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130301 救命士の点滴は有害かもしれない

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救急救命士が行う特定行為として除細動、点滴、気道確保器具の使用が認められいる。このうち除細動は指示あり半自動除細動機から包括的指示の自動対外式除細動機へ変化し、気道確保器具も当初は有効なのかどうか分からない食道閉鎖式エアウエイくらいしかなかったものが、今はラリンゲアルチューブを筆頭に自分の好きなチューブを何種類も選べるようになったし、気管挿管も症例によっては選べるようになった。点滴については,アドレナリン投与のルートになるぐらいで,点滴自体は蘇生に対して全く無意味であることをこの連載で過去に述べている。

今回は救命士が行う点滴の効果について九州大学から報告1)が出たので紹介する。

点滴の効果はないか有害

今回も日本のウツタイン様式の報告書からの統計である。調査対象は2005年始めから2009年終わりまでの病院外心停止症例で、これらの心拍再開率,短期と長期の生存率、神経学的後遺症の程度を検討している。以下でオッズ比がでてくるが、オッズ比とは競馬など用いられる確率の表記方法で、オッズ比が1なら確率は同じ、オッズ比が高いほど可能性が高い,という意味である。

研究期間の5年間で病院外心停止は547218例。このうち18歳未満を除外し,現着が1時間以上などの不適症例を除いたところ、検討症例数は53万1854例になった。このうち乳酸リンゲル液を病院前に点滴されていた症例は10万9140例。これは全体の21%になる。結果を見てみよう。まず心拍再開率については年齢や性別など全く考慮しない場合にはオッズ比が1.52と点滴をした方が有利なのだがだが,これを発生年,年齢、性別,バイスタンダー目撃の有無など主要な項目で補正をかけるとオッズ比は0.95と、点滴した方が心臓が動かないという結果になっている。1ヶ月後の生存率は補正してもしなくても点滴の結果が悪くて,補正なしでオッズ比は0.88、補正すると0.8までオッズ比が下がる。

1ヶ月後の脳機能と生活機能も検討している。脳機能が1もしくは2で神経学的に自立した生活が可能な症例はもっとひどくて、点滴するとオッズ比は0.59、補正するとさらに下がって0.53になる。また日常生活状態を示すスケールでは自立した日常生活が可能な症例は点滴によってオッズ比は0.6、補正すると0.53に落ちる。

筆者らはさらに項目を重ねて補正した結果も出しているが,こちらは先ほどの主要項目補正と補正なしのちょうど中間くらいのデータになる。

乳酸が有害なのか

病院前に心拍が再開するのは容量負荷による心拍出量の増大によるものだろう。しかしこ心拍再開効果も補正後は逆に成績が悪くなるので、本当に心臓を動かすかは疑問である。1ヶ月後の成績は軒並み点滴群が低い。筆者らはこれを乳酸の持つ性質によるものとしている。

現場や救急車内で点滴を採ったところで,病院に着くまでに体内に入る水の量は多くて300mL程度だろう。点滴バッグ1本入るような長距離の搬送は数が限られる。300mL、牛乳瓶1本強の点滴をしたからといって患者の予後に影響を及ぼすとは考えられない。しかし乳酸については影響を及ぼす可能性がある。
乳酸リンゲル液は細胞外液として補充される。乳酸は肝臓で分解されて重炭酸を放出するので、異化亢進時のアシドーシスを補正する働きを持つ。心肺停止時には血液循環が止まるので組織全体がアシドーシスになっており、重炭酸による補正は理論的には歓迎される。実際,過去の心肺蘇生ガイドラインではメイロンなどの炭酸水素ナトリウム溶液を投与して外からアシドーシスを補訂していた(現在は効果が不明とのことで推奨されてはいない)。

以上述べた乳酸投与の利点は肝臓が正常に働いているという前提の話であって,心肺停止で肝臓にほとんど血液が流れていない時には重炭酸の放出は期待できず,もともとpH6.8という酸性溶液が追加されるという悪影響だけが生体にもたらされる,というのが筆者らの主張である。

何を落とせばいいのか

乳酸についてはもう30年も前から肝機能障害時の乳酸アシドーシスを助長するとされていて,臨床では乳酸を酢酸で置き換えた酢酸リンゲル液を好んで使う医者もいる。だがこれとて肝臓が機能していない状態では酸性を助長するだけだろう。その他にマグネシウムを添加したり糖を添加したりした多くの種類の輸液製剤が市販されているが,肝臓の働きが止まっている、しかもあとから動き出すかもしれないと考えると,副作用のない輸液製剤はなさそうである。

輸液は拡大

もうすぐ「ショック状態での輸液投与」が可能になりそうだ。消防による広報を見ると順調に症例は集まっているようだし,それなりの効果も期待できそうだ。病態から考えても出血やアナフィラキシー・熱傷などのショック状態で輸液を行うのは正しいし,処置拡大で検討されている「喘息患者への吸入」よりも住民にもたらす恩恵は大きいだろう。

心肺停止で点滴しても意味がないことはこの連載でも単行本でも触れて来た。救命士の中には「静脈路確保」の意義について疑問に思う人も多かっただろう。ショック状態でようやく点滴が報われる時代が来る。それまでしっかり理論も手技も勉強しておこう。

文献

1)PLOS medicine 2013;10(2):e1001394


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