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130807胸骨圧迫機「ルーカス」

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メール頂きました(2013/8/11)

月刊消防の最新救急事情第144話「ルーカス」を拝見しました。

オートパルスやルーカスの使い勝手の比較は可能ですが、臨床効果の比較というのは現場状況が様々なので難しいと思っていますが、一番欲しいデータだと思っています。

もう一点、感じるのは資器材の軽量、小型化です。都会地では、PA出動を実施したり、4名出場したりしている消防本部もあるようですが、それは一部でありやはり3名出場は大半だと思っています。

そうした場合で、CPA等重症症例の場合、資器材の量、重さはかなりです。なので少しでも軽量、小型化した資器材が求められます。

そこは日本の技術でクリアできるような気がしていますが日本製の救急資器材がお目にかかれないのは残念でなりません、made in japan を是非見たいものです。


××さんこんにちは。感想ありがとうございます。
ルーカスは私はこの原稿を書く直前まで知りませんで、近代消防だったかの記事でルーカスの話をちょこっと読んで調べたのがこの記事のきっかけです。日本でもかなりの台数が導入されているようですね。サンパーより良さそうです。
あそこに書いた通り日本で開発できただろうにーと強く思いました。


以前にこの連載で自動で胸骨圧迫を行う「オートパルス」を紹介した。この機械は既に広く普及しているピストン型の「サンパー」と異なり、胸にバンドを巻いて、バンドが収縮することで胸郭が縮められて血液が拍出される。今回はサンパーの改良型と言えるピストン型「ルーカス」について、その有効性を文献から検討する。

装着に33秒

ルーカスはレサシアンと同じスウェーデン生まれの胸骨圧迫機である。先祖であるサンパーが金属製で圧縮酸素を動力としているのに対し、ルーカスは重量は8kg弱で軽く電池でも動くため現場で用いることができる。装着は背板を差し込み、背板の両端にポンプ部分を付けて完成である。報告によればルーカス装着のために胸骨圧迫を中断した時間は32.5秒(25-61秒)であった1)。この論文では結論で「訓練すれば胸骨圧迫の中断は20秒以内で済む」としている。説明書によれば胸骨圧迫のテンポは固定されており毎分102回、圧迫の深さは53mm、圧迫と解除の割合は1:1である。


動物実験で有利な結果

動物実験レベルでは、手で押すのと比較してルーカスが優れたデータを出している。ブタを使って冠動脈還流圧や骨折の数を調べたものである2)。30kgの豚16頭を半数ずつにわけ、片方は手で胸骨圧迫と人工呼吸を行い、もう片方はルーカスを用いて胸骨圧迫を、人工呼吸器を用いて換気を行った。ブタに全身麻酔をしたのち、交流通電によって5分間の心室細動を起こし、その後に20分間の蘇生を行った。手で押すのは救急隊員16人と救急外来の看護師(男10人女8人)で、気管内チューブを通じての人工呼吸もこの人たちが行った。胸骨圧迫のテンポはメトロノームを用いて毎分100回とした。ルーカスの方は定められているテンポである毎分100回を使い、5分ごとにピストンの当たる場所を微調整して正しく胸骨圧迫をするようにした。心肺蘇生を20分続けたのち適応があれば除細動を行い、自脈が出れば60分生存させてその後屠殺し解剖した。

自脈が再開したのは用手法で3頭に対しルーカスでは8頭全てで自脈が再開した。心肺蘇生中の大動脈圧は用手で55mmHg、ルーカスで65mmHgであり有意差を認めた。また除圧時の動脈圧はルーカスで低く、右心房圧もルーカスで低かった。これは用手法では除圧が不完全なためである。心臓に対しては、冠動脈還流圧は用手法が5-10mmHgに対してルーカスでは10-25mmHgであり2倍程度の血流が期待できた。脳に対しても左総頸動脈の血流量が用手法で176mL/分なのに対してルーカスでは212mL/分であった。蘇生中の呼気中炭酸ガス分圧は用手法が2.2KPa、ルーカスが3.4KPaで、これはルーカスの方が肺に多くの血液が流れていることを示している。自脈が出たあとの心電図の解析では用手法で蘇生できた3頭のうち1頭で心電図に虚血性変化が見られたのに対してルーカスでは全例で正常の心電図が得られた。解剖では、用手法で自脈が回復しなかった5頭については心臓は虚血のため硬くなっており、また8頭合わせて55本の肋骨骨折が見られた。ルーカスでは肋骨骨折は33本であった。他にも用手法では気胸1例、肝臓損傷が1例あったがルーカスではこのような重大な合併症は見られなかった。

この論文はルーカスの地元スエーデンから出たものでルーカスの発売元からも援助を受けているので、額面通りには評価できない。だが手で押すよりかなり良さそうである。

臨床では効果不明

臨床データは既にかなり出ている。2012年に発表された論文3)では16施設から出た22の論文を横断的に解析している。それによると心拍再開率や生存率に有意差は認めていない。ルーカスで有意に心拍再開率が向上したといっても総数が少ない中での研究のためエビデンスの質が低いとしている。

これは予想の範囲内である。今まであれこれやっても全然蘇生率が上がらなかったのに、こんな簡単なピストンを取り付けたくらいで蘇生率が上がったら今までの努力は何なのか、という話になるだろうし、サンパーだって同じ原理なのだから倉庫の片隅に追いやられることもなかっただろう。

ルーカスの特別な役割

ルーカスの特徴として患者の体に巻き付けることと軽いことが挙げられる。そのため電池で駆動することと相まって現場で装着しそのまま病院へ運ぶことが可能となる。報告4)によると用手の胸骨圧迫では救急車が発車したり減速したりするとテンポや深さが変わってしまうのだが、ルーカスは機械なので常に一定である。またとても軽いのでヘリコプターに載んで働かせることもできる5)。

面白いと思ったのが、ルーカスがX腺を通すことである。これなら胸骨圧迫を行いながら心臓カテーテル検査ができる6)。心停止患者にカテーテル検査を行うのはまずないだろうが、急性心筋梗塞であっぷあっぷしている患者にルーカスを取り付ければ、もしカテーテル検査中に心臓が止まってもカテーテル検査を継続し血栓溶解剤をカテーテルを通じて梗塞部に投与できる。

日本でも作れただろうに

オートパルスを初めて見たときは「すごい」と思ったが、ルーカスを見たときは正直「何だこんなもの」と思った。大きいものを小さくしたり、重いものを軽く使いやすくするのは日本のお家芸だろうに、どうして日本で開発できなかったのだろう。心肺蘇生ではオートパルスは効果が今ひとつでサンパーの方が確実なのは前から分かっている。多分日本でも何人かは「持ち運びサンパー」を考えたと思うのだが、規制の厳しさに開発を断念したのだろう。日本ではヒトを対象とする研究には非常に強い規制が書けられる。このため新規に研究が認められるのは外国でやったものの追試験(新薬など)か、非常に注目されているもの(iPS細胞など)だけであり、日本で開発したものでも最初にヒトでの応用をするためには日本以外で行っているのが現実である。無駄な規制は早く外して、有用な日本製品をいち早く世界に提案できるようになってほしい。


文献
1)Resuscitation 2012;83:961-5
2)BMC Cardiovascular disorders 2011;10:53
3)Heart 2012;98:908-13
4)Emerg Med J 2013;30:589-92
5)Am J Emerg Med 2013;384-9
6)HSR Proceedings 2011;3:203-205


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13.11.7/7:56 PM