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091215ガイドライン2010(1)ガイドラインの方向

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 今回でこの最新救急事情はついに100回を迎えた。これも読者諸兄のおかげと深く感謝している。

 さて、もうガイドラインの時期がやってきた。ちょっと前にガイドライン2005(G2005)の特集をやっていたと思ったら、もう更新の時期である。これから1年間にわたって、ガイドライン2010(G2010)の論点を掲載することによって救急医学の動向を探っていくつもりである。

G2010の方向

 この5年間の論文から、プレホスピタル領域に関しては以下のことが言える。

1)G2005の検証は道半ば
2)バイスタンダー人工呼吸は原則廃止
3)気道確保・胸骨圧迫は人工呼吸の影響を受ける
4)CPRファーストの時間が伸びる可能性がある
5)教育方法も人工呼吸の扱いで変わってくる

 ガイドラインでは病院内の治療や応急手当についても勧告を行っている。病院内の治療については蘇生後脳症の防止のための脳低体温療法がメインとなりそうだ。心臓血管疾患では薬剤と治療法の見直しが中心となりそうである。

G2005の検証は道半ば

 G2005では15:2から30:2になったりショック3回連続からショックごとCPRに変わったりと、G2000と比較して大幅な変更がなされた。そして、それらの変更が蘇生率や生存退院率にどう影響したかの検証はまだ始まったばかりである。

 だいたい、G2005が発表されたのが2005年の11月。日本でG2005の運用が始まったのは多くの消防で2006年の終わりからだし、他の先進国でも大差ない。一方、学術誌では投稿から掲載まで半年程度はかかるし、その掲載された論文を討議するのはG2010発表の半年以上前だろう。CPA患者が1000人とか2000人といった大規模な研究はG2010には間に合わない。

 現在までに発表されたG2005検証の論文では、AEDや人工呼吸数の減少といった個別の項目では蘇生率の向上が示されているが、G2005全体として蘇生率が向上したという強力な論文は発表されていない。あまりに多くのことを変え、それらの結果もまだはっきりしていない時点でのさらなる変更は行いにくい。

バイスタンダー人工呼吸は原則廃止

 しかしバイスタンダーの人工呼吸だけは原則廃止される。東京と大阪から出た、バイスタンダーによる人工呼吸は蘇生率に関与しないという論文が、圧倒的な重量感を持ってG2010に影響を与えそうである。

 バイスタンダーによる人工呼吸については、G2005ですでに「やりたくなければやらなくていい」とはされたが、その時点では人工呼吸を省略するに足りる根拠が希薄ということで、人工呼吸が省略されるのは特殊な場合とされていた。しかし、東京と大阪の論文を武器にして、AHAでは以前から人工呼吸廃止を訴えていたグループ(恐らくEwyら)が一気に人工呼吸廃止を決定してしまった。アメリカ以外、特にヨーロッパ蘇生協議会はアメリカの独走に不快感を示したが、ヨーロッパからも同様の論文が複数出ていることから、ついに容認する論文を発表するに至っている。

 これら、蘇生界の二大勢力が人工呼吸廃止を容認したことにより、バイスタンダーの人工呼吸は原則廃止されることになった。不明なのは原則がどの範囲まで含まれるかである。過去に発表された論文から、誰もが納得できる人工呼吸不要患者は目撃のある心原性疾患患者である。しかし東京と大阪の論文は全ての心肺停止患者を対象としている。また窒息や溺水では人工呼吸なくして心拍再開はあり得ない。これらの病態別に蘇生方法を変えるのか、もしくはヨーロッパ蘇生協議会が提案するように、一般バイスタンダーは人工呼吸不要、海水浴場のライフセーバーは人工呼吸必須というように職種や習熟度で蘇生方法を変えるのか、その部分ははっきりしていない。

 救急隊員にも人工呼吸は不要という論文も出ているが、それについては追試が発表されていないため採用される可能性は少ない。

気道確保・除細動は

 人工呼吸が廃止されても、救急隊員に対しては蘇生の最初に首を反らせるなどの手技は残る可能性はある。除細動については新しい知見はないために現在のままになるだろう。

教育方法は変更か

 人工呼吸がなくなれば、救命講習は非常に簡単になる。そのため、救命講習についてはG2005よりもさらに具体的に勧告が出てくるだろう。ヨーロッパ蘇生協議会が提唱するランク・職種別講習が中心になるか、AHAが勧めるビデオ講習が中心になるかはまだ分からないが、いずれにせよ救命講習の短時間化はさらに進むはずである。

来月からは各論を

 AHAのホームページではG2010のたたき台として一つの論題、例えば「胸骨圧迫の回数は何回が妥当か」と題して過去の論文をまとめたワークシートを掲載している。それを読むことによってほぼ正確にG2010を予測することができる。来月からはワークシートをもとに、興味深い論題について詳細に解説していく予定である。


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09.12.15/2:01 PM