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100416薬剤救命士はいらない

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 G2010の論評をしている間に重要な論文が発表された。救命士による薬剤投与は患者の予後を改善しないというものである。気管挿管に続き薬剤投与も否定されることとなった。

薬剤投与は無効

 この論文はノルウエーからのもので、JAMAに2009年11月25日付で発表されたものである1)。病院前における蘇生時の薬剤単独の有効性を検証したのはこの論文が初めてである。2003年から2008年の外傷を除く心停止患者851例に対して行われた前向き無作為割り付け研究で、評価項目は生存退院率、次に1年後の生存率、脳神経学的評価、自己心拍再開後の入院率、蘇生術の質である。

 期間中に1183例に心肺蘇生が行われ、そのうち851例が評価対象となった。薬剤投与群で使われた薬剤はアドレナリンが79%、アトロピンが46%、アミオダロンが17%であった。結果を図1に示す。この中で有意差があったのは心拍が再開し入院になった率のみで、生存率も神経学的評価も差はなかった。

 では今まではアドレナリンが蘇生に有効と考えられた心室細動はどうだろう。筆者らは取り付き時の心電図波形で転帰の比較をしている。除細動に反応しやすい心室細動や心室頻拍を集めて検討したところでは、薬剤を投与してもしなくても全ての項目に差はなかった。また心静止や無脈性電気活動では自己心拍再開・入院・ICU入室までは薬剤投与群のほうが薬剤なし群より有意に割合が高かったが、生存退院や神経学的後遺症は薬剤があってもなくても差はなかった(図2)。これは薬剤投与をして心拍が再開したとしても、ICUから退院までのどこかの時点で亡くなる人が多いことを示している。

 薬剤を投与するためには点滴を取らなければならず、そのため胸骨圧迫などの質が低下したり圧迫しない時間ができたりする可能性がある。筆者らは蘇生術の質についても評価している。これによると薬剤投与群ではCPRの時間が薬剤なし群に比べ4分長い。しかし胸骨圧迫の中断割合や圧迫速度、人工呼吸の回数は差はなかった。また行ったことも点滴を取ることと薬剤を投与すること以外は同じで、挿管も除細動も行っている。

曖昧だった根拠

 現場で静脈を確保し薬剤を投与することは世界中で行われている。この連載でもアドレナリンについて議論はしたが、それは大量を投与したらいいとか悪いとかの話であって、投与自体は有効であるとの認識であった。ところが、この著者によると、有効とされたのは動物実験のレベルであり、例えばアドレナリンは脳や心臓に流れる血液を増やし蘇生率をあげるとされているのだが、ヒトについてはアドレナリン投与も以前から疑問視されていたらしい。後ろ向きの、記録をひっくり返して確認する研究ではアドレナリン投与は無効であり、逆に患者の生存率を低下させる危険性が指摘されていた2)。また前向きの研究としてはこの連載でも取り上げたACLSについての研究3)があるが、これもACLS全体の評価であってアドレナリン単独の評価ではない。

胸骨圧迫とAEDのみ

 この論文が示すもう一つのことは、取り付き時の心電図波形によって処置を変えるのは無意味ということである。プロトコールには載っていないものの、取り付き波型が心室細動なら蘇生の可能性が高いから現場で点滴を取ってアドレナリン投与し除細動に持って行く、心静止なら蘇生の可能性が低いから車内収容を第1に考え車内で点滴を取る、という区分けが行われる。しかしこれも薬剤投与に意味がないなら区分けは要らなくなる。救急隊が行える現行の手技で有効なのは胸骨圧迫とAEDに限られ、挿管救命士も薬剤救命士も生存率には不要なのである。

スーパー救命士がどうした

 消防では、挿管も薬剤もできる救命士をスーパー救命士というらしい。ブログではスーパー救命士を褒め称える記事も多数ある。しかし考えて欲しい。スーパー救命士がいても救命率は向上させない。自惚れは捨てて、何が必要か考えて欲しい。

 この論文はガイドライン2010に大きな影響を及ぼすだろう。今年初冬、薬剤投与にどのような方向が示されるか、注目していただきたい。

文献

1)JAMA 2009;302:2222-9
2)Resuscitation 2002;54:37-45
3)N Eng J Med 2004;351:647-56


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10.4.17/9:46 AM