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121125 点滴ルートの確保と維持

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今まで心肺停止患者にだけ認められてきた点滴が、ショック患者などの心肺停止以前の患者にも適応が広げられる方向で議論が進んでいる。聞こえてくるところではそれほど遠くない時期に許可されるようだ。この決定により救急救命士が点滴を採る機会は格段に増えるだろう。

病院に患者が到着した時点で救命士の採った点滴が使えるようなら病院ではそのまま点滴を使うことになる。清潔操作に心がけてくれればずっと使い続けることができるだろう。今回は救急からちょっと離れて、

点滴ルートの維持、特に輸液管の交換についての情報をお送りする。

推奨される静脈路確保の方法

まずは推奨される静脈確保の方法をアメリカCDC(感染疾病センター)の勧告(2011年)から抜粋する1)。CDCは「スタンダードプレコーション(感染防止の標準様式)」で知られる感染症予防の行政機関である。これを読むと、世界的な標準を消防が取り入れていることが分かる。

(1)点滴を採る場所は成人患者では上肢を使用する。小児患者では上肢もしくは下肢または頭皮(新生児または乳児の場合)の血管を使う

(2)点滴を採る前に普通の石鹸と水で手を洗うか擦式アルコール製剤を用いて手指を拭く

(3)血管内留置カテーテルの挿入時には無菌操作を守る

(4)点滴後に点滴刺入部位に触れない場合には、滅菌手袋は不要で清潔手袋を着用する。

(5)刺す部分の消毒は70%アルコール(酒精綿)かヨードチンキ(商品名イソジン)またはグルコン酸クロルヘキシジンアルコール製剤(商品名ヘキザックアルコール)を用いる

(6)刺した部分は滅菌ガーゼか滅菌透明ドレッシングで覆う。刺した部分が部位が出血または滲出している場合はガーゼで覆い、湿るか汚れたら交換する。

同じ勧告の中で、消毒剤はグルコン酸クロルヘキシジン(商品名ヒビスクラブ、ヘキザック)がアルコールやヨードチンキに比べて穿刺部位の細菌の繁殖が少なく感染症の発生も少ないことを述べている。また日本では70%エチルアルコールは酒税がかかって値段が高いのだがイソプロパノールやクロルヘキシジンなどを混合することで酒税がかからなくなり安くなることも覚えておきたい(飲めなくなるから酒税がかからなくなるらしい)。

点滴ルートの維持

病院では救命士が採った点滴を多くの場合そのまま使うことになる。点滴ルートの交換や定期的な刺し直しは手間と時間がかかり、加えて資器材代も数が多ければ膨大なものとなる。だが同じものを使い続けると見た目が汚くなり、感染の懸念が出てくる。そのため1週間に1回点滴を採り直したり、点滴のチューブだけを1週間に2回取り直したりすることが行われてきた。これに対してCDCの勧告では

(1)成人患者では感染と静脈炎のリスクを減らす目的で72-96時間毎を超える頻度で交換する必要はない

(2)臨床上必要なときに限った成人患者での末梢カテーテルの交換に関して勧告はなされていない

としている。分かりづらいが、つまりいつ刺し直すか、どれくらいの期間でチューブ類を交換するかは不明であるらしい。

この点についてLancetに論文が出た2)ので紹介する。この論文の中で著者らは「今まで72時間から96時間で点滴ルートは交換するとされていたが、点滴ルートの交換と点滴の取り直しにはお金と手間と患者への侵襲が必要である」「定期的なルート交換と症状が出てからのルート交換で患者の利益が同じである、という仮説を検証した」ものである。対象患者は2008年5月から2009年9月まで末梢での持続点滴を行った3283例である。それらを2つの群に分けた。症状が出てから点滴を交換する症状群と、3日ごとにルートを交換する3日群である。群の症例数は等しくした。第一の評価項目は血管炎で治療が必要になること、次の評価項目はカテーテルに起因する全身感染症か局所の感染症、カテーテル先端の細菌付着、点滴ができないこと、使ったカテーテルの数、点滴を付けていた期間、死亡率、コストである。結果として、症状群ではカテーテル交換の平均は99時間、3日群は70時間であった。何らかの症状を訴えた例は二つの群とも7%で全く同じ、点滴に起因する重篤な合併症は経験しなかった。この結果から著者らは点滴を交換するのは症状が出てからで十分であると結論し、これにより無駄なコストやスタッフの労力を削減できるとした。

点滴ルートの交換や点滴の刺し直しは患者にとっても医療者にとっても負担が大きい。この論文が広く知られて無駄な時間とお金が減ることを願いたい。

中心静脈ではルート交換が感染源に

中心静脈の場合はもっとはっきりしている。いまの中心静脈のチューブは一体形成されていて雑菌の入る場所は輸液バッグの差し口(ピン)と中心静脈カテーテルとの繋ぎ目くらいしかない。そのためカテーテルの途中から雑菌が体に入り込むことはほとんどなくなり、最も危険なのが点滴ルートを交換することとされている。点滴チューブは症状がなければ交換する必要はない。極端な話、1ヶ月でも1年でも使えるうちは使うべきである。

必要なのは回数

救急救命士が採る点滴は清潔操作に関しては私たちよりずっと厳格である。逆に「もたもたしてないで速く採ればいいのに」と思うことも多いくらいだ。あとは回数さえこなせれば信頼できる点滴ルートとなるだろう。点滴は「慣れ」である。患者のためにも自分のためにもきっちり点滴して病院に運んできて欲しい。

文献

1)CDC 2011
2)Lancet 2012;380:1066-74


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http://ops.umin.ac.jp/

13.4.6/10:09 PM