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130807CSRMベーシックガイドと外傷カクテル

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「CSRMベーシックガイド」(東京法令出版)を入手した。私もいくつか実用書を出しているので,この手の本は内容だけでなく写真の質やレイアウトなどチェックし、「ここはいい」とか「ここはダメ」とか考えながらページをめくっている。

「CSRMガイドブック」については2000円未満と安くDVDも付いていてお買い得感が高いところが○。全体に文字が多いところが×。CSRMの最後のM(medicin, 医学)領域の記載が表面的でいくつか疑問の点があるのがx。

結論としては買っておいて損はしない本である。

ただ、自分なら本当かどうか分からない医学領域については載せずに違った作り方をするだろう。


このベーシックガイドの75ページに「Crush injury cacktail (クラッシュ外傷カクテル)という点滴メニューが載っている。そのまま引用すると「生食1L当たり,炭酸水素ナトリウム(メイロン)1A、マンニトール10g、不整脈予防のため,グルコン酸カルシウム(カルチコール)10mL(850mgを溶解した液)を3-4分かけて静注することもあります(高カリウム血症による致死的な不整脈を防ぐために、カルシウム製剤を投与します。血中カルシウム濃度を上昇させることで心筋の活動性を抑制し,不整脈を抑制します。)。」(原文ママ)1)。

こんなカクテルがあるんだと初めて知った。だがなぜマンニトールと炭酸水素ナトリウムなのだろう。

生理食塩水は妥当だが他の製剤でも良い

クラッシュ症候群については阪神淡路大震災でこの病態により多くの人が犠牲になったことから今や救助領域では誰もが知る症候群になっている。簡単に書くと,主に太ももが以下が長時間挟まれて動けない患者が救出された直後に心停止になるか、心停止を免れたとしても一週間以内に尿が出なくなって死亡するものである。原因は(1)長時間の圧迫によって筋肉が壊れ(2)圧迫解除によって壊れた筋肉から大量のカリウムイオンが心臓に行って心臓を止め(3)筋肉から溶け出したミオグロビンが腎臓に行って腎不全を引き起こすものである。心臓と腎臓を守るため圧迫解除前から大量の輸液をして血中カリウム濃度を下げるとともに、尿量を増やしてミオグロビンの濾過量を増やすことが行われている。

点滴は生理食塩水を用いる1)。心停止は血中カリウム濃度の急上昇によるものなので、カリウムの入っていない点滴は妥当である。救命士の用いる乳酸リンゲル液はカリウムが入っているし,他の点滴にも濃度の差こそあれカリウムが入っている。5%ブドウ糖液も点滴されることがあるが,これだと全く電解質が含まれていないので血管外の浮腫を助長するし,利尿が付いた時に電解質バランスの維持に苦労しそうだ。ただ、別の文献には5%ブドウ糖液もリンゲル液も高張食塩水も輸血も記載されている2)。点滴に何を使うかは外傷時であれ麻酔時であれ長いこと議論されているのに全く正解が見えてこない問題である。生理食塩水があればそれを用い,なければできるだけカリウムの少ないものを選ふようにするようだ。

マンニトールとフロセミド

マンニトールは浸透圧利尿薬である。腎臓糸球体で濾過され再吸収が行われない。このため尿細管の中の浸透圧が上昇し,水の再吸収が抑制されることによって尿量が増える。また血中の浸透圧も上げるので,血管外から血管内への水の引き込みを促進して浮腫を軽減させる。

一方のフロセミドは商品名をラシックスといい,強力かつ即効性の利尿薬である。腎臓でのナトリウムと塩素の再吸収を阻害して利尿作用を表す。フロセミドの場合は特にカリウムの排泄作用が強いのが特徴であり,高カリウム血症の治療にも使われる。

クラッシュ症候群でマンニトールが用いられるのは利尿作用に加えて全身の浮腫、特に肺水腫の軽減を期待してのものらしい2)。マンニトール単独では利尿作用は弱いので、カリウムイオンの急上昇を避けるためにはフロセミドの併用も考えるべきだ2)と思ったら実際に併用しているという報告もある3)。

炭酸水素ナトリウムは疑問

最も疑問なのが炭酸水素ナトリウム(メイロン)の使用である。メイロンは15年以上前には心肺蘇生時に必ず使われていた薬剤だが,蘇生効果が不明なのと蘇生後の血中pHや電解質異常を来すことから現在では蘇生に用いられることはほぼなくなった。

クラッシュ症候群で炭酸水素ナトリウムを使うのは,尿のアルカリ化を促し腎不全を防ぐためとされている2)。だが炭酸水素ナトリウムを投与してもしなくても患者の転帰には差はなく、炭酸水素ナトリウムの投与には理論的裏付けは得られていない4)。「CSRMベーシックガイド」の次の版ではこの点を解説してもらいたい。

クラッシュ症候群の治療

ここまで書いたように,クラッシュ症候群では救助前から点滴をしてとされていても,実際に何を点滴すれば良いのか分かっていないし,カクテルの中身も根拠に乏しい。これは症例が少なく治療法を比較できないためである。これからも大災害は世界各地で定期的に起こるだろうから,遠い将来にはどの治療法が最もいいか決定されるだろう。それまでは文献を漁って最も良さそうな治療法を試す他にはなさそうだ。


文献
1)CSRMベーシックガイド。東京法令出版。2013、p75
2)Crit Care Med 2005;33(1,Suppl):S34-41
3)Saudi J Kidney Dis Transpl 1995;6:294-7
4)Amm Pharmacother 2013;47:90-150


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13.8.7/10:03 PM