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100316ガイドライン2010(4) ショックまでのCPR時間が延びる?

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 今回は除細動の前のCPRについて議論する。CPR firstが無効かも知れないことは2009年1月号の本連載で論じている。これはガイドライン(G)2010でも同様で、CPR firstの扱いを決めかねているような印象を受ける。

CPR firstは無効

 G2005以降に発表された無作為割り付けの報告は3編あり、そのいずれもがCPR firstの効果を認めていない。

 Baker(2008)らは心室細動で失神した患者に対して無作為にshock firstかCPR firstを行い、心拍再開率と生存退院率を比較した。CPR firstでは除細動をする前に3分間のCPRを行っている。18歳以下や交通外傷、救急隊が目撃した失神は除外した。この研究期間中にshock firstとされた患者は108名、CPR firstは97名であった。心拍再開率はshock 53%, CPR51%で差がなく、生存退院率もshock 17.1%CPR 10%と差がないばかりか、見かけ上ではshock firstのほうが優れている。

 Jacobs(2005)も同様の研究を行っている。shock first は137名、CPR first は119名、CRP firstでの除細動までの時間は90秒である。そこでは心拍再開率はshock 8%、CPR 9%、生存退院率はshock 5%CPR 4%、1年後の生存率も同じくshock 5%CPR 4%であり、これもすべて差がない。

 Wik(2003)の論文でも差は認めていない。ここではshock first は96名、CPR first は104名、CRP firstでの除細動までの時間は3分である。心拍再開率はshock 46%、CPR 56%、生存退院率はshock 15%、CPR 22%、1年後の生存率は同じくshock 15%, CPR 20%であった。

現着5分以上でも差はない

 G2005では現着5分を超えると全例CPR firstで疎生するようになっている。これについては、Wik(2003)のみ現着5分以降でのCPR firstの有効性を述べているだけで、G2005以降に発表された2つについては差を認めていない。症例数を見るとWikはshock 41名、CPR 40名なのに対し、Bakerはshock 91名, CPR 81名、Jacobsはshock 103名、CPR 101名と、G2005以降の論文では倍以上の患者数を評価している。説得力は新しい論文のほうがありそうだ。

CRP時間を延長か

 Wikが2003年に発表しG2005に取り入れられた論文以外には、CPR firstを積極的に支持する論文は出ていない。だがこれは、現場で活躍する救急隊員の誰もが思っている「G2005になったって救命率は向上しなかった」を裏付ける結果とも言える。G2010の委員たちがどのようにこれらの結果を判断するかは、一つの方向がワークシートには示されている。それは「CPR時間を延長すること」である。その根拠として次の二つの論文がある。

 一つ目。人工呼吸なしではAED群に比べてCPR群は大幅な救命率向上が報告されている。Kullem(2008)は人工呼吸なしのCPR2分間のCPR firstとshock firstでの結果を比較している。症例数はshock 92名、CPR89名。生存退院率はshock 20%, CPR 47%、神経学的後遺症なしはshock 15%, CPR 39%であった。この論文では取り付き直後の2回の人工呼吸もなく、ただひたすら胸骨圧迫を行っている。すぐ 胸骨圧迫に入ること、shockまでの時間を少しでも延ばすことが、蘇生率向上へ繋がる可能性がある。ただこの論文はshock firstとしてもG2000当時のショック3回連続を用いていることに注意が必要である。

 二つ目。PEAや心静止に対しては、AEDを行ったほうが予後が悪い。Hallstrom(2007)はPEAと心静止の患者を対象に、AED施行の有無で転帰がどう変わるかを検討している。除細動を施行できたのは164名で生存退院は1名(0.6%)、施行できなかったのは576名で生存退院は28名であった。この論文の示すところは、AEDよりもとにかく胸骨圧迫、ということである。

はっきりしない

 ワークシートは3人の委員が作成している。一人目の委員は「現在は心拍解析の前に2分間のCPRが行われているが、それは最低限の時間である。いくつかの論文では胸骨圧迫をもっと長く続ければ生存率を改善できる可能性が示唆されている」と述べ、CPRの時間の延長を提案している。しかし二人目の委員は「除細動を遅らせることが有利に働くということを明らかに証明した論文はない。除細動前のCPRの有用性について論じるにはいくつか考慮する点がある。一つ目はCPRを長く続けることは、今まで信じられていた「早期の除細動」に反するものであること、二つ目に、CPR firstが現着5分に縛られており、バイスタンダーCPRが50%を超える地域のことを考慮しておらず、救急隊によるさらなるCPR3分間が患者にとって利益を生まない可能性があること」と述べ、延長には反対のようだ。三人目の委員は意見を述べていない。

 ワークシートを読んだ印象では、現着5分を超える症例では今までの2分間CPRから3分もしくは4分へCPR時間が延びるように感じるが、委員にも意見が分かれており、はっきりしたことはG2010が出るまで分からない。

文献
G2010 Basic life support worksheets
http://www.americanheart.org/presenter.jhtml?identifier=3060097


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10.3.16/9:10 PM