の時間が延びるだけで相殺される程度のものなのかも知れない。

 G2005の十分な検討にはまだ症例数が足りない。これからの論文に期待しよう。

文献

1)Circulation 2006;114:2760-5
2)Ann Energ Med 2008;52:244-52
3)Resuscitation 2008;79:22-7
4)Acta Anaesthesiol Scand 2008;52:908-13
5)Resuscitation 2009;80:407-11
6)N Eng J Med 2004;351:647-56


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09.9.6/6:52 PM