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140808胸骨圧迫5原則

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胸骨圧迫は心肺蘇生の鍵である。雑誌Circulationでは胸骨圧迫5原則として胸骨圧迫のポイントを紹介している1)。今回は復習の意味でこの論文を取り上げる。

1.中断を最小限に。胸骨圧迫時間を全体の80%以上に

脳と心筋に酸素を回すためには胸骨圧迫の中断を最小限にして血液を回し続けることが必要である。専門家の間では胸骨圧迫にかける時間は蘇生全体の時間の80%異常にすることが望ましいとしている。病院外心停止患者では蘇生時間に占める胸骨圧迫の割合が低くなると心拍再開率と生存退院率が低下することが示されている。

アメリカでは人工呼吸をしないので「80%」が出てくる。後に述べるように、30:2で人工呼吸を行うと理論的には最低でも蘇生時間の1/6は人工呼吸に費やされる(人工呼吸10回、1回1秒として)。実際には1秒で人工呼吸を完了できるはずがないので、この80%は胸骨圧迫のみの蘇生で可能になる値である。

2.テンポは毎分100回から120回

ガイドライン2010では胸骨圧迫のテンポを1分あたり100回以上としている。テンポが遅くなると心拍再開率は有意に下がる。また120回を越えると冠血流量が低下し、また規定の深さまで押すことが難しくなる。このためテンポは100回から120回とする。

3.深さは5cm以上。小児は胸の厚さの1/3以上

押す深さは5cm以上、小児の場合は胸の厚さの1/3以上である。この論文1)では乳児で4cm、幼児では5cmとしている。現在までのデータでは救助者の多くは規定の深さまで押していないことが明らかとなっている。初期の研究では5cm以上押すことで除細動の成功率と心拍再開率が上昇することが示されおり、最近では38mm未満だと心拍再開率と生存率が低下するという報告が出ている。

筆者らは「5cmと1/3という2つの深さがあることが混乱を引き起こすかもしれない」と述べている。ただこれは体格の違いから来るもので、2ヶ月の乳児に5cm押すことなんて不可能だから仕方がないと思うのだが、研究者はそうは思わないらしい。

4.除圧は完全に

不完全な除圧は胸郭が元に戻るのを妨げる。不完全除圧の原因は救助者が患者にもたれかかることによる。不完全除圧により心臓からの拍出量が減り、これによって心臓へ返る血液量が減り、さらに心拍出量が減るという悪循環に陥る。動物実験では不完全除圧により右心房圧が上昇し、脳灌流圧と冠動脈還流圧が減少することが示されている。臨床では多くの救助者が患者にもたれかかって除圧が完全にはできていないことが示されている。そのため、もたれかかりは最小限にするようにするべきである。

5.過呼吸を避ける。人工呼吸回数は12回未満で胸がわずかに上がる程度

この論文1)はアメリカのもので解説はアメリカ心臓学会AHAガイドライン2010を基礎としている。胸骨圧迫だけの蘇生と人工呼吸を加えた蘇生の成績は同等であるし、アメリカなら人工呼吸については無視してもいいと思うのだが、窒息や小児では人工呼吸が必要なため5つ目のポイントとして解説している。

心停止の原因が不整脈であっても窒息であっても、どれくらいの酸素が残存しているのか不明である。だが心停止によって体全体の酸素要求量は減るため酸素供給は少なくて良い。不整脈による突然の心停止の場合は卒倒当初には体に十分酸素が残っており、有効な胸骨圧迫によって酸素が循環される。動物実験でも臨床研究でも窒息以外の心停止では人工呼吸は不要とされている。窒息の場合は有効な胸骨圧迫に加えて人工呼吸が必要になる。窒息での人工呼吸の有効性は動物実験や臨床研究でも確かめられている。

人工呼吸で胸に息を吹き込めば脳灌流圧は低下し蘇生に悪影響を及ぼす。また人工呼吸を胸骨圧迫に同期させれば、息を吹き込む間胸骨圧迫を中断するため、胸骨圧迫の占める割合が小さくなる。だが臨床では人工呼吸の回数が多い、もしくは一回換気量が多いことはよく観察される。

人工呼吸で気をつけるべきは以下の2点である。
・人工呼吸回数は12回未満
AHAガイドラインでは人工呼吸が行われるのは気管挿管やラリンゲアルチューブなどの気道確保器具を挿入した場合と、患者が幼い場合、それと救助者が多い場合(人工呼吸と胸骨圧迫を分担する)である。胸骨圧迫が1分間あたり100回から120回、息吹き込みの時間が1秒とすると、人工呼吸は1分間に6回から12回になる。動物実験では回数の多い人工呼吸は有益であるという報告と有害であるという報告が分かれるされるが、臨床的には回数の多い人工呼吸は有益であるという報告はなされていない。現在AHAでは人工呼吸の回数は12回未満としている。
・胸がわずかに上がる程度
一回換気量は胸がわずかに上がる程度にする。陽圧換気は心臓が動いているときでも蘇生中でも心拍出率を有意に減少させる。蘇生中に換気量を落としても動脈血酸素分圧は低下しないため低換気が勧められる。加えて、マスクによる陽圧換気は胃への空気流入により胃を拡張させ、嘔吐による誤嚥の原因となる。呼吸の一回換気量や気道内圧のモニターの概念は発表されているものの、現場でのモニターはまだ実用化されていない。

これは基礎

この論文はこのあと教育やチーム医療、国の救急システムの勧告がなされている。胸骨圧迫5原則は基礎として救急医療に携わる全員が覚えておかなければならないものである。わかりきっていることかもしれないがもう一度確認してほしい。

文献

Circulation 2013;128:417-35


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14.8.8/4:08 PM