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131107 口頭指導は胸骨圧迫だけにすべき

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心肺蘇生時の口頭指導については新しいプロトコールが今年の5月に消防庁から発表になった。それを見ると心肺蘇生を知らない人に対しては胸骨圧迫だけを指導し、知っている人に対しては人工呼吸を含めた心肺蘇生法を実施させるようになっている。口頭指導で大切なことは、(1)心肺停止を素早く認識して(2)素早く心肺蘇生を行わせること、特に(3)良質な胸骨圧迫を実行させること、であろう。今回は以上の3点について論文を探してみた。

素早く認識:平均で75秒

電話先の患者の心臓が止まっているかどうか、通信員が把握できるかは病院外心停止の蘇生率を向上させるための重要な要因である。アメリカ・シアトルから、通信員は心肺停止と把握するにはどれくらいの時間がかかっているかの調査結果が出ている1)。実際に心肺停止だった476例の電話通信記録を解析したものである。通信員が電話先の患者の心肺停止を正しく認識できたのが80%、逆に電話先の患者に意識があり呼吸をしていることを正しく認識できたのが92%であった。心肺停止と認識するのに平均で75秒かかっている。

素早く心肺蘇生:時間短縮は難しい

心肺停止患者に対して指導員の指導によりバイスタンダーが胸骨圧迫を開始するまでの時間は平均で176秒である1)。これを短くするために、口頭指導のプロトコールを変更する試みがなされている。

報告2)をしているノースカロライナでは口頭指導のプロトコールから脈の確認と口対口の人口呼吸を廃止し、すぐに胸骨圧迫をするように改変した。加えて意識のない窒息と妊娠後期の妊婦への指導もプロトコールに取り入れた。この改変の効果を確かめるべく調査を行った。調査対象は2005年10月から2010年5月までで口頭指導を行ったCPR症例778例である。このうち259例は小児であったりアレルギー反応であったりしたため研究対象から除外した。残りの症例では電話での会話開始から胸骨圧迫開始まで平均240秒(4分)かかっており、これはプロトコール改変の前後で有意差は見られなかった。

先の論文1)の176秒に比べて240秒とかなり時間がかかっているが、ここでは問題にしない。この論文から言えることは、「人工呼吸以外で時間がかかる」ことである。論文を読むと、初期のプロトコールでは胸骨圧迫に辿り着くまで315秒(5分15秒)かかっていたらしいので、それを考えれば大きな進歩である。4分間のうちの多くが落ち着かせることと心肺蘇生をする気にさせることに費やされるようで、いったん度胸を決めて蘇生にかかればそれほど大きな時間は掛からないのかもしれない。

良質な胸骨圧迫:単純が一番

今年5月9日に口頭指導のプロトコールが消防庁から示された。このうち心肺蘇生法については心肺蘇生を知らない人に対して「両肘をまっすぐに伸ばして真上から5cm以上沈むように胸を強く圧迫して下さい」「圧迫のテンポは「イチ」「ニイ」「サン」くらいの速さで連続して行ってください」と指導するように決められている。だが、緊迫した状態でこの指導が実施者にしっかり届くのだろうか。マネキン相手であるがバイスタンダーがどれほど指示に従うことができるか検討した報告3)がある。

公衆の場で研究に応じてくれた成人140人を対象にした。口頭指導は2種類。一つは「できる限り強く押せ」、もう一つは「だいたい2インチ(=5.08cm)押せ」である。マネキンは6歳相当の蘇生人形で2分間の胸骨圧迫を記録できるものである。評価は胸骨圧迫の深さとアメリカ心臓学会(AHA)提唱のガイドラインにどれだけ合致しているかである。評価に用いたのは140名中128名のデータである。平均の胸骨圧迫の深さは「できる限り」群で43mm、2インチ群で36mmであった。AHAの基準に合致した蘇生を行ったのは「できる限り」群で39%、2インチ群で20%であった。有意差はなかったが胸骨圧迫のテンポは「できる限り」群で速かった(93回:82回)。逆に胸骨圧迫の完全除圧は2インチ群の方が割合が高かった(53%:75%)。

押している深さは分からない。今押している胸骨が正常からどれくらい沈んでいるかなんて自信を持って示せる人は救急隊でもほとんどいないはずだ。それ以外のごく普通の人たちに向って深さを、たとえば5cm以上と指定したって分かるはずがない。それならばただ「思いっきり強く」のほうがずっと深く押せる。

口頭指導は胸骨圧迫だけにすべき

では人工呼吸をいれるのといれないのとでは転帰に差があるのだろうか。シアトルから人工呼吸のあるなしでの転帰を比較した論文4)が出ている。

ここでは2011年7月までに長期的転帰が確認できた口頭指導CPRの2496例について、胸骨圧迫のみ行われた1243例と人工呼吸の行われた1253例についてカプラン・マイヤー生存曲線を描いて比較した。患者背景は両群で差は見られなかった。一人当たり平均で1153日の追跡を行うことができた。2260例は死亡しており、生存は236例であった。胸骨圧迫のみを行った群は人工呼吸と胸骨圧迫を行った群に比べて死亡するリスクが少なかった。

電話の向こう側で誰が患者と向き合っているか指導員は全く分からない。ならば誰でも可能なことを誰でも分かる言葉で伝えるようにしよう。それが患者のためである。

文献

1)Lewis M:Circulation 2013 Epub ahead
2)Prehosp Emerg Care 2012;16:242-50
3)Rodriguez SA: Resuscitation 2013 Epub
4)Circulation 2013;127:435-41


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13.11.7/7:53 PM