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130130 チューブはマスクに劣る

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この連載でもたびたび取り上げてきた気道確保器具。現在までの研究では気管挿管は時間がかかる上に合併症も多く避けるべきであり、ラリンゲアルマスクなどの上気道確保器具は気管挿管よりは合併症は少ないので勧められるとされてきた。今回は気管挿管も上気道確保器具も同等でありマスク換気が最も良いという論文を紹介する。

バッグマスクが優れる

今回も日本のウツタインデータを用いた解析である1)。対象は2005年1月から2010年12月までの日本国内の病院外心停止症例65万人を対象にしている。この65万人のうち、バッグバルブマスクで換気されていたのが37万人弱(57%)、気道確保器具が用いられたのが28万人強(43%)で、28万人の内訳は気管挿管が約4万人(6%)、それ以外の上気道確保器具が24万人(37%)であった。この3群を補正を加えずそのまま評価すると、神経学的に良好(脳機能分類1(正常)もしくは2(自立生活可能))がバッグバルブマスク群で2.9%あったのに対して器具使用群は1.1%と有意に低かった。さらに性別や心停止原因、目撃の有無、バイスタンダーCPRの有無など多くの因子を均等化する補正を加えたところ、バッグバルブマスクが1に対して期間挿管はオッズ比0.41、上気道確保器具でオッズ比0.38と、バッグバルブマスクが有意に優れていることに変わりはなかった。

細かいデータも挙げられており、これら全てでバッグバルブマスクが勝ることが示されている。自脈再開がバッグバルブマスクが1に比べて期間挿管は0.64、上気道確保器具では0.54。1ヶ月後の生存率がバッグバルブマスクが1で期間挿管0.42、上気道確保器具が0.36であった。また神経学的に良好な生存率もバッグバルブマスク1、気管挿管0.42、上気道確保器具0.36と有意差が出ている。

「まじめに換気」が良くない

このデータを見ると、自脈再開から既に差が出ており、その後は差が開いていくようである。筆者らの考察では、この差は気管挿管では多くの合併症、食道挿管であったり予期せぬ低酸素状態などを引き起こす可能性があり、また胸骨圧迫を中断させなければならないのが要因なのではないかとしている。ではラリンゲアルチューブやラリンゲアルマスクではどうかというと、これらは胸骨圧迫を続けたままで挿入可能であり、気管挿管のような手技的なミスもない。つまり原因は他のところにある。

ここで筆者らは胸腔内圧に注目している。人工呼吸を行うと胸腔内圧が上がるために心臓への血液還流が低下する。これにより脳や心臓への血流も低下するので蘇生率が低下する。これはガイドラインが変わるたびに人工呼吸の重要性がが減少していく理由の一つになっているものである。マスク換気ではどうしても空気が漏れるために意図した量より肺に入る空気の量は少なくなるので胸腔内圧は少ししか上がらない。しかしラリンゲアルチューブであっても気管内チューブであってもこちらの意図しただけの空気を肺に送り込むことができ、これが胸腔内圧も引き上げ結果として脳や心臓の虚血をもたらしている。

この結果をそのまま受け取れば、気管挿管はおろかラリンゲアルチューブなどの気道管理チューブは全て使えなくなる。使っていいのは長時間搬送する時だけになりそうだ。

以前から指摘されていた

気管挿管と上気道確保器具とは患者の予後から見れば差がないということは以前から指摘されていた。日本のウツタインデータを2005年1月から2008年12月まで使った別の報告2)では、両者の神経学的予後に差がないとされている。また韓国からの報告3)でも、救急隊員に気管挿管された患者はバッグバルブマスク換気された患者よりも生存退院率が低いことが示されている。

日本の場合、救急隊員の気管挿管は例が少なく、さらに他の方法では換気ができないなどの悪条件があった時に行われる。だから挿管された患者の予後が悪いのは想像がつくのだが、手を自由に使えるようにするために割合簡単に入れている(ように見える)ラリンゲアルチューブやラリンゲアルマスクでも予後が良くないとなれば、現場の気道確保は少し考えないとならないだろう。

行き着くところは隊員も胸骨圧迫のみか

Ewyらのグループが出している論文4)に、救急隊員も胸骨圧迫のみの蘇生を行えば生存退院率が上がる、というものがある。Ewyらはこれを「胸骨圧迫中断最小法」と名付け、救急隊員に教え込んだところ、人工呼吸を行う従来法に比べて生存退院率が2.4倍に上昇(3.8%から9.1%へ)したと報告している。この論文を見た時には「本当かなあ」と思ったのだが、これを支持する論文が次々に出て来ている。救急隊員も人工呼吸をしなくなる日はそう遠くないかもしれない。

文献
1)JAMA 2013;309:257-266
2)Crit Care 2011;15:R236
3)Resuscitation 2012;83:313-9
4)JAMA 2008;299:1158-65


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13.4.6/10:18 PM