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091104ゴールデンアワーは根拠なし

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 外傷初療では受傷から60分以内をゴールデンアワーと名付けている。外傷セミナーでは「ゴールデンアワー内で患者さんを手術室に入れることを目標に観察処置をしましょう」と言われる。受講者は1時間以内に手術室に運び込めば患者は助かるのだと理解し、1時間以上かかると死ぬから頑張って速く運ぼうと考える。

 しかし、どういった理由で60分なのだろう。そもそも、手術室搬入が遅れるとそれだけ死亡者が増えるのだろうか。

ゴールデンアワーとは何か

 JPTEC協議会のホームページ1)には「重症外傷では、受傷から決定的治療を開始するまでの時間が1時間を超えるか否かによって生死が分かれると報告され、この最初の1時間をgolden hour(ゴールデンアワー)と呼」ぶ、と書いてある。端的かつ乱暴に言えば、外傷を受けた患者は、1時間以内に決定的治療を受けられれば生き延びるし、1時間を超えれば死んでしまうということである。

 臨床医学でゴールデンアワーと言われるものは他にもあって、切断された腕であったり細菌感染した臓器であったりする。これらの場合、切断された腕は次第に腐っていくし、細菌は一定の勢いで増えていくから、限界となる時間は客観的な事実を持つ。しかし、外傷の場合は程度もケガの場所もさまざまなのに、なぜ60分なんて断定できるのか。

受傷経過時間と死亡率に関連なし

 今回紹介する論文2)では、外傷でのゴールデンアワーをきっぱりと否定している。

 これは北アメリカ大陸での146施設によるデータをもとにした調査である。2005年12月から2007年5月末までの18ヶ月でそれらの施設が経験した重症外傷患者3656例を対象とした。重症外傷患者の定義として、収縮期血圧が90mmHg以下の者、呼吸回数が10回未満か29回以上の者、グラスゴーコーマスケールが12未満の者、気管挿管などで気道管理されている者とした。評価項目は現場から病院内に至るまでの死亡率である。

 結果として、重症外傷患者3656例中806例(22%)が死亡した。多因子解析では、事故から発見までの時間、覚知までの時間、現場滞在時間、搬送時間、救急外来での滞在時間の全てで死亡率との関連性は認めなかった。このことから筆者らは時間経過が患者の生命を左右することはないと結論している。

 詳しく報告を見ていこう。生死を分ける因子として証明できたのは、年齢、グラスゴーコーマスケール、血圧触れず、呼吸回数10回/分未満、高度熱傷あり、気管挿管済みなど、いかにもという項目が並ぶ。生死に関係ない因子としては時間のほか、搬送手段、鈍的外傷、刺創、意識障害、ショック、高度救命処置、脳外傷、国など14個の項目があった。

ゴールデンアワーは眉唾

 ゴールデンアワー、つまり1時間以内に決定的な治療をすれば患者が助かるとした初めての論文は今から16年前のカナダからのものである。その論文3)では8007例の外傷患者のうち重症患者360例を選び出した前向き調査で、受傷から治療まで60分を超えると死亡率が3倍になるとしている。もう一つ、同じ著者が出した論文4)がある。こちらでは筆者らは5年間にわたる救急外傷治療の成果を報告し、その中で受傷から治療までの時間が62分から44分へ減少し、死亡率も52%から18%へ減少したとしている。ゴールデンアワーではなく時間の減少が生存率を高めるという論旨である。

 だが調べてみると、ゴールデンアワー内に患者を手術室に運び込めば生存率が上がる、とはっきり述べた論文は、最初に挙げた一編3)しかない。しかも症例の選び方が無作為抽出法ではなく恣意的に行われており、信用性はかなり疑わしい。その証拠として、この論文以降ゴールデンアワーや受傷〜治療時間が外傷患者に及ぼす影響を網羅的に調べた複数の論文では、時間と生存率に何らの関係も見いだせていない。1995年には、死亡が予測されていたにもかかわらず生存した患者で外傷発症から病院到着までの時間を比較したところ、生存患者で時間が短かったとする報告5)が出されているが、これは848例の外傷患者中の13人についての検討であり、母集団が少なすぎて信用できるか疑問である。

 ゴールデンアワーを否定する論文6)は2001年にも出ている。タイトルは「ゴールデンアワー:科学因子?それとも都市伝説?」このタイトルが全てを物語っている。

ゴールデンアワーはプロパガンダ

 今回紹介した論文の結果を見ると、助かった患者は助かるべくして助かったのであって、ゴールデンアワー内で搬送できたから助かったとか、間に合わなかったから亡くなったのではない。ただ、何でもかんでも時間と予後が無関係、でもなくて、特殊な外科手術が必要だった患者、発生から通報までが遅れた患者では時間と予後に負の相関が見られている。心源性心疾患では受傷〜治療時間が患者の生存率に関係するとされている7)。

 それら、ごくまれな病態も含めて、現場活動の迅速化、Stay and play から Load and goへの変更を図る手段としてゴールデンアワーがあり、JPTECのプロパガンダ(意識を誘導する宣伝行為)の一つと考えるのが適切なのだと思う。

文献
1)http://www.jptec.jp/aboutus.html
2)Newgard CD: Ann Emerg Med, Epub
3)J Trauma 1993;34:252-61
4)J Trauma 1999;46:565-79
5)Am J Emerg Med 1995;13:133-5
6)Acad Emerg Med 2001;8:758-60
7)Ann Emerg Med 2003;42:242-50


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09.11.4/9:31 PM