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140727脳低温療法は有効なのか

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脳低温療法は蘇生後脳症を防ぐために12時間から24時間、施設によっては数日間、体温を33?程度に下げるもので、これにより生存率の上昇・神経学的後遺症の軽減を図るものである。この治療は蘇生ガイドラインにも載っているにもかかわらず、どの程度に体温を下げてどの程度の時間を維持するのか、さらには本当に効くのか不明の部分も多い。今回は従来の33℃という温度を否定する論文を紹介する。

33℃も36℃も変わらない

スウェーデンから出た論文でNew England Journal of Medicineに掲載されている1)。筆者らは低体温の核となる体温に注目し、体温で患者の転帰が影響されるか検討した。患者はグラスゴーコーマスケール7以下で、心拍再開が20分以上続いているものとした。自脈再開から4時間以上経過した症例、発症目撃のない心停止症例、頭が原因で心停止に至ったと思われる症例、発見時に体温が30℃未満の症例は除外している。冷却期間は36時間とし、28時間経った時点で復温を開始している。これらを鼓膜温度33℃の群と36℃の群に振り分けた。評価は治療終了後の生存率で、さらに180日後の神経学的機能と800日後までの生存曲線も検討している。

症例950例。ヨーロッパとオーストラリアの36の集中治療室から集められたもので、このうち不備のなかった939例をデータとして採用した。平均年齢は64歳。既往歴は心筋梗塞、高血圧、虚血性心疾患、糖尿病といったところが並ぶ。倒れた場所は自宅が半数以上である。そのためバイスタンダーCPRは90%が受けている。

950例中33?群の50%の患者は治療終了時に死亡退院している。36?群では48%で、死亡率に有意差は見られなかった。180日後の転帰については、33?群の54%が死亡もしくは自立生活不能状態、36?群では52%が同様の状態でこれにも有意差はない。患者の因子をマッチさせた解析でも有意差は見られなかった。800日後までの生存曲線でも両群に差は見られない。

結論として病院外心停止後の意識障害患者では中心温度を33?まで下げる利点は見つからなかったとしている。

脳低温療法の理論と実際

蘇生には成功したがそのあと植物状態になる症例は多い。この脳の機能低下を蘇生後脳症と呼ぶ。蘇生後脳症は脳の神経細胞が広範に壊れることによって起こる。酸素がなくて完全に死んでしまった神経細胞のまわりには、酸素が足りずにあっぷあっぷしている神経細胞が広く存在する。この状態にもかかわらず蘇生後は体温が急激に上昇することが多く、瀕死の状態の神経細胞がにとっては命取りとなってしまう。この瀕死の神経細胞を救うべく脳を冷やすのが脳低温療法である。ちょうど熱傷時に水をかけるのと同じと考えればいいだろう。当初は30?以下に体温を下げることも行われたが、現在では冷却マットや冷却ブランケットで体を包み体温を33?程度にする「マイルド低温」が主流となっている。人の体を冷やすのだから震えを止める薬を与えたうえ人工呼吸器をつけて外から呼吸をさせる。冷却は急激に行うが、復温はゆっくり行う。

副作用は大きい。自分で咳ができないので肺炎になりやすいし、全身が冷えるので心臓だけでなく腎臓や肝臓にも悪い影響を与える。心停止の原因が一様ではないためどこにどんな悪影響があるかも想像が難しい。集中治療室での治療になるので高額医療となるが先の論文では半数が死亡することから、費用対効果は低い。

果たして脳低温療法は有効なのか

脳低温療法をこの最新事情で初めて取り上げたのが1999年8月だから、14年以上が経つ。これだけ経ってもこの療法は効く効かないを含めて未だにエビデンスが得られていない不思議な治療法である2)。これは今までの研究が小規模で信頼性に欠けるためであった。この欠点を克服すべく今回初めて900例を越える大規模研究が行われたが、なんと蘇生後の発熱を押さえ込み鼓膜温を36?に保つだけでいいのである。現在の脳低温療法は無効と考えても致し方ないだろう。

それならば一刻も早く低温を導入すればいいかというと、病院に着く前に低体温にしても良い結果は得られなかった3)。

以前この連載で脳低体温療法を取り上げた時には「助かるべき人が助かる」と結論した。それは助かる人は脳低体温療法をやってもやらなくても助かるし、助からない人は何をやっても助からないという意味である。今回紹介した論文もそれを裏打ちする。心臓の蘇生でも脳の蘇生でも、医療が関与できる部分はほんのわずかのようだ。

文献

1)Nielsen N: New Eng J Med 2013 Epub
2)Emerg Med J 2013;30:689-90
3)KIm F: JAMA 2013 Epub


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14.8.8/3:50 PM