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100811児童虐待を発見するために

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児童虐待を発見するために

 2010年7月30日、大阪西区のマンションで2児の遺体が発見された。風俗で働く母親は子供たちが死ぬのが分かっていながら自分の時間が欲しいとマンションに帰らなかった。

 今月は最新文献から離れて、児童虐待の現状について医学雑誌からの抜粋をお送りする。児童虐待については先月2010年6月号の「Discovery and experiences」p78にケース5として挙げられている1)。救急隊の観察がその後の児童の人生および生命を左右する可能性があるため、細心の注意が望まれる。

児童虐待の発生リスク

 虐待者の7-8割は実母であり、被虐待児は4-5歳以下の乳幼児が多い。以前は「虐待は経済的な格差と無関係に起こる」とされていたが、現在では経済的、社会的な要因が虐待発生に強く関与していることが分かっている(表1)。さらに虐待を受けていた子供は自分の子に虐待をする可能性が極めて高い。

表1 児童虐待の発生リスク要因(2)p136)
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1)妊娠
・望まぬ妊娠・望まぬ出産
2)児の因子
・多胎
・集中治療が必要な状態での出生
・精神発達遅滞
・長い家庭外養育から戻った
3)親の因子
・精神疾患、アル中、薬物中毒
・知的障害
・気質が暴力的・反社会的
・親としての自覚欠如・未熟
4)家庭の因子
・孤立家庭
・経済的不安定
・夫婦仲が極めて悪い
・子供が入籍していない
・親が反社会的(刑務所入所中など)
・国際結婚


保護者の特徴

前出Discovery and Experiences での母親は救急車を呼んだのに妙に落ち着いており、患児の観察を拒み、すぐ病院へ運ぶように要求している1)。これは虐待を行う保護者の特徴に合致しているといえよう(表2)。

表2 虐待を行う保護者の特徴(2)p138)
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・子供に笑顔を見せない
・子供に話をしない
・子供を激しく(常識を超えて)叱る。すぐに叩く
・子供の扱いがぎこちない
・子供の症状や行動の把握が不的確
・子供の日頃の様子をほとんど知らないし知ろうともしない
・不自然な状況説明があり、二転三転する
・保護者どうしで説明内容が変わる
・障害の程度(重症度)を気にしていない
・診察を拒否する
・衝動的な行動や発語が多い
・示威的な言動をする
・経済的困窮や強い夫婦不和がある

患児の特徴

 通された部屋はひどく散らかり汚れていて、患児は真夏にもかかわらず長袖長ズボン、靴下履きであった。母親の前では無口を通し、母親から引き離すと殴られたことを救急隊員に告げている(表3)。

表3 被虐待児の特徴(傷病者接触時)(2)p137)
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1)子供の状況
・外傷の受傷転帰が不明瞭・不自然(本人も理由を話したがらない)
・全身に新旧混在の外傷の存在
・見えにくく普通にはケガをしない部分の外傷
・未治療の虫歯が多い。口の中が汚い。
・身体・着衣が異様に汚い
・不適当な服を着ている(季節外れ・性別不詳など)
・爪が伸びっ放しか爪を噛んでいて爪が伸びていない
・落ち着きがなく無表情で大人への怯えがある
・逆に異様にべたべたと甘える
・保護者と離れても泣かない。
・保護者の顔色をうかがう
2)子供の行動と心理
・触られることを異常に嫌がる
・表情が暗い
・大人の前で動きがぎこちない。不自然な肢位を取る
・保護者がいる時といない時で動き・表情・発語が変わる

虐待を発見するために

 文献2)では、現場でのチェック点を挙げている(表4)。虐待児を搬送した経験のある諸兄には納得できるリストであろう。また、虐待を疑った時には記録が重要なことは言うまでもない。表5は医師用だが、救急隊としても留意していただきたい点でもある。

表4 現場でのチェック点(2)p139,173)
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・健康保険・乳児医療証・母子手帳の手続きが不明・所有していない
・周産期の状況説明(生下時体重・出産週数など)ができない
・既往疾患の説明ができない
・日頃の体調や顔色の説明ができない
・子供の性格や嗜好の説明ができない
・現病歴の説明ができないかあいまい
・病院搬送を極端にせかせる
・接遇にいらいらしている
・傷病や予後についての関心や心配が少ない
・観察(抱っこや抑制・脱衣など)に非協力的
・自己主張のみで受容的態度に欠ける
・病歴と観察結果が一致しない
・発達段階にそぐわない、子供自身が起こした事故との説明
・受傷を他人のせいにする

表5 記録上の注意点(2)p173)
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・保護者の話した言葉通りに記載する
・子供の発言もそのまま記載する
・誰が話をしたかわかるようにしておく
・保護者以外の同席者がいる場合は誰であるかを記載する
・外傷は部位・大きさ・形・色・数などを記載し、必ず図を書く

児童虐待は増えているのか

 最後に、虐待の発生件数について述べたい。痛ましい事件が起こるたびに、テレビのコメンテーターは「児童虐待は増加している」「悪質化している」と不安を煽る。だが、本当にそうなのだろうか。

 厚生労働省が全国の児童相談所を通じて虐待相談対応件数を集計したところ、1990年には全国で1101件であったものが、2008年度では4万2000件を越えるようになった。ただ、これをもって「児童虐待は増加している」とは決めつけられない。

 もともと一定の割合で児童虐待は存在していた。法的整備が進むことで今まで見過ごされていた事例が児童相談所へ持ち込まれたものであり、そうでなければ20年弱で40倍という増加率は理解できない。虐待の増加や深刻化の印象は、テレビなどのマスメディアが特定の悲惨の事件を取り上げ、それについて出演者が「増加している」「酷くなっている」とコメントして不安をかき立てることが原因である。不安になればテレビに囓りつき視聴率が上がるので、テレビ会社の利益につながる。

 同様に、子育てのできない親ややる気のない親が増えているという意見も多分に疑わしい。戦前にも「児童虐待は増えている」と言われていたらしい。いつの時代にも「昔は良かったのに今は...」というノスタルジーが存在するのである2)。

 「だんだん悪くなっている」「酷くなっている」という意見は「酒鬼薔薇聖斗」が起こした神戸連続児童殺傷事件の際にも繰り返し言われた。しかし、少年の犯罪数も凶悪犯罪の割合も最も多かったのは昭和30年代である。インターネットで検索すれば、とても人間の仕業と思えない事件がその頃に多く発生している。

 重要な事例には常に一定の割合で発生し、それらには一定の傾向が存在する。1万人に10件起こるのであれば1000人の村でも必ず1件起こっている。どこの消防であっても虐待とは無縁ではない。冷静な観察が患児を虐待から引き離すことにつながるのである。

文献

1)月刊消防 2010;32:75-80
2)小児科 2010;51:117-176


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10.8.11/9:15 PM