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140727 アドレナリンは1ヶ月後の生存率を向上させるという論文

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アドレナリンは心肺蘇生で使われる薬剤である。救急救命士も資格を取れば使うことができる。この薬の効果は以前は絶対必要なものとされていたが、現在はこの効果に疑問がもたれている。今回は聖マリアンナ医科大学からアドレナリンは長期生存には有効であるという報告1)が出たので紹介する。

長期生存率は向上

日本のウツタイン統計を用いた検討である1)。対象は2007年から2010年までの4年間の病院外心停止患者で15歳から94歳までの43万8005例である。このうち病院前の段階でアドレナリンを投与されていたのは30%ちょうどで16.5%は心室細動もしくは心室頻拍(VF/VT)、13.5%は非VF/VTであった。43万例全体の生存退院率は7.7%、神経学的後遺症が軽微なものは3.9%であった。またVF/VT例では生存退院率と神経学的後遺症の軽微な割合はそれぞれ26.8%と17.6%、非VF/VT例では同じく4.2%と1.3%であった。アドレナリンの投与例は取り付き時の心電図波形がどうであれ年々増加していた。アドレナリン投与を受けた心肺停止症例は受けなかった症例に対して、バイスタンダーPCR実施率と器具を使った気道確保の実施率が高く、通報から病院到着までの時間が長く、頻回に除細動を受ける傾向があった。また除細動までの時間が遅く、病院到着までの時間が長く、自脈再開まで時間がかかる傾向が見られた。

結果を見ると、アドレナリン投与群はアドレナリン非投与群に比べて1ヶ月後もしくは退院時の生存率が高かった。具体的にはVF/VT例では投与群と非投与群がそれぞれ17.0%と13.4%、非VF/VT例では4%と2.4%であった。神経学的後遺症の軽微な症例の割合はアドレナリンの投与群と非投与群では有意差がなく、これはVF/VT例では投与してもしなくても6.6%で全く同じ、非VF/VT例では0.7%と0.2%であり統計学的な有意差は認めていない。

VF/VT例で生存退院率を上げるものとしてはアドレナリンの投与が最も大きな因子であった。しかし神経学的後遺症の程度についてはアドレナリンは関与しない。非VF/VT例で生存退院率を上げる因子もアドレナリン投与であるが、神経学的後遺症の程度についてはやはりアドレナリンは関与しない。これらの結果は症例の背景を統計学的に補正した検討でも同じであった。

九州大学からは生存率低下

この連載では何度かアドレナリン投与について取り上げて来た。一番最近では2012年6月号に「アドレナリン使用は死亡率を上昇させる」と題して、九州大学公衆衛生学教室の成績を紹介している2)。この論文で用いた統計は同じウツタインデータだが2005年から2008年であり、聖マリアンナ1)が用いたデータより一部は古く、また2007年と2008年は同じデータを使用している。対象患者数は約42万人でほぼ同じ、アドレナリンの投与を受けた人は九州大学の論文では1万5000人だったのが聖マリアンナでは12万人強と大幅に増えている。これは救急隊員の中でアドレナリンを使える人が急激に増えたことによる。九州大学の結果では生データでは1ヶ月後の生存率はアドレナリン投与群で5.4%,非投与群で4.7%、神経学的後遺症が軽度だった割合はアドレナリン投与群で1.4%、非投与群で2.2%であった。1ヶ月後の生存退院率は患者背景の補正によりアドレナリン投与群5.1%、非投与群7.0%となり、神経学的後遺症の軽い人の割合は1.3%と3.1%になった。補正後の1ヶ月後の生存退院率、神経学的後遺症の軽い人の割合は両方ともアドレナリン投与群は非投与群に比べて有意に成績が悪かった。

同じ日本から異なる結論

聖マリアンナと九州大学の論文を並べると、統計学的に補正し採用された症例数がかなり異なっていることに気が付く。九州大学ではアドレナリン投与がそれほど普及していない時期のデータを用いているため、補正によってアドレナリン投与183例、非投与174例にまで減少している。聖マリアンナのデータではVF/VT群で3980例(アドレナリン投与・非投与数は同数)、非VF/VT群で18116例と格段に多い例数を用いているし、九州の論文では補正後にようやく有意差が出ているのに対し聖マリアンナの論文では補正前と補正後に結果の違いが見られないことから、聖マリアンナの論文の方が、アドレナリンを多用する現在の状況をよく反映している可能性は高い。

ただ聖マリアンナの論文ではどれだけ補正し切れているのか疑問点が残る。アドレナリン投与患者はバイスタンダーCPRを多く受けて入るのはブラス要因、現場滞在時間が長く除細動回数も多いのはマイナス要因。いくつもの要因を全部補正することなどできるのだろうか(補正の方法が私にはさっぱり分からないのが原因と言えばそれまでなのだが)。

評価の定まらないアドレナリン

アドレナリンは昔から心肺停止例での第一選択薬剤とされてきた。これは心拍の停止した患者に対して心拍を再開させるのに大きな効果を持つからであり、これはアドレナリン投与に否定的な九州大学の論文でも示されている。だが現在主流となっている評価方法である、1ヶ月後の生存率や1ヶ月後の神経学的後遺症の程度による判定では結果が分かれる。それに論文の時点と現在とで蘇生の方法は異なるので、最新の4年間のウツタイン統計を使えばまた結果が異なって来る可能性がある。
論文によって結果が異なるのは、結局のところアドレナリンは現場で心臓を動かすだけの薬だからだろう。それから1ヶ月も長生きするためには自分の力が必要である。ここでも「自分を助けられる人だけが助かる」という法則が生きている。

文献

1)BMJ 2013;347:f6829
2)JAMA 2012;307:1161-8


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14.7.27/11:02 AM